臆病者の勇気






「じょっ………冗談じゃねえぞ。どうしてあいつが……」

開始早々、名簿を見て早間友則は絶望の声をあげた。
まずは名簿を確認して、今後の行動を考えようとしていたが、名簿を確認するとそこにあったのは
『岸田洋一』の名前。
かつてバジリスク号において、自分達を不幸のどん底に落とした怪物の名前。
名簿には仲間を導いて岸田を殺して全員を救った恭介の名前があったが、そんな事は友則には関係が無かった。

「何で……よりにもよって、あいつがいるんだよ。死んだはず……生き返らせたのか。くそっ、駄目だ。あいつがいるんじゃ
今度こそ終わりだ。全員殺されるんだ」

自暴自棄。
絶望が友則を支配する。

 無理だ。死ぬ。殺される。引き裂かれて殺される。刺されて殺される。撃たれて殺される。殴られて殺される。
 殺されて、無様に死体を晒されて、それで終わる。――――――――――――――――――――――――――
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 ―――――――――――――――――――――――それなら殺される前に好き勝手やった方がいいじゃないか。
 そうだ。どうせ殺されるなら、俺も何を迷ってるんだ。好き勝手……女をヤッテ、むちゃくちゃにして……
 ああそうだ。やってやるよ。俺がヤッテやる。どうせこれで終わりなんだ。これで終わりなら、…………
 もう悩む事なんてねえ。

友則の思考に、黒い感情が芽生える。
それはドンドンと範囲を増し、増殖を続ける。
そして、そこに一人の得物が掛かった。

 見つけた。女。しかも……弱そうだ。俺でも簡単に犯してやれるぜ。

友則は走る。
少女。新藤千尋の下に。

「……」

千尋は友則の接近に気付かない。
左目を失い、眼帯をつけている千尋にとって、左から、死角から来る友則を察知出来るはずも無い。

「おいっ!」
「きゃっ、なっ、何でしょう」
「何でしょうじゃねえっ!」

友則は千尋の腕を取ると強引にアスファルトの地面に押し倒す。

「いっ、いや。やっ、……止めて」
「うっせー。へっへ、俺がヤッテやるぜ。覚悟しろ」
「いや、蓮治くん助けて、蓮治くん!!」
「助けなんてこねーよ。覚悟しろ!」
「いやっ、いやーーーーー!!!!!」

友則は千尋の服に手を掛ける―――――

*********

一方同時刻。

「殺し合いねえ。何が楽しくて殺し合いなんて………しかも言葉や世界や清浦や泰介や加藤まで…………全員見つけねーと
やばいよな。言葉とか男苦手だから、いきなり知らない男の人と会えばトラブル起こしそうだし」

伊藤誠は一人嘆息する。
武器も確認したが、オートマの銃が一挺と無数のカレーパンのみだった。
銃は心強いが、人を殺す気が無い誠はデイバックの奥に封印してある。

「はあ、この首輪どうにかならないかな。やっぱ死にたくないし、言葉達と一緒に帰りたいし……」
「いやっ、いやーーーーー!!!!!」
「うわっ!?」

突然の悲鳴に驚く。
だが、すぐに悲鳴の元へと向かう。

 女の子の悲鳴?言葉達とは違うけど……一体何なんだ。

誠は走り出す。
その後も悲鳴は絶え間なく響く。
そして、時折男の乱暴な声も。

 一体何が……

誠は悲鳴の元に近づくと、そっと物陰に身を隠しながら様子を見る。
すると………

「いやっ、止めて、蓮治くんっ、蓮治くんっっ!!」
「静かにしろ。さっさと死ねーと、マジ殺すぞ」

男が女を組み敷いている光景だった。
誠の位置からは丁度倒れた二人の頭が見える位置だ。
そして少女が必死で男を跳ね除けようとしているのが見える。

 こんな所で何やってんだよ。えっ、襲ってる?ふざけんなよ。くそっ、警察に………ってここ警察いねーよ。
 バカか俺は。くそっ!俺しかいないのか………俺が助けるしか……

誠はこの非常事態の前に混乱を覚える。
だが、見てみぬふりが出来るわけもない。

 逃げたいけど……けど………

「いやぁっ!助けて、いやっ、いやいやいや」
「うるさい。静かにしやがれ」

男は強引に服の上を引っ張り、下着を露わにした。
そしてこの光景をまえに、誠の迷いは何か吹っ切れる。

 って、逃げてる場合じゃねえよ。もう冗談じゃすまねーよ

誠は意を決して走り出す。

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」

自らの勇気を奮い立たすように雄たけびを上げて一気に友則との距離を詰める。

「なっ、何だくそ、邪魔すんじゃねー!!!」

当然その叫びは、友則の耳にも届く。
すぐに起き上がり、迎撃しようとする為に両手に地面をついて立ち上がろうとし、

「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!」

それは友則にとって最悪のタイミング。
友則は相手が喧嘩慣れしてない為、掴みかかってくると想定していた。
そして、そうであれば、充分に友則も迎え撃てる猶予があった。
だが、誠がそのまま足でサッカーボールを蹴るように全力で友則に蹴りを入れに行った。
そして友則は両手を地面につけ、立ち上がる体勢。
この位置関係は友則の頭の高さがサッカーでボレーシュートを打つのに理想的な位置だった。
そして誠は全力で足を振り切って友則の頭をボールであるかのようにけりこんだ。

「ぐぎゃっ!」

友則は左頬からその蹴りを受けて大きくのけぞるようにして倒れる。
そして、友則のプレッシャーが無くなった千尋はすぐさま、服の胸元を整えて立ち上がる。

「あっ、あの助けていただいてどうも」
「いや、夢中だったから……」
「いえ、でも本当に感謝してます」
「ああ、なら俺も嬉しい……っ」

誠は千尋と向き合い、千尋の素直な感謝に少し恐縮してしまう。
このような純粋で真っ直ぐなタイプは誠の周りにはいないので少しばかり戸惑ってしまう。
だが、そんな事も言ってはいられない。

「ぐっ、なんだよ、ふざっ……け……………」

友則が動き出していた。
正確に言えば、まだ身じろぎをした程度で決して起き上がってはいない。
しかし、声には殺気がある。
決してまだ、戦意が失われてはいない。

 なんだよ。まだ動けんのかよ。くそっ、起き上がれられたら、俺じゃ勝てない。くそっ!!

誠は友則に向かい走り出す。

「はああっ!!」
「なっ!?」

誠は一気に足を振り上げて、起き上がろうとした友則の顎を思いっきり蹴り飛ばした。
当然、友則の頭部は一気に跳ね上がり、

「ぎゃう!!」

そのまま、アスファルトの地面に顔から倒れ墜ちようとして、

「くそっ!!」

誠が振り上げた足を下ろすのが、踵落としのように友則の後頭部に直撃して、友則はトマトが潰れたような音を響かせて
顔面をアスファルトに叩きつけて動かなくなった。

「あの……もしかして死んで……」
「大丈夫と思う。俺は人は殺す気は無いから……死んでるとは思えない」
「そうですか。なら………大丈夫ですよね」
「ああ」

誠の言ってることには説得力など無いのだが、千尋も納得してしまう。
もとより強姦未遂男を、殺したくないとは思っても、『死んだら困る』わけではないので、深く思い悩む義理も無いのだが。

「じゃあ行こうか。えっと、名前は?」
「新藤千尋です」
「そっか、俺は伊藤誠。じゃあ行こうか」
「えっ?」
「さっき蓮治くんって呼んでただろ。なら名簿なら多分……麻生蓮治と思うから、一緒に探すよ」
「ありがとうございます」
「別にいいよ」

 ああ、別にいい。礼の必要は無いよ。やっぱり困ってる女の子は苦手だ。不安そうな女の子は苦手だ。俺が落ち着かない。
 だから、これはきっと……

「助けたいってのは俺の勝手な気持ちだからさ」
「えっ?」
「いや、なんでもないよ」

 ああ、なんでもない。………なんでもね


*********

誠と千尋が去って、約数十分後。
ぴくぴくと痙攣している、友則の近くを一人の女性が通りかかった。
綺麗な薄い白が強く掛かった紫のロングヘアの美少女と美女の間といった年齢の女性。
高岡未来。
本来は高岡晃範の携帯電話だが、擬人化して今の姿になったのである。
そして彼女の目的は決まっていた。

「晃範………晃範は絶対に死なせない。私は晃範の携帯電話だから………晃範は絶対に守る。それなら…………
生き残るのが一人なら私は晃範を優勝させる」

未来の決意は強い。
彼女は支給された刀を手に持ち、一人歩いている。
そして、遂に一人の男の前を通りかかる。
男は顔面からアスファルトに倒れている。

「生きてるの?」

未来は罠の危険を考え、腕に刀を突き立てる。
すると、

「うぎゃあああぁぁぁっっっ、いてえ」

男は腕を押さえながら、のたうちまわる。

「いっ、いてって……えぇ!なんだよ、もう勘弁してくれよ。もうしないから」
「晃範」
「えっ?」
「晃範を知らない。白い髪の眼鏡をかけた男の人」
「しっ、しらねえ。俺が知ってるのは眼帯の女と女みたいななよっちい黒髪の男だけだ。だから助けてくれ」
「そう」
「ああ、だからたすけ―――」

友則の言葉は最後まで続かない。
言い終わる前に未来は友則の首を飛ばしたからだ。
すると未来は、すぐに近くに放置された友則のデイバックを拾い上げる。
中から出るのは一挺の突撃銃。
未来はそれを肩にかけて、歩き始める。

「……晃範。私が守る。…………絶対に」

一人の女性がいま、手を血に染めて歩きだす。


【H-08 市街地 南部 一日目 深夜】

【伊藤誠@School Days】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 グロック19(20/19+1)@Phantom -PHANTOM OF INFERNO- 相当数のカレーパン@CROSS†CHANNEL
グロック19の予備マガジン×5@Phantom -PHANTOM OF INFERNO-
[思考]
基本:言葉、刹那、世界、泰介、乙女の五人と合流。
1:千尋を蓮治にあわせる。
2:人は殺さない。けど、困ってる人は見捨てられない。


【新藤千尋@ef - a fairy tale of the two.】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 未確認支給品1〜3
[思考]
基本:蓮治くんに会いたい
1:誠くんと一緒に蓮治君を探す。
2:火村さんやお姉ちゃん(新藤景)にも会いたい


【H-08 市街地 北部 一日目 深夜】

【高岡未来@FairlyLife】
[状態]:健康
[装備]:AK-74(30/30)@Phantom -PHANTOM OF INFERNO- 妖刀ハラキリ丸@CROSS†CHANNEL
[道具]:支給品一式×2 AK-74の予備マガジン×5@Phantom -PHANTOM OF INFERNO-
[思考]
基本:晃範を優勝させる
1:晃範以外に出会えば殺す。
2:でも、もしもあさがお、頼子、南、結花子、弓月に会った場合は?

【早間友則 死亡】
【残り98人】




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