OP






〜〜〜……〜ャマ〜…〜〜〜…


ヤマ……山?
またASEの任務で山に行かなくっちゃいけないんすか?
今回ばかりは本当に勘弁してくださいよ百舌鳥さん……。
俺もそろそろ真剣に進級がかかって来たんすから。


〜〜……〜〜ヤマ…〜〜〜…〜〜…


いや、せめて高卒の資格ぐらいは欲しいっすから。
流石に中卒はキツイです。
出席日数が洒落になんない事態まできてるんすよ本当。


       ヤーマ


「いや、だからやめてくださいってば!」

俺は思いっきり椅子から立ち上がって百舌鳥さんに講義した。
後、と言うよりは今現在が怖くて仕方が無いがしょうがない事なのだ。
一度くらいはキッチリと言っておかなくてはならない。
俺はASEのマルチドライバー兼高校生。
ASE内での身分はまだバイトの域を脱していない。
つまりは本業である学生としての本分を全うしなくてはならないのだ。
そう、立ち上がる際に勢いよく両手を叩き付けた机に教科書と筆記用具を置き、
目の前に立っている髪の毛の薄い教師の説明した事項をノートへと書き写すべきなのだ。
………机? 教師?

「そうか斑鳩。お前もそう思っていたのか。
 奇遇なもんだな。丁度俺もいい加減寝るのを止めて欲しいと思っていたところだよ」

額に青筋を立てて、笑顔のまま小刻みに体を震わす教師の言に俺の意識は完全に引き戻された。
そうだ! 百舌鳥さんは既に引退したし、俺にはしばらくASEの仕事は回ってこない!
俺は卒業するまでの間、平穏な暮らしを約束されたはずなんだ。
銃弾や核爆弾に怯えることなく暮らせる暮らしへと……

しかし、急にこんな夢を見てしまうとは一種の職業病かもしれない。
カウンセラーでも雇ってみるかな……。
いや、金がもったいないから止めておこう。
あぁ悲しき貧乏性よ、俺は大金持ちなのに今更何をケチるのだろうか?
額に右手を当てて大きくため息を吐いた。
が、その行動は教師の逆鱗に触れた上に油を注いでしまったようだ。

「斑鳩あッ! ため息を吐きたいのはコッチだ馬鹿野朗!!」
「すっ、すみません」

先生……ハゲ頭が真っ赤で蛸みたいですよ、などとは小市民の俺に言えるはずが無く素直に謝罪しておいた。
俯いて教師の説教を聴いてるふりをしながら学友共の顔を覗いてみる。

寺西は……思いっきし笑ってやがる畜生。
ふと視線を左へとずらした……そうか…小野……お前もそっち側の人間か。
いや、むしろこいつら二人に期待するのが馬鹿だったよ。
救いを求めて松崎を見た。
苦笑しながら手を合わせやがった……。まぁあの二人よりはましだよな。
と、教師の説教を凌いでいる俺の耳に夢の中で聞こえたいまいましい声が飛び込んできた。



我が名はヤーマ、裁定者なり。


「!?」
いや、耳に飛び込んできたのではない。何と表現すればよいのだろうか?
あえて言うならテレパシー。脳に直接情報が流れ込んでくる感じだ。
教師の言葉は既に耳に入らなくなった。
コンピューターの合成音声のような不自然な物にも関わらず妙な威厳を感じさえる声。
その声が続ける。


貴様は選ばれた人間だ


今から他の選ばれた人間達と共に――――


「共に何なんだ!?」

周りの目を気にせずにありったけの声を出して叫ぶ。
教師も異常な様子に気付いて長々と続くであろう説教を一時中断した。
そして、ヤーマと名乗る謎の声はハッキリと告げた。


殺し合いをしてもらう


そう聞こえた次の瞬間、俺は見知らぬ小道にいた。
本当に田舎の道で、舗装されていない土がむき出しの路面の両脇には美しい花が咲き誇っている。
暖かな日差しに、何時もの俺なら睡眠欲を掻き立てられるのだろうが現状はそうも言ってられない。
先ほど聞こえた殺し合いをしろという声。
いきなり見知らぬ土地に飛ばされたこととあの声が無関係なはずが無い。
警戒を絶やさずに辺りを見渡していると、自分の丁度真後ろに一人の少女がいることに気が付く。

「君は?」
「私の名前はアリス。お兄ちゃんも参加者みたいだね」

平然とした様子で語るアリスと言う少女。
金髪に、青と白を基調としたドレス。
彼女は『不思議の国のアリス』の主人公に非常にそっくりだった。
完全な不意打ちに戸惑い、動けない俺を他所に彼女は外見に相応しい幼い声で嬉しそうに話しかけてくれた。

「じゃあ、この殺し合いのルールを説明するね。
 まずは勝利条件。それは他の参加者を皆殺しにして最後の一人になる事」
「おい! ちょっとまってくれ――」

俺はそこから先を言う事ができなかった。
アリスの顔が愛らしい表情から一転して歪みきった笑みを浮かべていたからだ。

「ちなみに、お兄ちゃんたちが会場に入ったときに首輪が付けられるからね。
 首輪には爆弾が仕掛けられていて、迂闊に弄ると……ボン!」

アリスは呆然とする俺に構わずに話を続ける。

「爆発の作動条件は大まかに言うと、首輪を外そうとする、禁止エリアに入るの二つかな?
 後、優勝者には素敵なプレゼントがあるから頑張ってね」

話が一通り終わると、アリスはリュックサックを一つ俺に手渡してきた。

「はい、これが支給品。食べ物や地図の他にランダムで道具が入ってるから殺し合いに有効活用してね」

握らされたカバンの重さに我を取り戻す。
戸惑いが一番大きいが、怒りが沸々と湧いてきた。

「アリス! なんで俺たちはそんなことを―――」

俺…の言葉は………最後まで続……く事は無かった。
徐々に…意識が……遠のいて…いった…………から…



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