無題






「いたた。」情けない声が響いた。ここは何処でしょうか。そして、随分、気絶してた気がする。
冷たい空気、ゴツゴツした地面の感触。何かで頭を打ったのが、後頭部が痛い。
上を向くと、オレンジ色の証明がちかちかと点滅している、一種のホラー映画みたいな場所に落とされたんだ。
がんがんする頭を抱えて、その場にへしゃと座り込む。
「誰も居ないんだよなぁ。」
女性が一人で、こんな場所に居るなんて考え自体がそもそも怪しいけど、どうやら、このシステムはそんなことを考えちゃいない。
そばにあった自分の物だと思われるリュックを適当に探る。とりあえず、武器とやらを見つけて、地図もみなきゃ。
明かりになる物も。
でも、一番欲しい物といったら、出来れば、私に勇気をくれないかな。

リュックの中を手探りでまわす。
小さいけど、冷たい感触、コレはなんでしょうか。
「・・・粉?。」
粉が入っている袋、なんの粉だろうか。
入ってるだけとりだす。結構な数だ・・・全部で三十袋、ある。
赤が五。黄色が五。白が十。オレンジが十。
粉が、薬なのか、小麦粉なのか、調味料なのか、ヤクなのか。
そんな事、知る訳ない。

リュックの中で、大きな鉄の塊に触れた。
取り出すと、それは懐中電灯だった、オレンジ色の証明だけじゃ、此処が何かわからないよ。
カチカチ、と音を立てて、慣れないその懐中電灯のボタンを押す。明かりがついた。

立とうと思ったけど、足が悲鳴を上げた。捻挫でもしてしまったのだろうか。
仕方がなく、へしゃりとその場に座り込んで、周りを明かりで照らす。
上から、下まで。
右から、左まで。

時間をかけて、くるくる、くるくる、と、腕を回す。
明かりの先の景色を、頭の中にインプットさせていく。
そうして行くうち、此処が何か、わかってきた、気がした。

「トンネ・・・ル?。」

天井はとても高くて、よく見ると、丸くなっている。
暗くてよく解らなかったけど、明かりを灯せば、この中の面積は大分広い。
それがずっと遠くまで続いてて、懐中電灯じゃ、この先の外の風景が写せなかった。
そして、オレンジ色の証明。ツアーの移動中、時々見る景色によく似ていた。
冷たい空気は、きっと、この中に陽が当たらないから、その所為であろう。
コンクリートの地面、だけど、大きな石がそこ等じゅうに落ちている。天井に目をやると、少し崩れてる所がある。
ここ数年の地震の原因かな。それとも、ただの老化なのでしょうか。

長い長いこの通路は、きっと小さな音でさえ、トンネル内全体に響かせるだろう。
そう思うと、私が音をたてる以外の音は聞こえない。私か居ないのかな。それとも、私みたいに気絶してた人が居るのかな。
でも、今はどっちかというと、人に会いたい。だけど、敵には会いたくない。
最初に。このゲームを聞いた時、私は無関係じゃないのか、私は、本当はモデルという本職があるのに、と、主催者の人を疑った。
首は冷たい、こんな物つけてる所為だ。今、私は。この首輪で存在を許されているとでも言うのか。
情けないなぁ。
このままだと、吐く息が、白くなってく気がする。

私は、殺す事の重要さなんて。当に捨てていた、自分から反する敵は一切イラナイと考えていた。
そして、何より。
私だけでも生き残れればなぁ。という気持ちが、どこかにあった。

リュックの中をもう一回探ってみた、今度は懐中電灯の明かりもある。此処何処なのかをしっかり確認する。
見つけた地図と鉛筆で、きっと、このあたりだとうと、丸をつける。
さっきまで見た物と、出てきた物。
食べ物。コンパス。飲み物。時計。名簿。コレで全部かな。と地面に並べた。
空になったと思われるリュックを逆さまにして、二、三度ふる。
ガサバサ、ガサバサ。
ひらひらと、一枚の紙切れが落ちてきた。なんだろう?。

「『毒物・解毒剤・止血剤・説明書』・・・あ。」

さっきの粉は、それぞれこの三つのものの薬だったんだ。
説明書を読んでいく内に、毒物には種類が二つあるそうだけど、説明を読むのが面倒になってきた。
とりあえず、赤い方は有毒で、黄色いは軽い毒らしい、解毒剤は白、止血剤はオレンジ。
難しい武器だなぁ、とか、敵を殺すとしても、どうやって使えば良いんだろうとか、色々考えてしまった。
まぁ、良いや。
コレを使うときに考えようとします。

天井を見て、ふと、思う。
何か、暖かい物がほしい、と。



【09番 氏名 木村カエラ】
時間帯:黎明、東崎トンネル中心部(08-E)
[状態]: 足が軽く捻挫、体調は健康
[装備]: なし
[道具]:支給品一式、粉袋×30(毒物・解毒剤・止血剤) の薬それぞれの説明書
[思考]: 仲間が欲しい、敵は必要ない、殺すのは平気



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