夕暮れの遭遇
「はぁ、はぁ……」
日が落ち始め、夕暮れの朱に染まる雑木林の中を「。」(女・3番)は進む。
足取りは何時に無く重い。
その手に持つ銃も、破壊力のあるイングラムではなく、軽量のコルト・ガバメントである。
(失敗した…かな?)
別に戦闘で負傷した訳では無い。
彼女の体を蝕んでいるのは、疲労。
幾ら頭脳明晰とは言え、その体は12歳幼女のそれである。
疲労の度合いは他の参加者より格段に早い。
桐山やハカロワ浩之のように、あっちで戦闘、こっちで戦闘等とできる体力は元々無いのだ。
そこを読み違えたのは、自分がハカロワでも特に不死身度の高かった彰を書いていた故か。
「服を着替えたからって戦闘の疲労が取れる…って都合良くは行かないか…」
T.Tを殺害した後、民家に入って血に塗れたセーラー服から新しい服には着替えた。
だが、彼女には彼の血が未だ体にこびりついて自分の足を重くしているように感じる。
更に、#3-174を逃がした事による、精神的な疲労も大きい。
もし、彼が生きていて他の参加者に自分の正体をばらしてしまったら―――
自分は、この身体の数少ないアドバンテージをも失う事になる。
やはり、当初の予定通りもっと参加者が減ってからマーダーになるべきだったか…等という考えが浮かび、慌てて首を振る。
過去を悔やんでどうする!
今考えるべきなのは、これからどうすべきかだ。
現状では、戦闘はほぼ無理だ。
できれば、また誰かに取り入ってそこで一旦身体を休めて―――。
ズルッ
「なっ!?」
肉体、精神的疲労による、注意力の欠落。
しまった―――と考えた時にはすでに遅かった。
足を踏み外した彼女は、急な坂を転がり落ちていった―――。
L.A.R(男・4番)は迷っていた―――というより途方に暮れていた。
日がもう沈みかけている。
次の放送もそろそろだろう。
かれこれ、ゲームが始まってから18時間。
なのに、自分は彗夜の「す」の字も見つける事ができない。
「どうすればいいんだ……」
もしかして、彗夜はすでに殺されていて次の放送で名前が呼ばれるのでは無いか、等という考えまで浮かぶ。
そうなったら自分はとんだピエロだ。
何のためにマナー(゜Д゜)と別れ、挽歌さん達の誘いを蹴ったのか。
そんな時だった、目の前に一人の幼女が倒れているのが目に入ったのは。
(……あれは?)
とりあえず、警戒を解かずに近寄る。
その手に銃が握られていたからだ。
いきなり起き上がってきて、ズドン。なんて事になったらたまらない。
ある程度近づいて、本当に気絶してるのを確認する。
「確か、彼女は……」
自分より前に出発した3人。
危ない女装野郎(あの冒涜行為はコスプレとも言い難い)、命。
脱出の誘いを自分にした、挽歌。
そして、今自分の腕の中で気絶している、「。」嬢。
「………」
L.A.Rは、彼女の手からコルト・ガバメントを取ると2つの鞄を肩にかけ、彼女を抱いたまま歩き出した。
(マナー(゜Д゜)さん、勘違いするなよ)
今はもう居ない、腕の中に居る少女を守りたいといっていた男に語りかける。
別に彼が守りたかったと言ったから彼女を助けた訳じゃない。
彗夜を倒す事を諦めた訳じゃないし、その決着を付けるまでは誰ともつるむ気は無い。
(ただ―――、こんな子供を見捨ててまで、復讐に走るような屑野郎にはなりたくないだけだ、俺は)
空を見上げる。夕陽は何も語らない。
だが、彼は「素直じゃないですね」というマナー(゜Д゜)の声を聞いた気がした。
心を殺しマーダーとなった少女と、迷いの中心の拠り所を模索する青年。
この2人がこの先どうなるか、それは誰にも解らない。
【L.A.R コルト・ガバメントを入手】
【。 イングラムは鞄の中】
前話
目次
次話