二人、静かに






 森の中。一組の男女がいる。二人は無言。ただ、電子音だけが僅かに響いている。
「なぁ」と、しばらくぶりに♯7-76が口を開いた。
「なんだよ」と、しばらくぶりに暇人が答えた。
「あんた、煙草持ってないか?」
「俺吸わねぇから」
 そう答えた暇人の視線はゲームに向けられたまま。
 ♯7-76は軽く舌打ちして、
「つまんねぇ奴」
 と言った。
 沈黙。電子音だけが僅かに響いている。
「あー。そういやさ、おまえの支給武器って何だった?」 
 思い出したように言う♯7-76。どうせ、たいした物もらってないだろうけどな。
「その鞄の中。自分で探してくれ。俺今手が離せない」
「いくら何でも意地になりすぎだ……って、おい」
 鞄の中から出てきたのは拳銃一挺。デリンジャーとか言ったか?
「当たり引いてるじゃないか。おまえ」
「だからどうした? 暇つぶしできないだろ、それじゃさ」
 俺にはこっちの方がずっと嬉しい。それだけ言って、またゲームの方に集中する。
 その横で、♯7-76の目が、徐々に異様な光を帯びてきていた。

「……おい」
 女が男に呼びかけた。右手には男の支給武器。こめかみにねらいを付けている。
「ちょっと待て……っっっくそ。終わった」
 軽く首を振ってP/ECEを地面に置く。画面にはGAMEOVERの文字。
 で、今度は何だ。と顔を横に向ける。
 視線のすぐ前、目の前にある、黒い銃口。
「……驚かないのか」
「まーな。どうせ俺みたいなのが長生きできるとも思えないし。ここで殺されるのも、まぁ一興ってやつだろ。
 そうだ。俺殺すならさ、ついでにこいつも壊して、俺の手に握らせといてくれるか? 三途の川渡るときにやるから」
 何の気負いもなく、感慨もなく、暇人は淡々と言った。
「いいのか、それで」
「いいさ。べつに」
 僅かな間。やがて、♯7-76は銃に左手も添える。両手でがっちりと保持したデリンジャーを、暇人の眉間に向ける。
 そんな光景にも、暇人は興味を示さず、顔を元の位置に戻して地面からP/ECEを取り上げる。
「……つまんねぇ奴」
 ♯7-76は銃を投げ捨てた。二人から少し離れたところに落ちる。
「なんだ。撃たないのか」
「撃っても良かったんだけどな」
 代わりに拾った木の枝を、くるくると指で回しながら、女は言う。
「マーダー化しても、たのしくねぇだろ?」
 暇人はそれを聞いて笑う。
「おまえ、俺と似てるな」
 ♯7-76も笑う。
「キャラかぶってるよな。お互い」
 そして笑った。
 この島に来て初めて、本当に笑った。

【デリンジャー、二人から少し離れたところに転がっている】
【二人の関係は??】



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