はじめまして






「……お寺……?」
見ればわかることをあえて口に出してみる。
何もない道ばたに放り出されてから約30分。
てくてくと歩き続け、辿り着いたところがここだった。
目の前にはいくつもの石造りのお墓。右手にはこじんまりとしたお寺が見える。
地図を広げてみるとこの島にお寺は二つ。
観音堂と無学寺とがあるけど、ここはいったいどっちなんだろう。
無学寺って受験生にはなんとなく縁起悪そうだから遠慮したいなぁ。
でも観音堂にお墓って建てるかしら?
ならやっぱりここは無学寺なのかな。
そんな呑気とも言える事を思いながら、日暮かごめはお寺の本堂へと続く石段に腰掛けた。
「ここ……どこなんだろう」
戦国時代よりも自分の元いた現代に近い雰囲気だけど、沖木島なんて聞いたこともない。
それになによりも『殺し合いをしてもらいます』って!
「全く冗談じゃないわよ」
そうは言ってみても、恐らくあの幽霊だか妖怪だかわからない女の人は本気なんだろう。
彼女が纏っていた、自分が今までに出会ったどの妖怪――――それこそ奈落のそれよりも禍々しい雰囲気が、こんなありえない状況を作ったうえにゲームを進行させる力を彼女が持っているということを証明していた。
だからきっとあの気味の悪い目玉が私の体の中に潜んでいるって言うのも本当で。
「……いやああああああっ!!無理!絶対無理!!あんな気持ち悪いの嫌ぁ!」
あの決して好きにはなれない形状の妖怪を思い出して身悶えする。
幸か不幸か、奈落との戦いを通じすっかり異常事態に慣れてしまったとは言え、基本的にはかごめは普通の女の子なのだ。
色々な妖怪を見、想い人は半妖というかごめにも許容範囲というものはある。
「うう……。早く帰りたい……」
帰ればきっとあのスケベだけど有能な法師が、体内の妖怪を追い出してくれるはずだ。
それに妖怪退治屋の珊瑚ちゃんなら、どうにかする方法を知っているかもしれないし。
そのためにはまず、さっさと犬夜叉を見つけなきゃ。
一人になって最初に確認した名簿には、誰よりも信頼している想い人の名があった。
恐らく彼も自分と同じようにこの島に取り込まれているんだろう。
名簿には他にも殺生丸と神楽というあまり有り難くない名前もあったけど、これはこの際置いとくとして。
戦国時代の命がけの冒険で、いろんな人間がいるってことは骨身にしみている。
きっとこの殺し合いに乗ってしまう人もいるだろう。
それに妖怪も何匹かいたみたいだし……。
「早く犬夜叉と会わなくっちゃ」
こんな物騒なところ、さっさと逃げ出したい。
犬夜叉も絶対自分を探しているはず。
適当に歩いていれば、きっと犬夜叉が私の匂いを嗅ぎ付けて追ってきてくれるだろう。
よし、と再び荷物を背負い、かごめは腰を上げた。


  ――――――――――――カタ……ン……


小さな……わずかな物音。
息を止めぐるりと周囲を見回しても誰もいない。でも、確実に聞こえた。
「……誰?!誰かいるの?!」
シン……と静まりかえった周囲には、かすかな波の音しか聞こえない。
かごめの視線がお寺の扉で止まる。
恐る恐る階段を昇り、本堂の木戸に手をかける。
ぎゅ、ぎゅ、と少し湿った音を立て扉を開いたかごめは、日の光が差し込んだ屋内を見渡した。
正面には木でできた仁王像。
それ以外は何もない。本当にがらんとしている。
が。
「……こういう場合、何て言えばいいのかしらね……」
そう呟き、仁王像の足下から一人の少女が歩み出てくる。
「子供……?!」
予想外の出来事に驚くかごめとは対照的に、その少女は至って冷静に口を開いた。
「失礼ね。あなただって大人ではないでしょう?それに……そうね。こういう場合はまず『はじめまして』よね」「…………はじめまして」
もっともな少女の言い分に、かごめは素直に従う。
流れ込んでくる湿った空気に、長い時間をかけて積もっただろう埃が舞う。
セーラー服の巫女と小さな科学者は、改めてお互いに「はじめまして」と頭を下げた。

【Fー8 無学寺/早朝】
【日暮かごめ@犬夜叉】
[状態]:健康 
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食料&水:2日分) アイテム(不明。本人は確認済み)
[思考]:1.目前の少女(灰原)と話をする
     2.犬夜叉と合流して脱出する

【灰原哀@名探偵コナン】
[状態]:健康 
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食料&水:2日分) アイテム(不明。本人は確認済み)
[思考]:1.目前の少女(かごめ)と話をする
     2.とりあえず現状確認しだいコナン・蘭と合流



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