「プリンセス アンド ウォーリア」
長い睫毛を揺らし、目鼻立ちの整ったその顔に悲嘆の表情を浮かべた女性。湖に佇むその姿はまるで絵画に描かれた美しい女神のようだった。
栗色の流れるような髪を揺らし、現実を否定するかのように彼女は首を振る。
(ああ…なんということでしょう…)
その美しい女性は暗い表情で俯きながら、自らが置かれた状況と、散っていった儚い命に対して嘆いていた。
(ハイラルは…救われたというのに……)
その女性……ゼルダは平和が戻った美しい我が国、神の力が眠る王国『ハイラル』に想いを巡らせる。
『選択せよ、降伏か死か』
影を支配する王「ザント」の猛攻になす術もなく降伏を余儀なくされ、ハイラルは影の領域にされてしまう。
ハイラルの人々は自分たちが魂になったこともわからず、影の魔物たちに怯えて暮らす日々を強いられた。
(私の決断で人々は苦しめられた。しかし、彼らを救うために私できることはそれしかなかった。)
(ですが……諦めてはなりません)
窮地に陥ったハイラルに神は一筋の光を与え賜うた。
その名は勇者リンク。ハイラルを救う希望の光。そして黄昏の姫君ミドナ。
彼らや様々な人々の活躍とリンク、ミドナの協力により、影の王『ザント』とその黒幕である『ガノンドロフ』を打ち倒し、ハイラルは光を取り戻し、ゼルダもまた救われた。
しかし、ゼルダはこの残酷なゲームの駒としてここに呼び出されたのだ。
(そう。諦めてはなりません。ハイラルは救われたのです。きっと私にも出来ることがあるはず。立ち上がり……前へと進むのです)
一人ではハイラルを救うことはできなかった。ミドナの力が、リンクの剣が、そしてゼルダの光の矢が、そしてその他にも彼らに関わった様々な人の協力があったこそ、ハイラルは救われたのだ。
きっと誰かと協力し合えばこの状況を打破できるはず。ゼルダはデイバックに詰められていた剣……ねむりの剣を握りしめ決意を固める。
ゼルダには今、3つの不安があった。
1つ目はこのゲームのこと。殺し合いをしろとあの少年は強いてきた。
ゼルダのようにこの企みに抵抗を示しているものもいるはずだ。しかし、逆にこの殺し合いに乗るものが現れたら…戦いは避けられない。
そして、この殺し合いに乗りかねない……いや、乗るであろう人物をゼルダは一人知っている。
これが2つ目の不安…『ガノンドロフ』である。
(ガノンドロフはあの時消滅したはず……なのにどうしてここに…?)
手の甲に力のトライフォースを宿した暴君、ガノンドロフ。たしかに彼は勇者リンクによって葬られたはずだった。だが、たしかに彼の名前ははっきりとこの名簿に書かれている。
そして、そこに一緒に連ねられている名前……
「リンク……貴方までも……」
3つ目の不安。それは勇者リンクの『死』
これまで幾度とない修羅場を駆け抜けてきた彼のことをゼルダも信頼している。だがしかし、ここは殺し合いを目的とした場所だ。
心優しい青年リンク…。もし彼が同じ人の手によって命を奪われてしまったら…。
(この危機は……ハイラルは……私はどうなってしまうのでしょう)
ザワッ
(! 誰かに見られている……)
ゼルダは思考に気を取られ、周りに気を巡らすことを怠っていた。
芝生に身を潜めているであろうその視線の主は、じっと息を殺しゼルダを見つめている。
みるみるうちに全身が緊張に強張り、震え、汗ばんでいくのがわかる。だが、ゼルダは恐怖に怯えるわけにはいかなかった。
自分は王国を背負う姫。力はなくとも何者にも屈しない強さ、何者をも受け止める寛大さ、そして気高さを忘れるわけにはいかない。
声を震わさないように、ゼルダは言う。
「そこにいるのでしょう?出てきなさい」
ビクリとその物陰に潜む影が動く。
視線の主はその姿を現すのを渋っているようだった。
「………」
ゼルダは決意する。
カランッ
「私に戦う意思はありません。」
ゼルダは凛とした物言いで視線の主に語りかける。
唯一の武器である剣を手放し、両手を天に掲げ、敵意のないことを示して。
「さあ」
「す、すまねえ!」
草むらから勢いよく飛び出してきたのは鶏冠のような髪をした筋肉隆々の大男であった。
「悪かった!別にあんたをどうこうしようと思ってたわけじゃないんだよ。ただ…」
(あんたがあまりにべっぴんだったから……)
なんて甘い言葉を押し戻し、その大男はバツが悪そうに頭を掻く。
「こんな見なりの男に声かけられたらあんたが逃げ出しちまうんじゃないかってな……ほら、状況が状況だろ?
だけど見た目によらず勇敢なお嬢さんだな!オレはハッサン。あんたは?」
「私は……ゼルダ。ハイラルの娘、ゼルダです」
「ハイラル?聞いたことのない村だなあ。まあいいや。よろしくな、ゼルダさんよ!」
屈託のないハッサンの笑み。善意に満ちた彼の姿にゼルダの険しい表情が少し和らぐ。
しかしそれも一瞬のことで、ゼルダは深呼吸を1つ、緊張した赴きで口を開いた。
「ハッサン殿…お願いがあります。
どうか、私にお力を貸してください。私はどうしてもこの不毛な争いを止めたいのです。
私は観ての通り、一人では何も出来ない無力な娘です。ですが、それでもきっと人々が手を取り合えばどんな困難も切り抜けることができる……そう考えています。
争い…暴力…流される血…嘆きの涙……力による支配は何も生み出しません。
どうか共に手を取り合いましょう。」
ゼルダは彼に手を差し出した。
彼女の白い手に、逞しい黒い手が重なる。
「お願いされるまでもねえ!あんな訳わかんねえ野郎に踊らされておっ死んじまうなんてまっぴらごめんだ。
これからはオレたちは仲間だ!絶対にこんなとこから脱出して、あの野郎をぶっ飛ばしてやろうぜ!」
(彼なら…きっと、自分と共に歩んでくれる。選ばれし勇者ではないかもしれない。それでも彼はこの殺し合いに乗ったりはしない。
この太陽のように眩しい笑みに暗く沈んだゼルダの心に光を与えてくれる。
彼とならきっとこの絶望に立ち向かっていける…)
ハッサンは強くゼルダの手を握りしめた。ゼルダも彼の手を握りかえす。
その時ゼルダは初めて微笑みを浮かべた。
「ハッサン殿……ありがとう。出会えたのが貴方のような方で本当によかった」
「よ…よせやい!照れるじゃねえか!」
頬を赤らめながらハッサンは笑う。
(美人には笑顔のほうが似合うぜ……)
なんていう甘い言葉は飲み込んで、さらに一言添える。
「……おっと、俺のことはハッサンでいいぜ。俺もあんたのことゼルダって呼ばせてもらうからよ」
ゼルダ……もう何年もそう呼ばれたことはなかった気がする。
ゼルダ『姫』……それが彼女の常の立場であった。
だが、今は違う。身分などは何の盾にもならなければ、武器にもならない。
(でもこの呼び方は悪い気はしません)
「ありがとうハッサ…」
ピカッ!
刹那、ゼルダの背後から閃光が瞬いた。その眩しさにハッサンは目を眩まし、ゼルダは驚き、振り返った。
その光は暗闇の中に白い空間を生み出し、何事もなかったかのように暗闇の中へ消えていった。
「なっ……なんだったんだ今のは!」
「わかりません。ですがもしかすると……」
「戦闘が行われてるかもしれねえ…!」
二人は息を飲む。戦闘があるということは付近に殺し合いに乗った人間がいるということだ。
あるいは不本意ながら戦闘に巻き込まれ、命を危険に曝されている人間もいるのかもしれない。
「ゼルダ……オレは、行くぜ。助けられる人間がいるかもしれねえ……」
そんな彼の肩にゼルダの手が触れる。
「待って…危険です。まずは様子を伺ってから……」
「だけどよ……!」
「もし貴方になにかあったら……!」
「 ! 」
ゼルダの一言にハッサンが固まる。ゼルダは気がついていないが、彼は頬がかっと赤くなるのを感じていた。
しばらく間が空いたのち、ゼルダが自らの唇に人差し指を押しつける仕草を見せる。
「しっ…何か聞こえます。」
『アロエ…シャロ…聞こ…るか…!?
この不利益かつ…公平な戦に巻…込まれた不幸な子供たち…若者たち…そして…う志よ…聞こえるか…!
オレはガルーダ…マジ…アカデミーが…園のい…教員だ…
この声を聞…た者たちよ…オレはB-5、6の中…ん地点の洞窟にいる…
お前たちはこんな所で朽ち…はならんのだ…必ず…このオレが元の世界に帰し…やる…自暴自棄にならず…集団となり手を取り合おう…
集団でな…この状況を打破できる…!挫けそうになっても支え合うことができる…!
殺し合…などしてはならん…殺し合いの先に希望はない…!
必ず…皆で生きて…故郷へ帰るのだ…!
オレは待…ている…!お前たちがここへ集うまで…!待っておるからな…!』
光に包まれた方角とは逆の方向からなんらかの手段で拡張された声が響いてくる。
「…近い?」
「はい…近くに同じ思考をもった仲間がいるかもしれません」
その声の内容はところどころ抜けはあるものの、ほぼ聞き取れた。つまりここはB−5、6地点からそう遠くないということになる。
声の主は付近にいる可能性が高い。
「罠かも…しれないぜ」
「いいえ、きっとこの語り手の気持ちは本物だと思います。……ですが、目の前で失われるかもしれない命を放っておくことはできません…」
決断をしぶるゼルダにハッサンが口を開いた。
「よっしゃ。じゃああっちは待ってくれるって言ってんだ。
とりあえずさっきの光の方角へ進んで様子をみてこよう。しばらくしたら戻ってくるからゼルダはここで待ってな」
「いいえ…私も行きます。…貴方一人では心配です。」
ゼルダは悲しみと不安をその美しい顔に浮かべ、首を振る。しかし、ハッサンはそれを拒んだ。
「いや、あんたを危険に曝すわけにはいかねえよ。必ず戻ってくるから…!ああ、あそこに屋敷がみえるな。あの中で待っててくれよ!」
「……でも…」
「大丈夫だよ!足腰には自信があるからよ!それにもし負傷者がいたらそいつのことで手一杯になっちまうからゼルダのことを守ってやれねえからな……それによ……」
「なんでしょう?」
「待ってる人がいると思うとさ、なんだか自分が強くなれるような気がすんだ。」
照れ臭そうに鼻を擦ると、ハッサンはゼルダに背を向ける。
「こうしてる間にも誰かが危険な目に合ってるかもしれねえからよ!!じゃあまた後でな!!!」
今度は彼を引き止めることができなかった。急に押し寄せる孤独感をゼルダは必死に押し殺す。
「ハッサン……!ハッサン!!」
森の向こうに消えてゆかんとするハッサンの背に目一杯ゼルダは叫んだ。
「ガノンダロフに気をつけて!!!!彼は危険です!!!!!」
ハッサンは片手を上げてそれに応えた。
(とうちゃん、かあちゃん。オレ…必ず帰って立派な大工になるよ。そのためにもきっと……生きて帰る)
【C-4/ピチピチ湖付近/一日目/深夜】
【ハッサン@ドラゴンクエスト6】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:主催者をぶん殴る。生きて帰って父母と再会したい。
1:D-4地点の状況を確認。襲われている人物がいれば保護する。
2:D−4の状況確認後にサッターンの別荘へ戻り、ゼルダと合流する。
3:ゼルダを守る。
4:B−5地点の放送の主(ガルーダ)と接触したい。
*(ガノンダロフの放った)ビリリダマのフラッシュを目撃しました。
*ガルーダの演説を聞きました。内容はほぼ把握しています。
*ガノンダロフを危険な人物だと把握しました。
*名簿、マップの確認をしていません
暗い森にそびえ立つ館をゼルダは見据えていた。
あそこで彼を待つという約束だ。だが、
(それでよいのでしょうか?)
城に幽閉され、何もできなかった自分。また、待つことしかできないというのだろうか。
ゼルダは足下に転がった剣を拾い上げ、心に手を当てる。
(いいえ、私にも出来ることがある。ハッサンを助けるために。)
美しく装飾を施されたドレスを裾をねむりの剣を使って切り落とす。刃先で自らを傷つけないように気をつけながら。
足全体を隠していた布が膝を露出するくらいの長さになった。切り端はガタガタでとても美しいとは言えない。
足下を飾る美しいヒールも構わず脱ぎ捨てる。
(これなら動きやすい)
ゼルダは支給品の地図を取り出し、それを眺めた。
(ハッサン、約束を守れなくてごめんなさい。必ず貴方の力になる方を連れてきます。
この心配が杞憂であることを祈っています。貴方が先に戻ったのなら例の場所で待っていて。無事をお祈りしております。)
ドレスの切れ端にメモを残し、ヒールの下へ敷いておく。
現在位置も確認し、ハッサンへの伝達も済ました彼女は走り出した。
あの声の主の元へ。
【C-4/ピチピチ湖付近/一日目/深夜】
【ゼルダ@ゼルダの伝説シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:ねむりの剣
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2(本人確認済)
[思考]
基本:仲間を集め、このゲームを阻止する。
1:ハッサンを助けたい。
2:B−5、6地点を目指して放送の主(ガルーダ)と接触する。
3:リンクと接触したい。
4:ガノンダロフに警戒する。
5:リンクが死んでしまったら…どうしよう
*トワイライトプリンセスED後からの参加です。
*(ガノンダロフの放った)ビリリダマのフラッシュを目撃しました。
*ガルーダの演説を聞きました。内容はほぼ把握しています。
アイテム
【ねむりの剣@ファイナルファンタジー2】
攻撃力+30 命中+10 眠りの追加効果がある。
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