VIOLENT ENEMIES
風を切る音とともにニードルの刃が飛んでくる。
顔の真横を掠めて前方の大木に突き刺さる。鮮血の色でゼルの頬は染まる。
頭を抱えて逃げまわっているのが精一杯だった。
「ち、ちくしょう、なんて奴だ」
ゼルが開始早々出会ったのは恐らく今参加者で一・二を争う最悪な相手、バッガモナンだった。
森の中に出現したゼルは位置確認のために地図を広げたのだが、その地図がいきなり閃光で
散り散りに消え去った。
ゼルは瞬間的に目を横に向け、森の奥から見え隠れする強烈な視線を感じたとき
逃げることしか思いつかなかった。
ザックの中の支給品を確認する暇もなく、草を踏み分け木々の合間を抜けておそらく東へと
突き進んだ。
ところどころ露出した木の枝に膝は脛が切りつけられたがそんなことを気にする余裕はない。
「はあっはあっ、あの野郎……」
ゼルは止まらず走り続けた。十分近く経ったころ、さすがにダウンしそうになった。
足をとめて手を膝につける。
動悸の激しい胸を落ち着かせながら、周囲を血走った目で睨んだ。
敵の来る方角がよくわからない。あまりの木立の多さに目眩がした。
どうやら、さらに森の奥深くに来てしまったらしい。
「やばくないか、これって……」
ゼルは予想以上にこの場所が危ないことに気がついた。
起伏の激しい地形だが、ここはその中で最も低地にいた。
周囲は八方そびえたつ崖と木立に阻まれ、どこから敵が来てもすぐ気付くのは難しい。
奇襲を受ける確率が極めて高い。
ゼルは足を両手ではたいて何とか気力を保とうとした。
まずここを離れる。あのとき僅かに見た地図を思い出すと、この森はさほど大きくはないように
見えた。
ただ目印となる場所がなく、直線に進んでいるつもりが方角を見失ってハマリこむ
という可能性は大きい。
ゼルはコンパスのことを考え、ザックをひっくり返して探した。
「コンパス、コンパス……あった」
シュッと風を切る音がした。
ゼルは足と背中に激痛を覚え、声もあげずに倒れた。
体じゅうに巻きつけたチェーンががらがらと音を立てていた。
毒々しいライムグリーン鱗を纏った体躯に伸びきった顎、バンガ族の中でも特徴的な方だが
このバッガモナンはそれだけでない見るも無残な風貌を晒していた。
両目の淵に深々と傷が入り、目が抉れているように見える。
大きな額には大きな裂け目が入り、それを無茶な縫合で繕っていた。
これはバルフレアとの戦いの末、海砂に落ち怪魚に食われかけたことを物語っていた。
「ヒュムってのは逃げ足だけは速えな、ああ?」
語るバッガモナンの顔は復讐心に満ち、とても醜かった。
今では賞金首ハンターであったことはもはや忘れ怒りをだけを原動力にして生きていた。。
それもこれも全てバルフレアのせいである。
バルフレアのことを思うと全身が燃え尽きそうな程の怒りに身を包まれ、もはや
彼が彼であることを思い出せなくなるぐらいであった。
突き刺さったニードルは命を奪うものでなく、身体を麻痺させるものである。
そのゼルの足をバッガモナンは思い切り踏みつけた。
重量のある猛禽のかぎ爪のような足がゼルに食いこむ。
たまらずゼルは悲鳴を上がるが、それはまだ序章にすぎなかった。
「おい、これから質問する。それに答えろ、いいな」
バッガモナンはゼルの右腕を掴んだ。
「お前の仲間は近くにいるか?イエスかノーで答えろ」
ゼルは呻き声をあげてつぶやいた。
「う……てめえがいきなり」
ゴキッ、ゼルの右腕がありえない角度で曲がった。
バッガモナンが折ったのだ。
「ぐあああああああああああっ」
絶叫の中、今度はゼルの左腕がとられる。
「イエスかノーでと言ったはずだぞ、もう一度聞く、近くに仲間がいるのか」
ゼルは脂汗を浮かべて言った。
「うるせえ……この化け物」
ゴキゴキと不気味な音を立て、左腕も粉砕される。
ゼルは激痛に意識を失いかけたが、責め苦は更に続いた。
バッガモナンはゼルの身体から降り立つと何やらザックから取り出した。
一時重い体が自分の足から離れてその痛みが少し和らいだが、バッガモナンの手に握られた
道具をみた瞬間背筋が凍りついた。
固い岩盤を貫きそうなドリルが先端を鋭く回転させていた。
キィィィンと鋭い音を立ててゼルに迫る
「こいつでどこに穴を開けて欲しいか言ってみろ」
「よせ……やめろーーっ」
ゼルは叫びながら身体を振ったが、麻痺する体はまるで言うことを聞かない。
ずぶずぶとドリルが体に突き刺さり、ゼルは意識を失った。
ドリルが骨が砕き内臓に到達すると、バッガモナンは勢いよく体重をかけて下まで貫通させた。
多量の血が溢れ、森林のエメラルドを赤々と濡らしていった。
バッガモナンは舌打ちをしてゼルを眺めた。
「ちっ、もう死んでやがる」
つまらなそうにドリルを抜き取ると、抜け殻になったゼルの死体を蹴飛ばした。
ザックを拾い上げると鼻をぴくぴくと痙攣させ、次なる獲物を求めて歩いていく。
「こいつは狩りだ。賞金を気にすることなく続けられる狩りだ。
参加者は全部で何十人はいやがった……全部俺が殺る」
【F-3/森の中/朝】
【バッガモナン@FF12】
[状態]:健康
[装備]:ドリル
[道具]:パラライズニードル、モーニングスター
[行動方針]:とにかく参加者を見つけ次第倒す
【ゼル 死亡】
支給品のオートボウガン、炎の槍、AK47はバッガモナンが取得
【残り99人】
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