殺し屋と警察官
男が目覚めたのは灯台の展望だった。
見晴らしの良いこの場所でタバコを咥え、穏やかな海を見つめ考え耽る。
その男、阿紫花英良は始めに集められた部屋での出来事を思い出していた。
無残にも上半身と下半身を裂かれて殺された少女の事を。
いや、それよりも強く脳裏に焼きつく主催者の美女の冷たい眼を・・・
「しかし殺し合いねえ。世の中には酔狂な嬢ちゃんも居るもんだ。」
もちろん主催者の女が人間でない事ぐらい、化け物と戦った事のある阿紫花にはその雰囲気で察知できた。
「はぁ・・・これからどうしやしょうか。」
世の中の裏社会で殺し屋をしてきた阿紫花である。
そして真夜中のサーカスとの戦いで死を覚悟した事もあった。
殺し合いなど今更恐れる事などではない。
しかし、殺しあえと言われても躊躇してしまう。
参加者に女子供が居るからか?
違う。女子供と言えど金を積まれれば殺してきた。それが黒賀の人形遣い「ぶっ殺し組」だ。
では、その金が積まれていないからか?
違う。最近は誰のお陰か割に合わない仕事もしてきている。
答えは一つ。
「あの時を思い出していけねえや・・・」
自動人形と呼ばれる奇妙な化け物共と戦う、これまた奇妙な人形遣い達しろがねとの戦いに何の因果か参加していたときの事である。
真夜中のサーカスを束ねる最古の四人の一人、パンタローネ。
その圧倒的な恐怖感に恐れをなし、ただ言われるがままどいてしまった自分に無性に腹が立った。
今、あの女の言う事をきいてしまうのはそれを繰り返す事と同じである。
阿紫花が感慨に耽るのもそこまでだった。誰かが階段を上って来る。
マーダーの可能性を考慮し、支給されたナイフを構え臨戦態勢をとる。
が、相手は間の抜けた口調で話しかけてくる。
「おや、どうも。まさか先客がいるとはね。」
声をかけてきた後藤喜一と名乗る警察官。
阿紫花に警戒もせずに、まるで昔からの友人であるかのように話しかけてきた。
本人が言うには見晴らしの良い場所で少し休憩をしようとした所だったらしい。
後藤本人は殺し合いの場でいきなり出合った阿紫花に大して恐れる事もせずに他愛無い世間話を続ける。
なかなか、喰えない男だ。阿紫花はそう感じた。
「で、旦那はこれからどうするんですかい?」
話題も途切れ、本題を出したのは阿紫花だった。
「警察官として、こんな馬鹿馬鹿しい事は止めさせる。
と言いたいところだが、それをやるには一筋縄じゃいかないさ。
この島を脱出するにも、腹の中にいる化け物をどうにかしなくちゃならない。
それにゲームに乗ってる奴もいるかもしれんしね。」
飄々とした態度や口調は世間話をしていた時とは変わらない。
しかし、後藤の目付きがハッキリと違う事に阿紫花は気づいていた。
「でだ。おたくに頼みがあるんだが聞いてくれやしないか?」
「へぇ、そいつぁ一体なんです。」
「とりあえず、俺の部下を探したいんだが皆目見当が付かない。
それに俺は指揮を取るのが専門でね。自分から戦うというのには慣れちゃいない。
で、どうだろう。おたくも中々修羅場潜り抜けてるみたいだし、
俺の可愛い部下が見つかるまでボディーガード頼まれちゃくれないかな。」
阿紫花は思案する。どうせ何もやることは決めていなかったのだ。
損得勘定抜きでこの男と一緒に行動するのは面白そうだ。
「・・・で、お代はいかほどいただけるんで?」
【I-10 灯台/ゲーム開始から一時間半経過】
【阿紫花英良@からくりサーカス】
[状態]:健康
[装備]:オリハルコンナイフ@スプリガン
[道具]:荷物一式(食料&水:2日分)
[思考]:1.面白そうなので後藤に付いて行く
2.ゲームには乗らない
3.降りかかる火の粉は払う
【後藤喜一@機動警察パトレイバー】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(食料&水:2日分)支給品(不明:本人は確認済み)
[思考]:1.野明、太田と合流
2.ゲームの阻止
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