気まぐれ
陽が溢れ射す廃ビルの中、五代は憔悴していた。
藤堂(あの親の七光りヤロウ!)が各高校から選出した生徒を呼び寄せ突如開催したこの“大会”。
参加者に配給されたナップザックの中には食糧その他が詰められていた。
武器となるべき日常品もだ。
彼、五代奨が引き当てたものといえば、
“ハリセン”
である。
確かに自分にとっては手に馴染む。これはいい武器だ。
だがそれは日常茶飯事の喧嘩や暴力行為解禁のスポーツの場合の話。
ほんの数十分前、藤堂護は高らかに宣言した。
『皆にはこれから殺し合いをしてもらう』
そう―――殺し合い。
現代日本の一般的な学生達には非日常な行為を普遍的と捉えるこの大会。
確たる証明として既に生徒一人が、自分達の目の前で殺されている。
そんな状況で果たしてこのハリセンがどこまで役に立つか?
そもそもハリセンとは、日常品なのであろうか?
(冗談じゃねぇ)
棒術遣いのジャパニーズ角刈り男は、ただぢっと自分の相棒となったハリセンを見つめていた。
荒れ果てたビルの中に彼以外の生き物の気配はない。
外から、けたたましく鳴く油蝉の声が響いていた。
(じょーだん じゃねぇ)
何もありはしない、ひび割れた壁をぼんやりと見つめ、
繰り返し繰り返し胸の内で呟きながらも、
彼の手はナップザックの中身をまさぐっていた。
「せんべい、せんべいと…うおっ、あるのかよ!
気が利くじゃねえか、へっへっへっ」
彼にとっては憔悴などこの程度のものである。
好物の海苔煎餅を見付けてしまえば大概の不快感など野生動物の如く吹っ飛ぶ。
普段通りならばその筈だ。
キレると手がつけられない。
わけがわからない。
そんな、とんでもない乱暴者として恐れられるが、彼は元来気の優しい男だ。
木刀を支給されていたとしても、よし、全員殺して生き延びよう、と簡単に決意はしない。
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