約束
「七瀬さん!」
わたしは建物から出てくる七瀬さんに声をかけた。一人待っていることの危険は考えたけど、一番信頼のおける七瀬さんにどうしても伝えたいことがあったから。
「瑞佳……」
その顔は憔悴しきっていた。彼女のこんな表情は今まで見たことがない。それも無理のない話だけど。わたしだって、今にも泣き出してしまいそうだ。
「ねぇ、これからどうする……? どうすればいいと思う?」
「うん。浩平を助けたいけど……」
「だけどっ!! そのために人を殺せって!!
そんなこと出来るわけ……」
普通はそうだ。例え誰かを助けるためとはいえ、それが大事な人であったとしても、人を殺すという事実は重たすぎるんだ。
でも、わたしは決めた。それを話すために、七瀬さんを待っていた。
鞄の中から、『武器』を取り出す。小刀だった。これで人を殺せるのだろうか。
「瑞佳?」と彼女は怪訝な顔をする。わたしはその手に刀を握らせる。
「これで、わたしを殺して。その代わり、二人目からは躊躇しないでくれる?」
「……何を言ってるの?」
「だって……」声が詰まる。「わたしよりも、七瀬さんの方が強いから……。浩平を助けたいよ、わたし……」
パンッ。と乾いた音がした。頬が、いたい。
「……馬鹿。そんなの、逃げてるだけじゃない……あたしに汚れ役背負わせて」
「……浩平を、助けたいんだよ」
「だったら……そんな覚悟があるなら。あなたが……」
言って、私に刀を返す。続いて鞄に手をいれた。
「それ……」
「この刀。あたしの武器らしいの。お揃いね」
「七瀬さん?」
「あの馬鹿を助けてあげないと。こんな時まで迷惑かけて、ホント、馬鹿……」
「え?」
「瑞佳の気持ちはわかったから。覚悟も、わかったから。
最後まで生き残るわよ。約束」
言って、笑った。こんなにも痛々しい表情があるのかと、わたしは思った。
だけど、それがとても頼もしかったんだ。
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