無題






「当たり、ですね」

小泉ネームレスが手にするは拡声器。
彼に支給されたアイテムの一つである。
彼とて書き手である。
拡声器が死亡フラグであることは誰よりも知っているだろう。
では、何故当たり足りえるのか。

「ミニリピーターロワ、ですか。何故私や空気王氏、ネームレス氏が出場しているのかは甚だ疑問ですが」

クククと、名簿に眼を落しながら彼は笑う。
予想通り、そこに望んでやまない名前があったからだ。
「いい、実にいい!素晴らしいですよ、主催者さん!!企画主には感謝してもし足りません!!」

お姉さま。
彼が心から愛している少女の名前。
無論自ロワのキャラだ。このリピーターロワに出ているのが本人ではないことくらいわかっている。
だが、そんなことは関係なかった。
彼にとっては書き手ロワのお姉さまもまた、愛おしい存在なのだから。
いや、むしろ、書き手ロワのお姉さまだからこそ、だ。
本物の、お姉さまと呼ばれる書き手とは違い、彼女は本来既に失われてしまった存在だった。
それが再び命を得られるのは、原作のないことを考慮すれば、まさに奇跡としか言いようがないのである。

「ははは、あはははははは!」

なら、その与えられた機会を自分はどう使う?
お姉さまを守るため奉仕マーダーと化す?
否。
普通のロワでならその行為も意味を成そう。
しかし、このミニリピータロワは所詮はリピーターロワの為の実験台。
いつ消えるとも知れないお祭り企画。
下手すればお姉さまの登場話すら書かれないまま廃れゆくだろう。
それでは、意味がない。
ただ生き残るだけでは、生き返ったとは言えない。

「お姉さま、お姉さま、お姉さま!」

もはや死者スレ以外で書く機会を失くしてしまったキャラクター。
彼女の活躍をもっと見たかった。彼女を純粋にもっと書きたかった。
その機会は図らずとも手に入れた。
では、自分は何をすればいい?
決まっている。

「お姉さまの、フラグを建てる……」

お姉さまに、ではない。お姉さまの、だ。
誤解フラグでもいい。恋愛フラグでもいい。主役フラグでもいい。因縁フラグでもいい。
面白いフラグを、書いてみたいというフラグを、彼女の為に立てるのだ。
そうすれば、お姉さまの登場する話がたくさん投下される。
彼女の魅力を広めれば、本番のリピーターロワにも出してもらえる。

その為になら自分は鬼にでも悪魔にでも愛のキューピットにでもなろう。
この身を焦がす思いは書き手ロワ3において発揮すればいい。
誰もの印象に残らせる為に最高の鬱展開や熱血展開をお膳立てして、殺すことさえ厭うまい。

幸い僕の得た支給品はどれも他の参加者と彼女の間にフラグを立てるのに向いている。
例えば拡声器。
お姉さまはマーダーです、とでも放送すれば、噂を信じる者や、真偽を確かめようとする者等、
多くの参加者が彼女を気にし、行動を起こすだろう。
結果お姉さまというキャラクターを物語の中心に添えることができるのだ。

「待っていて下さい、お姉さま。僕があなたを活躍させてあげますから」

ありったけの想いを胸に、ネームレスは歩き出す。
さあ、ミッションスタートだ、と。





小泉ネームレス。
彼は只の書き手である。
書き手ロワにも登場してはおらず、故にチートでもない。
ただ、彼の愛だけは、天元すらも突き破るドリルの如く、捻じれに、捻じれていた。





【小泉ネームレス@クロススレ】
【装備】なし
【道具】支給品一式、拡声器、他支給品×2
【思考】
1:お姉さまを活躍させる。
2:その為にも他の参加者との間に彼女とのフラグを作る。
3:上記に反しなければ、お姉さまの死すら辞さない。

※書き手ロワ書き手としてのサガか、メタ視点的な思考をします。



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