ストラトス・アフォー






「そいつの扱い方、教えてあげようか?」
 声がした。
 途方にくれて地面に寝転がっていたいつか(10番)は、億劫そうに顔をあげる。
「……?」
 目の前には、ツインテールの少女。
「あれ。あの人形。遣い方を、教えてあげる」
 そういって、少女はあるるかんを指差した。

「自動人形?」
「そう。メイドロボでもアンドロイドでもなんでもいいの。
 ようは自分で動くことの出来る人形、メカに対して、
 あの人形は効果的に倒すことが出来るの」
 189(43番)と名乗った少女は、いつかにそう説明した。
「……はぁ、でも動かすことすら出来ないんだけど」
「コツがあるのよ」
 189はそう言ってあるるかんを繋ぐ糸を指に嵌め、くいっ、と動かす。
 ごぅ、と音と共に、いつかが幾ら引っ張っても動かなかったあるるかんが立ち上がる。
「うぉ」
「……ね?」

 一通り動かした後、あるるかんを座らせた189は、いつかと共に近くにあった喫茶店へと入る。
「……でも、人間じゃなくて人形……じゃなくてロボか。そんなやついるのかね?」
「いるよ」
 189は断言する。
「……少なくとも、私は見たわ。手首からマシンガンをぶっ放していた自動人形を。
 アレは放っておいたら、絶対人を殺し続ける。だから、それを止めないと」
「ふむ……」
 ――突飛な話だと思いつつ、いつかは梅こぶ茶をすすった。
「きっと、あの自動人形は支給武器だったと思う。
 だったら、アレを簡単に倒せる武器もきっと支給されていると思って探していたのよ。
 結構早く見つかってよかったわ……」
 そう言って、いきなり189はいつかに頭を下げる。
「お願いっ、あの人形と共に私に力を貸してくれないかな?」
「……はぁ」
 ちょっと面食らったいつかは高速で思考を回転させる。
 この娘と一緒に行くのは、死の危険がつきまとう。
 ――でも。
 まぁ、ここで途方にくれた状態で100話ぐらいスルーされるよりはマシだろう。
 生き様としては。きっと。
 いつかはそう結論を出すと、梅こぶ茶を飲み干す。
「わかった。ただし、あの扱い方を俺にも教えてくれないか?」

「……あっ」
 いつかと話していた189は、突然悲しい声をあげた。
「どうしたんだ?」
 不思議に思い、いつかは尋ねる。
「うに……もう、行かなきゃ」
「どこへ?」
「189は5の夢なんだよ。
 だから、5がいなくなったら、189も消えるの。
 悲しいけど、残念だけど」
「ちょ、ちょっと待てっ! いつそういう設定が!?」
 いつかのツッコミに、189は答えない。
「他の数字コテハンに会ったら、ありがとうって。
 5も189も楽しかったって。
 じゃ、さよなら……もう会えないけど、これは知ってたでしょ?」
「いや、人形遣いや消失ネタはともかく、その台詞はヤバイって!」
 いつかが叫ぶ。その声は届かない。
「消え……た……?」

 後には『はじめての人形遣い』と云うタイトルのマニュアル本が残るだけだった。

「あの娘、これで勉強したのか……」
 見ると、ポイントと思われるところに付箋や赤でアンダーラインが引いてある。
「しゃあねぇ……自動人形退治……やってやるか」
 いつかはそう決意する。成り行きとはいえ、約束してしまったんだ。
 だったらやるしかない。そう思いつつ、あるるかんのところへ戻る。

 片膝を立てた状態で置いていたあるるかんは、
 ――頭部が粉々に粉砕されていた。

「……だめじゃん」
 そしていつかはまた途方にくれた。

【43:189 消失】
【残り36人】

【あるるかん 大破】



前話   目次   次話