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「何故、神は顕れなかったのか……」――赤のフードの男の声。
「結果として、アレフもザインも真実民衆が思う部分では救世主になっていたはず……」――緑のフードの男
「人工メシアプロジェクト自体に不備があったと考えるべきか……」――黄色のフードの男の声

光の差し込まぬ広大な部屋の床に座り込む3人の男たち。
並び立つ、白く装飾の施された柱。一段高みに設置された祭壇。
そこは神殿のごとき壮大さと神聖さを強調していながら、どこまでも暗い。
人を拒絶する暗がりがそこにはあった。
ここには、3人を除き人の姿はない。――いや、まったく人の姿はないというべきか。
なぜなら、彼らは人ではないのだから。

「ならば……方向を転換せねばなるまい。神はどうすれば顕現する?」
「……すでにこの世界に降り立つことはないのかも知れぬ」
「おお、お前もあの痴れ者『後方の青』と同じことを言うというのか?」

緑のフードの存在は、首を横に振った。

「この世界、この時間、この星、この流れ、この人間……そのどれかに不備があるだけよ
 ならば、そのどれかが分からぬ以上その全てを満たし神への呼び声とすればいい」

赤のフードの存在は、大きく頷いた。

「ならば、『こことは違う別なる世界』に、『この世界でありこの時間にはない生命』、
 『この世界の別なる星で生誕した生命』、『別なる世界の生命』、『別なる世界の流れを辿った生命』を
 招き、神を呼べばいい」

黄色のフードの男は、何かを祝福するように手を空に掲げた。

「神への祈りを満たすのならば、彼の者たちに極限を与えればいい。
 人は真に無力を知った時、神を知る。それでもなお救われんとするならば、
 そこは、祈り、生命の輝き、人の業、すべてが満ちた世界となるだろう」



三つの、人ならざる何かが謳う。

「さあ、その命を選別しよう」
「さあ、人に与える試練を決めよう」
「神は必ず聞き遂げるだろう」

そして、彼らは立ちあげる。
人工メシアプロジェクトに代わる、神降ろしの儀式を。
その名は ――― バトル・ロワイアル プロジェクト。

「ふむ……では、始めるか」

暗闇ばかりが広がる部屋に、赤のフードの男の声が響く。
彼が手を振るたび、床の影に凹凸が増えていく。
一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二、十三…………
今の今まで、人がいなかったはずの場所に、次々あらわれるものは――生贄。
一人が体を起こすと、連鎖を起こしたかのように皆が体を起こし、何か声を上げる。
ざわめきを聞き、赤のフードの男は静かに頷いた。
光なき暗闇の神殿に、男の声が響く。


「ここに集まってもらったお前たちは、選ばれたと思ってほしい」


一段高い祭壇の上にいる赤のフードの男の、低い声が床を這い、呼び出された全員の耳へ届く。
そこにいる全員の視線が、当然ながら赤のフードの男へ向いた。
その目一つ一つを、フードから覗く瞳は睥睨していた。
そして、赤のフードの男は、告げる。

「お前たちには……殺し合ってもらう」

あまりにも、突拍子のない言葉だったからだろう。
一瞬だけ、ざわめきが消えた。だが、その次の瞬間その反動の如き怒号。
「ふざけるな」「お前はなんだ」「ありえない」「ここはどこだ」
そんな声を受け、顔をゆがませる赤のフードの男が、一度指を弾く。
それだけで、不協和音は消える。
呼びだれたものは、喉を押さえ、空に向かって声を出そうとしているが音は出ない。
さらに、もう一度指を赤のフードの男は弾く。
すると、その場にいる人間の足元に白い十字が生まれ、その先端が四肢を縛り付けた。
声も出ず、手足を押さえられ――まるで平服したような姿勢になる。

「では、仔細を語ろう。規則に関しては……」

そう話し始めた赤のフードに割り込んで――雄叫びが響いた。
眉をひそめ、赤のフードの男は、雄叫びをあげた者へ言葉を投げる。

「大人しくしておけ。
 所詮、信仰も廃れた今のお前が私たちに勝てると思っているのか。
 ……アスラ王!」

顔だけを動かし、残りの29人が「アスラ王」と呼ばれた者を見る。
そこにあるのは、6本の腕と、真っ赤な体を持つ巨人。
白い戒めすら破り、両の足で屹立する姿は、場の何よりも力にあふれていた。

「黙るがいい……
 お前たち天使の欺瞞など聞けるものか! 
 私をこの場で呼び出したことを……後悔するがいい!」

空気を引き裂く衝撃波〈ソニック・ブーム〉。
赤い軌跡のみをその場に残し、一瞬で赤いフードに肉薄する巨神。
そのまま、大剣の鋭さを持つ深紅の手刀が大地に六刀叩きつけられた。

「やめておけと言ったはずだ。私一人ならまだしも我々にかなうと思っているのか?」

六本のうち二本ずつを、赤と、黄色と、緑のフードの男が受け止めていた。
赤のフードの男の呟きが、目を覆わんがばかりの白い閃光となり、アスラ王を打ちのめし、吹き飛ばす!

「ぐ、うううう……神の犬ごときが……!」

祭壇の中心点から見て、左――つまり、右方に赤のフードの男。
祭壇の中心点から見て、右――つまり、左方に緑のフードの男。
祭壇の中心点から見て、一段下――つまり、前方に黄色のフードの男。
なぜか、後方のみはない。

赤のフードの男は、フードの下から腕を出す。
アスラ王より若干薄い程度の赤さの、朱色の腕。天然自然なら、ありえない色だった。

「天軍の剣よ。我に力を」

そして―――斬撃。
一撃だった。超巨大な金色の輝く、輪郭すらわからぬ巨剣が、
一瞬後にはアスラ王に振り下ろされ、片口から腹のあたりまで切り裂いていた。
それでもなお、戦意を喪失しないアスラ王。一度付いた膝を持ち上げ、動く腕で構えを取る。

「さすがは大日如来と古来より日本で伝わる戦神。だが、ここまでだ」

黄色い男が、アスラ王の首を指さし言う。

「お前たちの首には、刻印が施されている。
 もし、私たちが定めた条件を満たせば、
 刻印に刻まれた天罰術式によりその身は土くれに還る」

アスラ王が首を押えてそれを確認しようとする。しかし、



「このように、な」

アスラ王の体が、土くれとなり、泥として崩れていく。
そのまま、重みに耐えかねたように崩壊した泥像を見下し、緑のフードの男は言葉を続ける。

「では、規則の説明に戻ろう」



【アスラ王@真・女神転生 死亡】
【バトル・ロワイアル スタート】




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