無題
静かな森の奥。
今の時間帯が夜という事も手伝って、静寂が支配する場所となっている。
だが、それは唐突に破られる事となる。
――ガ、ガガガ、ガッ……ガーーーー……ピッ……
静かな森に響きのは不気味な機械音。
正直このような場所では場違いと言わざるをえないが、それは常の話。
なにせここはミニリピーターロワの会場。
何があってもおかしくない。
『あー聞こえていますか。私は「お姉さま」と名簿に書かれている者です。
突然このような所に連れて来られて混乱しているかもしれませんが、どうか――きゃ!?』
突然始まった拡声器による呼びかけは、これまた突然中断された。
だが拡声器は途絶える事なく熱心に声を拾って届けていく。
『あなたは! 柊かがみ!』
『拡声器の呪いを甘く見たわね。おとなしく死になさい!』
そして聞こえてくるのは二人が争う音。
聞く限りでは接近戦らしい。
二人の争いはしばらく続いたが、両者共に疲れが見え始めた頃に決着はついた。
『これで終わり――ッ!?』
『こんな所で、死ぬ訳にはいかないんです!!』
『ガァ!?』
最後に聞こえてきたのは一方の少女――柊かがみの呻き声だった。
それが、彼女の最後の言葉になったようだった。
『……はあ……はあ……』
再び拡声器から聞こえる声は一つとなる。
その声が先程より激しいのは何も争ったためだけではないだろう。
『……すいません。私、今、人を殺しました。正当防衛とはいえ、許されるとは思えません。
説得できる可能性もあったのに……一緒に歩んでいける可能性もあったのに……
それを、私は……私は……』
それっきり声は聞こえなくなった。
▼
柊かがみは走っていた。
向かう先は今さっき拡声器が使用されたと思われる場所。
目的はもちろん、拡声器を使った者を殺す事。
「ふざけんじゃないわよ。空気なピンク髪のメガネ巨乳をやって、さあ次だって時になんなのよ、あれは!
頭きたから次はあいつを殺してやる!」
とりあえず大きすぎるという理由でアヴ・カムゥだけはデイパックに戻しておいたが、それでもこの鬼畜装備。
どのように殺すかは思いのままだ。
「見つけた、あいつね」
大木の元に一人佇む人物――お姉さまに違いない。
手には拡声器を持っていて、おそらく殺人を犯したショックで呆然としているのだろう。
これから殺されるとも知らずになんという有様だろうか。
「これでも食らいなさい! ――刺し穿つ(ゲイ)――死棘の槍(ボルグ)!!!」
走ってきた勢いそのままにかがみは魔鎗の宝具『ゲイボルグ』を投擲する。
その勢いは凄まじく一瞬で目標まで到達すると、その身体を貫き後ろの大木へと突き刺さるほどだった。
「へ!?」
だがかがみにはその光景が理解できなかった。
確かにお姉さまらしき人物を貫いてゲイボルグは大木へと突き刺さった――否、これでは語弊がある。
ゲイボルグはお姉さまを『すり抜けて』後ろの大木に突き刺さったのだ。
「は!? どういう事よ、いったい――」
それが柊かがみ@カオスロワの最後の言葉となった。
彼女が最後に見た光景は、デイパックを掴んだまま宙を舞う己の左手と、自身を包み込むオレンジ色の光だった。
▼
「これは予想外でしたね」
そう呟くのはゲイボルグが突き刺さった大木から降り立った古泉一樹――ではなく古泉ネームレスだ。
彼はこのミニリピーターロワが始まると同時に「愛するお姉さまにフラグを立てる」という至上の目的を定めた。
そこでまずは手始めに自身の支給品を使って一芝居を演じたのだった。
その内容は「対主催としてみんなに呼びかけを行うお姉さまが、襲い掛かってきた人物を返り討ちにしてしまって失意に落ち込む」というものだった。
いささか陳腐な内容であったが、まあ所詮はミニリピーターロワ。
あまり凝った内容にしても意味は無いだろう。
襲撃者を柊かがみにしたのは単に名簿にある名前が多かったからだ。
大木の上で二つ目の支給品である蝶ネクタイ型変声機を用いて、拡声器を通して芝居を打つ。
そして最後の支給品のクロスミラージュによる幻術魔法「フェイク・シルエット」で大木の元にお姉さまの幻影を作り出す。
もし声を聞きつけて誰かが来た場合は遠目にお姉さまの姿を見せてから、幻影を移動させて適当な所で魔法を解くつもりだった。
そうすれば傷心のお姉さまを探そうと会場中を駆けてお姉さまの知名度が上がると、ネームレスは画策したのだった。
だがここで問題が発生した。
駆けつけた人物が柊かがみで、尚且ついきなり必殺の攻撃を仕掛けてきたのだ。
まさかの事態だったが、ネームレスは冷静に対処した。
柊かがみはこのロワで4人もいる上に、キャラとして目立っている。
そんなかがみを生かしておけば、お姉さまが目立たなくなってしまう。
お姉さまへのフラグ立てのためにも、ここは邪魔者を抹殺するべきだ。
その思考に至ると、ネームレスはクロスミラージュを狙撃用のブレイズモードに変形させファントムブレイザーで以って仕留めたのだった。
つい最近書いたSSで出てきただけに使い方は分かっていた。
最初に左腕を吹き飛ばしたのは有効な道具がある事を期待したからだ。
殺傷設定で魔法弾は範囲広めで打ったから、かがみは左腕だけ残して完全に消滅した。
「ふう、これでもしもアニロワ2ndのかがみでも復活は無理でしょう」
ネームレスは用心のために左腕も射撃魔法で完全消滅させながら、今後の計画を練り直し始めた。
だがそこに新たな来訪者がやってきたのだった。
しかたなくネームレスは型どおりの挨拶を行う事にした。
「ああ、はじめまして。僕は古泉ネームレスという者です」
「俺はエースだ。くそ、死んだと思ったらまた殺し合いか」
そこでふとネームレスはあることを思い出した。
確かエースは書き手ロワ2ndではマーダーとして最強のストライカーを目指していたはずだ。
もしここでもマーダーのスタンスを取るなら、お姉さまにとって危険を及ぼす存在になりうる。
ネームレスはその辺りの事情を聞く事にした。
「エース氏はこの殺し合いに乗る気は?」
「いや、ないぜ。
前はマーダーで最強のストライカーを目指したが、今度は対主催で最強のストライカーを目指してやるぜ。
ところでさっきこの辺りでお姉さまの――」
「エース氏もでしたか。実は僕もお姉さまの声を聞きつけて来たのですが、一足遅かったようですね。
あそこの戦闘痕も気掛かりですし、ここは二手に分かれて探しませんか」
「いいぜ、じゃあ俺はあっちの方に行くか。また後でな」
そう言い残してエースはお姉さまを探しに去って行った。
とにかくネームレスとしてもエースがマーダーではない事にほっと一安心だった。
「さて……次のフラグを立てに行きますか」
ネームレスは行く。
愛するお姉さまにフラグを立てるため、そしてお姉さまを活躍させてミニリピーターロワという物語の主人公にしてさしあげるために。
【古泉ネームレス@クロススレ】
【状態】健康、溢れんばかりのお姉さまへの愛
【装備】クロスミラージュ、蝶ネクタイ型変声機
【道具】支給品一式×2、アヴ・カムゥ、拡声器
【思考】
1:お姉さまを活躍させる。
2:その為にも他の参加者との間に彼女とのフラグを作る。
3:上記に反しなければ、お姉さまの死すら辞さない。
※書き手ロワ書き手としてのサガか、メタ視点的な思考をします。
【エース@書き手ロワ2nd】
【状態】健康
【装備】不明
【道具】支給品一式、不明支給品×?
【思考】
1:お姉さまを保護する。
2:対主催として最強のストライカーを目指す。
【柊かがみ@カオスロワ 死亡確認】
※柊かがみ@カオスロワの装備していたものはかがみ共々消滅しました。
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