うるさい出会い






人気のない荒れた道を、二つの人影が素晴らしいスピードで駆け抜けていく。
「まちやがれ!」
そう叫び追いかけるのは、白髪の隙間に犬耳を生やした半妖の少年、犬夜叉。
「うわああああぁぁぁぁぁ!私は食べてもおいしくないぞ〜〜〜!!」
泣きながらそう絶叫し逃げ惑うのは、イタリア生まれの絶世の美男子、パルコ・フォルゴレ。
犬夜叉の身体能力をもってすれば一般人に追いつくことなど容易いはずのだが、目前の男は犬夜叉が行手に回り込もうとすると途端に進路を
変え逃げ続けてしまうのだ。
見た目は人間だが実は妖怪なのではないかと疑いたくなってしまう程の素晴らしい勘に、気の短い犬夜叉はイライラと舌打ちをする。
それに、男の勘に加えて、まるであの白霊山の結界の中にいるような不愉快な束縛感が犬夜叉の身体能力を低下させている。
(ちっ。どうなってやがる?!)
何がどうなっているのか全くわけがわからないが、面倒なことに巻き込まれたのは間違いないだろう。
これが奈落の作り出した状況なのか、それとも全く別な妖怪の仕業なのか。
(かごめ……!)
自分と同じようにこの島に放り込まれたかごめをさっさと探し出さなければならない。
かごめの持つ霊力はたしかに物凄いが、彼女には戦う力などこれっぽっちもない。
目前の男を追いかけているのも、元はといえばかごめを見かけなかったか尋ねたかっただけなのだ。
だが犬夜叉の容姿と生来の喧嘩腰な口調がこの状況と合わさって誤解を招き、このような不本意な追いかけっこを始めるはめになってしまって
いる。
「ちっ!このままじゃ埒があかねぇ!」
そう舌打ちをした犬夜叉は、立ち止まり、道端に転がっていた石を拾い上げた。

「止まれって……言ってんだろうが――――――――っ!!」

どごっ

鈍い音をたてて、投げられた石は見事に男の頭部に命中した。
もちろん手加減はしている。
犬夜叉が力いっぱい投げたら普通の人間は死んでしまう。
背後からの衝撃に、金髪の男は「わああああぁぁぁぁぁぁ」と騒ぎながもんどりうって転がった。
そのあまりのオーバーリアクションに、犬夜叉も力加減を誤ったかと心配になり慌ててその男へと駆け寄る。
「おい…生きてんのか?」
「…いーえ。私はもう死んでいます」
「……」
真面目だか不真面目だかわからない言葉返され、犬夜叉は無言で男の頭を殴りつける。
「痛い〜〜〜!!ひどいじゃないか死人を殴るなんて!」
「死んでねぇだろ!」
間髪いれずにもう一発、突っ込みの一撃を加える。
また転がりながらわめく男にこれっぽっちの同情もせずに、犬夜叉は不機嫌そうな表情のまま、転がる男を見下ろした。
「てめぇに聞きてぇことがある」
「ん?聞きたいこと?……もしかして私を食べない?」
「喰うわけねぇだろ」
近づいてみて、この男が妖怪ではないということははっきりとわかった。
だからと言って喰うなんてするわけがない。犬夜叉に人間を食べる習慣はない。
「そうか!君が聞きたいことと言うのは私の名前だな?!私の名前はパルコ・フォルゴレ!イタリアの英雄にして
絶世の美男子、パルコ・フォルゴレさ!!おいおい、私のCDが欲しいって?!ホラ、受け取りな!プレゼントする
のはパルコ・フォルゴレ…………って私のCDがない〜〜〜!私の「チチをもげ」が〜〜〜〜!!」
「やかましいっ!!」

どごっ

「痛い〜〜〜!!痛いじゃないかひどいじゃないか!」
「やかましいんだてめぇは!」
会話の成立しない苛立ちからフォルゴレをもう一発殴ろうとした犬夜叉の動きがピクリと止まった。
次の瞬間にはフォルゴレを突き飛ばしていた犬夜叉の鼻先を、かなりの速さで投げられた石が掠める。
(妖怪の匂いじゃねぇ。人間か?!)
「誰だ?!」
犬夜叉の怒声に、茂みの中から現れたのは一人の少年だった。
歳の頃は弥勒と同じくらいか。
着物はかごめの世界の物と似た感じだ。
「誰だ、てめぇ?」
「人に名前を聞くときはまず自分から名乗るのが筋って知らねぇのかよ?」
ハン、と鼻で犬夜叉を笑い、その少年はフォルゴレの方を一瞥した。
そして改めて犬夜叉に視線を戻し、最後に頭部から生える耳に辿り着く。
「……ライカンスロープか」
「ら……らい……?」
「こんなクソゲームに乗る気はねぇけどよ、目の前で襲われている人を放ってはおけないんでね」
「あぁっ?!何言ってやがんだ、てめぇ」
余裕のある少年の表情が犬夜叉の神経を逆撫でする。
なんだか誤解をされているみたいだが、少年の言葉と表情にバカにされているような気がしてならない。

「来いよ。性根を叩き直してやる」

「てめぇ……ふざけんじゃねぇ――――――――!!」

少年のその言葉は、短気な犬夜叉を激昂させるには十分な物だった。
地を蹴り、爪を剥き出しにした犬夜叉は少年に襲いかかる。
その腕が宙を切る。
その場から一歩だけ動いた少年が犬夜叉の爪をかわし、右足を跳ね上げる。
間一髪でその足に気付いた犬夜叉は、とっさに空中で体を反転させる。
ざっ、と地面に足をつき、再び距離を取った二人は、同時に地を蹴っていた。
少年の右ストレートをギリギリでかわし、犬夜叉は身をかがめる。
下から少年の顎を目掛けて突き上げた拳はまたもや空気のみを切り裂く。
(やべぇ……!)
そう思ったときには、少年の左膝が犬夜叉の腹に食い込んでいた。
間髪入れずに左頬に衝撃を受け、犬夜叉は後方に吹っ飛ぶ。
「……ちっ」
口の中が切れたらしい。
血が混じった唾を吐き捨て、犬夜叉は目前の少年を睨み付ける。
ただの人間だと思って、この少年を侮っていた。
(こいつ……明らかに人間の動きを超えてやがる……!)
特に少年の反射神経はやっかいな物がある。
犬夜叉は知らないが、この少年の名前は御神苗優。
超古代文明の遺跡を守る特殊工作員“スプリガン”なのだ。
数々の死闘を乗り越えた彼の戦闘能力は、普通の人間のそれとは比較にならない。
もっとも、犬夜叉がそれらの事実を知っていたとしても退く気は全くなかっただろう。

売られた喧嘩は取りあえず買う質なのだ。
「……てめぇ……いい加減にしろよ」
怒りをみなぎらせ立ち上がった犬夜叉は再び少年に向かっていこうと足を踏み出し――――――――

どごっ

地面に顔を埋める羽目になった。

「き、君!待ちたまえ!この少年は私のファンなんだ!」
「…………は?」
「て……めぇ……」
自分の足首を掴んだままのフォルゴレを、犬夜叉は鬼のような形相で睨み付ける。
内心「ヒイイイイイィィィィィィ」と震え上がりつつも、フォルゴレは、腰を抜かしたまま必死に黒髪の少年に話しかけた。
「この子は私を食べる気はないと言っていたんだ!」
「……そうなのか?」
毒気を抜かれたらしい黒髪の少年が犬夜叉を覗き込む。
「うるせぇ!このままじゃ気がすまねぇ……てめぇ一発殴らせろ!!」

どごっ

“おすわり”並みのゲンコツを犬夜叉の頭にたたき落とし、黒髪の少年は改めてフォルゴレに視線を戻す。
「え……と、俺は御神苗優。あんたは?」
「私?私かい?!私の名前はパルコ・フォルゴレ!イタリアの生んだ英雄、絶世の美男子、世界中のバンビーナ達の恋人、パルコ・フォルゴレさ!
!おいおい、君も私のCDが欲しいって?!ホラ、受け取りな!プレゼントするのはこのパルコ・フォルゴレさ!…………って、そういえばCDがない
んだったあああああぁぁぁぁぁ!!」
「…………はぁ」
「……やかま……しい……」

地面に顔面を埋めたままの犬夜叉のツッコミは誰にも届かず……。
呆然とする優を目の前に、フォルゴレの嘆きはこの後しばらく続くことになった。
【H−8 道路/早朝】
【犬夜叉@犬夜叉】
[状態]腹部と左頬に軽度のダメージ(戦闘に支障なし)
[装備]なし
[道具]荷物一式(支給品は不明)
[思考]1.フォルゴレと優を一発殴りたい
   2.かごめを探し出して守る


    【パルコ・フォルゴレ@金色のガッシュ!!】
[状態]健康
[装備]なし
[荷物]荷物一式(支給品は不明)
[思考]1.清麿と合流
   2.なんとかして脱出したい


【御神苗優@スプリガン】
[状態]健康
[装備]なし
[荷物]荷物一式(支給品は不明)
[思考]1.犬夜叉、フォルゴレと話をする
   2.芳乃、ボーマン教官を探す
   3.ゲームをぶち壊す



前話   目次   次話