黄印行動論
シイ原の死体を冷たい視線で見下ろしている者がいる。それはYELLOWであった。
「アンタは負け犬だ。死体にむち打つようなことはしたくはないし言いたくもないが、
これは事実だ。葉鍵板の一時代を築いたアンタに悪いが、アンタは負けたんだ…」
視線以上に冷たく不可解な言葉を放つYELLOW。彼の行動原理に照らせば、ある
意味それは当然な事でもあった。
こうして野に屍を晒す羽目になった輩どもは、なぜ己の中心にソープを置くことが
出来なかったんだろうか。彼には不思議でならない。貴様等はピンサロやヘルス
で満足できるのか? あまつさえストリップで心の飢えを満たせるとでも、シイ原は
考えていたのだろうか。
自分はソープに行きたい。それはYELLOWを突き動かすパトスでもあり大前提でもある。
そしてその思いを必ず現実にする──それは奇跡なんて安っぽいものではなく、努力と苦労の上に彼自身が実らせる果実なのである。
しかし、いくら意志の力が強くても、体力がそれについて行かない場合が往々にしてある。
彼の場合がまさにそうであった。さっきから走り通しであった今の彼の体は、認め
たくないことであるが、ソープよりもまず休息と補給を求めてた。
ロケーション的にもシチュエーション的にも最悪であるが、YELLOWはシイ原の遺
骸の傍らに腰を下ろし文字通り一息をつくことにした。
座り込んでみると、シイ原の遺骸の側にアリの巣がぽつん、ぽつんと、築かれている
のにYELLOWは気づいた。
「アリの巣か…何もかも皆懐かしい」
今でこそ、ソープに狂乱している彼ではあったが、幼きころにはアリの巣に爆竹を
仕掛けたり熱湯を注ぎ込んだりして遊んだという、かわいらしい一面も彼にはあったのだ。
ふっ、とアリの巣穴を眺める眼に暖かみが加わる。
こうしてYELLOWは、アリの巣穴にローションを垂らしてティッシュで栓をするという戯れに
興ずることにしたのだった。
「ああ…なんだか…久しく忘れていた大切な何かを取り戻した気がする…」
大切なものを取り戻していても、大事な何かを失ったことに彼は気がつかなかった。
【ティッシュ3枚 ローション1/10 消失】
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