オープニング 地獄の始まり






 修学旅行。
 皆で楽しく過ごす目的地へのバスの中。
 しかし突然強い睡魔に襲われて、意識を奪われ、気が付けばそこは見知らぬ教室。
 そしてその後はあまりにも荒唐無稽な展開。

「皆さんには殺し合いをしてもらいます」

 タイトルは確か『バトルロワイアル』という名前だったかな。
 そんな小説を読んでいたらいつの間にか眠ってしまった。
 寝る前に読んだ本が悪かったのかな?

 オーストラリアの音羽町で平和に暮らしていた僕、麻生蓮治は何だか目が覚めたら明らかに周囲が『おかしな』事になっていた。
 何というのかな。
 僕は確かに眠っていたんだけど、起きたらそこはソファーになっていて、眼の前には大きなモニター。
 背後を振り返ると背後は壁になっていて、密室に一人。
 そんな状況だった。
 ソファーの脇にはバッグが落ちているし、モニター前の小さな机にはPDAみたいなものが置かれていた。
 寝る前に読んだ本のせいでおかしな夢でも見てるのかな?
 そう思って頬を軽く抓ってみたけど、やっぱり少し痛い。

「夢じゃないのかな?」

 僕は思わずそんな独り言を呟いてみた。
 でもどうしたらいいんだろう。

「密室じゃ何も出来ないよね。とりあえずバッグの中……見てもいいのかな」

 何となく誰に確認するでもなく一人声に出してみた。
 当然返事は無いんだろうけどね。

「……うーん。中……見ますねー」

 もう一度声に出していざバッグを開けてみようとしたとき。
 眼の前のモニターが映像を映し出してきた。

「うわっ………って、えっと……なにこれ…………アニメ?」

 モニターにはデフォルメされたキャラクターが映し出されていた。

『やあ皆。始めまして。スミスだよ。実はさっきようやくこれから行うゲームに参加する人が皆目覚めてくれたから、
説明を行うよ。まずはね。うん。君たちがこれから行うゲーム。それはね………『殺し合い』なんだ。僕が普段説明している
ゲームは殺し合いとは違うんだけどね。今回は純粋に『殺し合い』勝利条件はね。何でもいいから『参加者を自分以外死亡』
させればいいんだよ。うわー、とってもシンプルで分かりやすいね。でも、もちろんただじゃない。勝利者には特別な御褒美が
あるんだよ。これはすごくいい御褒美。普段は賞金二十億円なんだけど、今回は何というか『お金じゃ手に入らない物』
をほしがってる人が凄く多いから、『願い事なら何でも叶えちゃうよ』に変更したよ。これは本当に本当の意味で何でもだよ。
嘘じゃない。死んだ人を生き返らせたいでも、あの時に戻ってやり直したいでも、起こってしまった悲劇を無かった事にしたいでも、
あらゆる意味で何でもいいんだよ』

スミスは甲高い声でしゃべり続ける。
しかしそれは蓮治には信じられないことだった。

「死んだ人が生き返る?そんなのありえないよ」

蓮治は思わずそんな感想を声にする。
それは他の参加者ももちろん同じだった。

「死んだ人が生き返る………神でもあるまいに」
「はあ、なにこれドッキリ?ならもう少しマシなの仕掛けなさいよね。マネージャーったらろくな仕事とってこないんだから」
「へえ、ジョークにしては凝ってるね。でもセンスが悪いね」

他の各部屋でも全く信じていないといった言葉が口々に出ていた。
しかし、スミスは続ける。

『うん。やっぱり皆信じてないね。まあ仕方が無い。それはおいおい信じてもらうとして、次は細かいところの説明に入るね。
信じなくてもいいけど、ちゃんと聞いた方が賢明だと思うよ』

そういうスミスの言葉に蓮治は一応説明を聞いてみる。

『殺し合いなのは説明したよね。だから皆には僕からプレゼント。皆気付いてると思うけど、君達が座っているソファーの脇には
デイバッグが置かれてるよね。それには地図や名簿。大体五日分の飲み物と食料、それに筆記用具。腕時計に懐中電灯。
それと、一番大事だと思うけど、謎の運任せのランダムアイテムが一個から三個入ってるよ。中は強力な銃火器からおもちゃまで。
本当に運任せ。それと、さっき言ったものだけど、あんなにいっぱい入ってたらとてもじゃないけど、持って移動なんて
無理と思う人もいるよね。だけど、安心して。一度持ってみたら分かるけど、そのデイバッグ。幾ら物を詰めてもちっとも
重くならないっていう魔法のデイバッグなんだ。ねえ、僕って優しいでしょ。ちなみに、名簿に記されている名前は100人。
つまり生き残るには99人死なないと駄目なんだ。頑張らないとね』

スミスは説明を続けているが、蓮治はそれを聞きながら一度バッグを持ち上げてみる。

「軽い?」

蓮治は少し驚いてしまう。
魔法が本当なら殺し合いも本当?
そんな言い知れようの無い不安が。

 まさか魔法……まさかね。そんなわけ……

『それとモニターの前にはPDAが置かれてるよね。気付いたかな。それにはさっき言った地図と名簿と時計の機能が付属してるよ。
機械が苦手じゃないなら、PDAの方で確認した方が見やすいと思うよ。それと僕からの大サービスでPDAの地図には自分の現在地を
特定するGPSを標準で装備しておいてあげたよ。これで迷わないよね。それから、さっき言ったランダムアイテムの中には、
このPDAをアップグレードするソフトも含まれるからね。どんな機能かは見てのお楽しみ。あとね。皆殺し合いがどれくらい進行
しているかを、殺し合いの会場全域に設置したスピーカーを通して教えてあげるね。六時間ごとにそれまでに死んだ死者を
読み上げてあげるから。時間は朝6時、昼の12時、夕方6時、深夜12時。丁度六時間おきだね。ちなみにゲームの開始予定時刻は
深夜12時だからね』

スミスはここで説明を打ち切る。
しかし蓮治はまだ実感が沸かない。
殺し合いが本当だなんて信じられないのだ。
そしてそれは一部を除いて、蓮治と同じだった。

「おいおい。いつまで付き合えばいいんだ。こんな遊び」
「何だかだんだんイライラしてくるわね。ああもう。さっさと開放しなさいよ。このバカ!!」
「このアニメキャラクター……ちょっと面白いかも」

とまあ、多種多様なリアクションをスミスに対して見せていた。

『うーん。やっぱり殺し合いって実感沸かない?なら特別に、殺し合いが始まって24時間死者が出なかったり、五日間経っても
二人以上生きていた場合どうなるか。映像で見せてあげるね』
「えっ、映像?」

蓮治は思わずモニターを少しばかり強めに注意して視線を向ける。

『まずは首を注目してね。みんなの首にも同じ物がついてるから。それじゃいっくよー!!」

モニターの画面はスミスの言葉と共にアニメーション画面から実写へと切り替わる。
するとそこには、一人でコンクリートで出来た通路を歩く小太りな中年男性が映っていた。

『なんだ。ここは一体何処だ。俺は一体……はあはあ』

どうやら長い間歩き続けて疲れているようだった。
しかし、蓮治はその見ず知らずの中年男性の素性よりも、その男の首に注目していた。

 なんだあれ………首輪?……って

「えっ!?」

蓮治は自分の首の感触を確かめて、思わず声をあげた。
自分の首にもいつの間にか首輪がついていることに、この時になってようやく気付いたのだ。

『はあ……はあ………一体どうやれば外に出られるんだ?』

中年男性は疲れた様子だが、そこに突然警告音のような物が聞こえる。
いつの間にか首輪は赤く点滅し、なにやらピー、ピーという焦るような音が発せられているのだ。

『何だ!?一体なんなんだ!?」

中年男性は狼狽をしているが、首輪の警告音を止める術など当然持っていない。
つまり、何も出来ないのだ。

『うわっ、くそ、くそっ、鳴り止め!なりや――――』

そこで中年男性の首がはじけた。
血が飛び出て、胴体は首を失ったまま倒れ、首は無惨に男の足元へと転がっている。
とてもCGや人形とは思えない。
リアルすぎる映像は趣味の悪いスプラッタービデオの映像よりも更にグロかった。

「っ!」

その光景に思わず蓮治はモニターから目を逸らす。
だが、しばらくするとモニターから再びあの甲高い声が聞こえてきた。

『やあ、ちょっとショッキングすぎたかな。でももう大丈夫。目を閉じてたり、してる人ももう安心だよ。流石にいつまでもあの
映像を出しっぱなしにはしない。もうあの映像はモニターには映さない。だからこっちを見てよ。まだ説明があるんだから』

蓮治はその声を聞き、恐る恐るモニターに視線を向けるが、映像はあのスミスのアニメーション映像だった。
それに少しばかり安堵する。

『いやあ、ゴメンゴメン。さすがにちょっとショッキングすぎたね。僕もビックリだ。火薬の量のせいかな。でも雑談ばかり
してたら駄目だから、最後の説明に入るね。さっきの爆発。アレは本当だよ。信じなかったらみんなの首輪が爆発するよ。
それともう一つ。さっき死者を教えてあげるって行ったけど、この時に禁止エリアも教えるんだ。だからこの禁止エリアに
入っても、首輪が爆発するよ。もちろん、その時にはちゃんと30秒の警告をしてから爆発するから、すぐに出てくれれば
問題は無いよ。本当は進入即爆破でもいいんだけど、間違って入って即死じゃ可哀想だからね。僕からのサービスだよ。
ちなみに最初の方に教えたと思うけど、ランダムアイテムが気に入らなかった場合は、会場の至る所にもいっぱいアイテムは
置いてあるからね。探して元気に殺しあってね。じゃあ僕からの説明はここまで。今から十秒後君達は会場のどこかへと飛ばされる。
会場に着いたら殺し合いはその瞬間に始まるから、油断しないようにね。じゃあバイバイ」

 殺し合い?本当なのか……

麻生蓮治は未だに確信が持てないまま、時間がすぎ、蓮治の姿はモニタールームから消える。
それと同時、他の人物も全て説明を受けた部屋から姿を消した。
全員に向かう場所は殺し合いの会場。
殺し合いは今、始まった。


【漆山権造@シークレットゲーム -KILLER QUEEN-DEPTH EDITION 死亡】
【残り100人】

ゲーム進行
【シークレットゲームの運営組織@シークレットゲーム -KILLER QUEEN-DEPTH EDITION】

黒幕
【???】



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