死に損ない二人








死ぬ前に殺してください



一人の気まま、気まぐれ、思うままに過ごしていた男がいたとしよう。
彼に質問を投げかける。
それは、気ままな男が質問に対して気まぐれを起こすことなく正直に答えるという気まぐれを起こしたとするならばという前提に立った上での話になるが――
彼はどう答えるのだろうか。

「おいおい、一体全体どうなってんだよ。やっと伊織ちゃんとこから離れられたと思ったのによー」

とまあ、そんな前置きはともかく名簿を前にしている男――零崎人識は誰に向けるでもなく独り言を続ける。
殺人鬼の集団、零崎一賊の一員でもある――あったというべきか――人識は自然体のように見えて周囲への警戒を怠らない。
独り言を聞かれて居場所を特定される、なんてへまを犯すようではプロのプレイヤー失格である。
尤も、今の人識をプロのプレイヤーと言うのは些か語弊があるか――

「さっき首飛ばされたの人類最終じゃねーか。あんなこと簡単にやってのけるやつら相手に俺なんかが太刀打ちできるわけもねーし」

今の彼は肉体に限界を来し、精神に肉体がついていけない状態だ。
才能があり、性能があり、効能があったからこそ裏の世界で騙し騙しやってこれた。
しかし、それにもいよいよ限界が迫ってきている。
支給品にはナイフも曲絃糸として使えそうな糸もなく武器らしい武器といえば大口径のリボルバー拳銃が2丁のみ。
後は奇怪な装丁の本と携帯電話という戦闘においては役に立たなそうなものである。
携帯電話は逃亡日記という必ず逃走成功ルートを予知してくれるという便利な代物らしいが、人識は基本的に戦闘から逃げることはしないし、今はする場面でもない。

「とはいえ、伊織ちゃん殺されでもしたら地獄で兄貴に会わせる顔もねーし、とりあえず伊織ちゃん探すとするかね」

ついでに欠陥製品と哀川潤も探しといてやるか、と方針を半ば決定したところで住宅街を出て、公園に入る。
白髪の男が目についた。



「桜ちゃん……それに凜ちゃんも……どうして……」

間桐雁夜は絶望の声をあげる。
7組のマスターとサーヴァントが聖杯を巡り殺し合う「聖杯戦争」
それに参加した果てに刻印虫により無理矢理植え付けられた魔術回路も焼き切れ、自身のサーヴァントであるバーサーカーも失ったが間桐邸から桜を救い出した。
姉妹二人でこれから幸せな生活が送れるはずだったのに――
二人を守ろう。
そう決意するのに時間はかからなかった。
死んだはずの遠坂時臣がなぜいるのかはわからなかったが時臣も自分の娘がいる状態では迂闊に動く真似はしないだろう。
しかし、葵を悲しませたことは許せるわけがなく、方針が合えば無干渉に徹することに留めた。
時臣は憎いが彼女たちを守ってくれる人が何人もいるとは思えない。
だが、もしも二人に害なす行動をしたら――そのときは真っ先に殺す。
支給品の確認をしようとして異変に気付く。
いや、桜と凜が巻き込まれていることのショックが大きすぎて今まで気付かなかったと言うべきか。
左目が機能している。
半身不髄も消え、おそらく食べ物も普通に摂取できる。
刻印虫を宿す前の状態にはほど遠いが普通に跛を引かずに歩くことができるレベルまで回復していた。
じゃあ、髪の毛は?と確認しようとしたそのとき、後ろから声をかけられた。

「そこのじーさん、ちょっといいか?」



「悪いが俺はじいさんなんて言われるほど年老いていない」

そう言って雁夜が振り返るとなんとも奇抜な格好の少年がいた。
身長は男性にしては少々低めだろうか、髪の毛はまだらに染まり耳には携帯のストラップをつけている。
攻撃的なファッションに身を包んでいたが、右頬の刺青がそれら全てを打ち消せそうなほどの存在感を放っていた。

「そいつは失礼。白髪だったもんだからつい勘違いしちまった」
「お前みたいな髪の色をした奴には言われたくないな」
「かはは」

訝しげに返す雁夜に対し、人識は諧謔的に笑う。
髪の色までは変わっていないことを確認し、雁夜は人識に問う。

「で、お前の名前は?」
「俺は零崎人識。今のところ名乗る名前はそれだけだ。俺の名前を聞くってことはおにーさんも名乗るつもりはあるってことでいいんだよな?」
「ああ、俺は間桐雁夜だ。」
「早速だけど情報交換と洒落込もうや。俺は自分に合う武器が入ってなくてな、それにおにーさんも俺と同じで自分以外優先で動くんだろ?」
「………………」
「判断材料は俺がおにーさんを見つけたとき名簿を握りしめてたこと、
 それと目の色ってとこか。あれは人を殺そうとしている目じゃなかったしな。
 名字が同じってことから類推するに間桐慎二と間桐桜って奴らのために動こうとしている――こんなとこか」
「ほぼ正解だが俺が守りたいのは間桐慎二じゃなくて遠坂凜の方だ」
「遠坂?名字が違うじゃねーか……まあ俺も人のことは言えねーか。あ、俺の探してる相手ってのは無桐伊織っつうのな。そういやおにーさんの支給品見せてもらってもいいか?」

事が唐突に運んだため支給品を確認していなかったことを雁夜は思い出した。
人識が広げ始めたのを見て雁夜も慌ててデイパックから取り出す。
出てきたのはブーメランに日本刀と歪な形をした大鋏だった。
最後に取り出した大鋏を見て人識は目を丸くし、即座に雁夜の手から奪うようにひったくった。

「……こりゃ本物だな。悪い、これもらってもいいか?この本やるからさ。なんだったら拳銃も一丁つけてもいい」

まじまじと大鋏を見る人識は真剣な表情で雁夜に反論する隙を与えさせない。
しかし、使い勝手の悪そうな大鋏と拳銃の交換は悪くない取引だ。
取引を了承し二丁拳銃のうちの一丁と本を受け取る。

「こいつは――」

渡された本を見て雁夜は驚いた。
「螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)」と呼ばれるそれは魔力回路を持たない雁夜でも使用可能な宝具だ。
ページを開き念じると、地面からミミズのようなおぞましい生物が生えてきた。
若干の疲労を感じ本を閉じると海魔も消滅する。

「おにーさん今のどうやったんだ?時宮でもあんな芸当はできなかったと思うんだが……」

魔術を初めて見た人識が聞くが雁夜はそそくさと荷物をまとめ始める。

「初めて会えたのが君のような敵意のない人でよかったよ。それじゃ俺はもう行く」

どこにいるかわからない二人を早く見つけ出さねば――公園を後にしようとする雁夜の横に人影が並ぶ。

「その体でか?やめといた方がいいって。満足に動かせないのは俺も同じだし二人のがいいだろ」
「君にも探している人がいるんだろう?」
「そりゃまーその通りだけど、どこにいるんじゃわからないならどこ向かっても一緒だしな。おにーさんと一緒の方が効率上がるだろ」
「……そうか」

雁夜は短く答えると二人して公園を後にした。



魔術なんて本当に存在するのかと思ってたが実在するとはなー。
説明書を読んだときは半信半疑どころか一信九疑だったんだが。
まあ、俺には似合わねーし代わりに自殺志願もらえたんだから儲けものだし。
しっかしおにーさんも俺に負けず劣らずボロボロの体じゃねーか。
俺の場合外見じゃぱっと見でわからねーのが嫌らしいところだけどな。
よりにもよって俺の土手っ腹に穴開けた泥田坊の拳銃なんて使いたくねーっつーの。
……しょーがねえ、気が変わらないうちに早く伊織ちゃん探さなきゃな。


【D-7 公園/未明】
【零崎人識@戯言シリーズ】
【装備:自殺志願@戯言シリーズ】
【所持品:支給品一式、直木泥田坊の拳銃(6/6)@戯言シリーズ、逃亡日記@未来日記】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:伊織ちゃんを探す
1:雁夜のおにーさんと行動。
2:欠陥製品(戯言遣い)と哀川潤も余裕があれば探したい。
3:紫木一姫、萩原子荻に興味(興味の度合いは紫木一姫>萩原子荻)
【備考】
※無桐伊織の関係終了後からの参加です。
※そのため曲絃糸で殺傷はできません、また、無茶な運動をした場合かなり疲れることが予想されます。

【間桐雁夜@Fate/Zero】
【装備:螺湮城教本@Fate/Zero】
【所持品:支給品一式、直木泥田坊の拳銃(6/6)@戯言シリーズ、宗像形のブーメラン@めだかボックス、我妻由乃の日本刀@未来日記】
【状態:健康、疲労(小)】
【思考・行動】
基本:遠坂凛、間桐桜を守る。
1:人識と行動。
2:遠坂時臣を警戒。二人にとって有害ならば殺す。
【備考】
※死亡後からの参加です(本人に死亡の自覚無し)
※遠坂凛、間桐桜両名が『stay night』時間軸からの参加であることを知りません。
※螺湮城教本で出せる海魔の量は制限されています。制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※体調は聖杯戦争時に比べ回復していますが無茶な運動はできないと思われます。

支給品紹介
【螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)@Fate/Zero】
零崎人識に支給。
第四次聖杯戦争でキャスターが使用した宝具。
それそのものが魔力炉となっているために、そもそも魔術師でない者でも魔術の行使が行える。
本ロワでは使用に応じて使用者には疲労がたまる。

【逃亡日記@未来日記】
零崎人識に支給。
必ず逃走成功できるルートを予知してくれる未来日記。
レプリカなので破壊されても所有者は死亡しない。

【直木泥田坊の二丁拳銃@戯言シリーズ】
零崎人識に支給。
直木三銃士の一人、直木泥田坊が使っていたもの。
十二発の弾丸で仕留めきれなかった敵はいない(本人談)ことより予備弾薬は支給されていない。

【宗像形のブーメラン@めだかボックス】
間桐雁夜に支給。
航空力学に基づき設計されたものでほぼ直線の軌道で飛ぶ。
人体に刺さるとそれなりの殺傷力はある模様。

【我妻由乃の日本刀@未来日記】
間桐雁夜に支給。
見た目はいたって普通の日本刀である。
どうして中学生が持っていたとかは考えてはいけない。

【自殺志願(マインドレンデル)@戯言シリーズ】
間桐雁夜に支給。
十一代目古槍頭巾が製作したナイフを二丁無理矢理組み合わせたかのような大鋏。
元々は零崎双識のものであったが今は無桐伊織が所有している。



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