『死』と『生』






木々が茂る薄暗い夜道、辺りには地面を臥しこむ二つの足音だけが流れる。
一人は赤木しげる、一人は泉新一、そしてその右手に寄生しているミギー
それが当然のように二人の間には、目に見えて距離があった。

「……そう、怒ることでもない……なに、光点まで連れていってくれたらいいだけだ、簡単なことよ」
「……」
「クククッ……嫌われたな」

新一が怒るのも当然のこと、ドラゴンレーダーを直してやると赤木は言った。
それは置き換えると自分が破壊、故障させたと宣言したようなものだ。
誰が自分の行動を邪魔する男に、心を開くものがいるだろうか
そんな新一の思いを無視して赤木は語りかける。

「……ところで新一、お前は殺し合いをしないと言っていたが、その最終目的はどこにある?」
「……最終目的??」
「……そうだ、最終目的」

(生き残ることだ)

ミギーは心の内で赤木からの質問へ即答する。ミギーの答えには常に生きるという根底がある。
しかし、人間である新一は即答できずにいた
……殺し合いはしたくない……そして、ドラゴンボールも集める気はない
ミギーに聞いてもこの殺し合いに『穴はない』という……だから、この殺し合いを止める為にも壊す為にも人を集めるつもりだった。
だが……最終目的……それは……

「なんだ? 答えられないのか?」
「クッ……一人も死なずにこんな馬鹿げた殺し合いを止めることだ!」
「……そうか……しかし、どうやって止める?」
「そんなこと、人に会ってから考える」
(……無茶だ)
「クククッ……なるほど……だがお前の右手はなんと言っているのだ?」
「!!」(!!)

何度目か分からない緊張がミギーと新一の間に走る。

「……なに、隠すことはない……最初に出会った時からお前は変だった……だが、それ以上に……」
「それ以上に?」
「……お前は人間じゃない」

「……えっ!?」

人間じゃない……今まで、それとなく言われてきたこともあった新一……
だが、ここまで言い切られたことは初めてだった。

「……人間じゃないというのは言いすぎかも知れないが……少なくとも、『混ざっている』……!
 人間ではないソレが……お前の瞳を見れば分かる」

深い闇と黒が混ざる赤木の瞳が、新一の瞳の奥の奥へと覗き込む

確かに新一の住む世界にも本能で正体を見破ってくるものはいた。
新一は気づいていないが、浦上と呼ばれる殺人鬼は新一の正体を直ぐに見抜いてきた。
それは殺人という生物の本能にのみ従って生きてきた浦上のみに与えられた一種の超能力
本人曰く、自分自身が『人間』……『人間』だからこそ、それ以外の種族を判別できると……
そして、新一の前にいる赤木しげると言う男……この男も浦上とは違う形であるが、『本能』に生きてきた男。
その男が新一の中に混ざるソレを見逃さないことは、最早、当然のことであった。

(…………)

「そ、そんなことありませんよ」
「……クククッ……事情があるのか……だが、此処まで俺が問い詰めている以上、お前が正体を明かそうが明かさまいが
 状況は変わらない……いや、むしろお前への疑惑が強くなってレーダーを直さないかも知れないな……」
「……そんな」
「それにな……もう桐間という男に正体がばれていることは必須……必然……!」

赤木の邪推な横顔が新一の心を沈ませる。
だが、それでも新一は喋るわけにいかなかった。喋ったらミギーが赤木を殺す……それだけは避けたかった。
それはこの殺し合いの舞台でも、日常においても変わらない。

「もういい、シンイチ」
「なっ……ミギー???」
「ほう……これは予想外だ……」

言いたいけど、喋れない……その葛藤で彷徨っていた新一の前に
本来の右手の形ではなく異形の形をした右手の姿……ミギーが赤木へと正体を晒していた。

「赤木の言うとおりだ、ここで私の存在を隠し通しても意味がない……それにこの男に興味が沸いた」
「それは光栄だな……クククッ……」
「いいのか?」
「構わないさ、君が死ぬことやレーダー復帰に比べたら些細なことだ、それに赤木が言うとおり桐間という男にはバレているだろう」

簡単に言ってくれるミギーを他所に、新一は驚いていた。それも無理はない。

いくら、主催側である桐間に正体がバレている可能性が高いとはいえ、彼が知る限り、ミギーが自分から正体を明かしたのは初めてのこと
常に冷静にしているミギーがその判断を下すほどの人物
……赤木しげる……只の年寄りではないと思っていたが、それほどまでの人物だと新一は改めて認識する。

「……新一……改めて自己紹介してもらおうか?」
「分かった、こいつはミギー」
「……クククッ……そうじゃない、そのミギーの生まれた理由……そして、お前のこれまでの人生を聞かせてくれるか?」
「人生?」
「そうだ、新一、お前の一風変わった人生……それを聞かせてくれ……それによってはお前の殺し合いを止めるということ
 ……そのヒントをやれるかも知れない」
「ヒント? 止める術を知っているのか?」
「……正確には違うが、ヒントにはなるはずだ」
「……わかった、正体を明かした以上、私とシンイチとの関係、そして私に関わる仲間についての情報を話そう」

ミギーと新一……二人は赤木に自分達の馴れ初め
その後の人生、つまり寄生生物との戦いの日々を話していく。
女教師のパラサイト「田宮良子」が紹介してきた男「A」との戦い
新一の人生を変えたミギーの寄生よりも、更に新一の全てを変えた戦い……母親に寄生したパラサイトへの復讐劇
その際、新一は胸に致命的な一打を受けたが、ミギーの働きにより一命を取り留めた。
それと同時に新一の体内にミギーの一部が残留する事態になり新一の身体能力は驚異的に向上した。
他にも、新一に想いを寄せた少女、加奈の死など……とても一人の高校生が耐え切れるものではない出来事の数々
最初から最後まで後味の悪い話……中でも新一の母親が殺されたときの話になると新一の残された左腕が強く軋んでいくのを、赤木とミギーは見逃さなかった。

「……事情はよくわかった……つらい話をさせてすまなかったな、新一」
「……いやいいよ……俺は知り合いの女の子が死んでも泣くこともできない男だから」

ミギーの一部が体内に残留しているせいなのか、新一は周りから冷たい、冷静と言われることが多くなった。
それは新一本人は当初気づかなかったが、加奈の死、いつも傍にいてくれた里美からの一言
どんな事態に陥ろうと落ち着ける体質、これらが気づかせてくれた。
ミギーには褒められるほどの精神力を手に入れたが、それが新一を孤独にさせていく。
―――まるで胸にぽっかりと穴が空いたように

「……新一、話を聞く限りお前は自分が冷たいと思っているようだな」
「ええ、泣くときに泣けない、悲しむこともできない、ただ漠然と空白ができるだけ」
「……フフッ……人間は皆冷たいさ……泣けば悲しんでいる……そんなもの虚像にすぎない……!」
「でも」
「……まあいいさ、お前にもいつか分かるときが来る」

いつか分かるときが来る、その言葉を発する赤木は自分に言い聞かすようであり、独り言であるかのように
どこか影を落とすもの言いであった。

「……それで話は変わるがお前達は名簿を確認したか?」
「まだ……」
「した、私が確認して全て暗記している」
「ミギー、何時の間に?」

驚きはしたが、声を重ねるミギーをみて、改めて頼もしく思う。
確かに名簿の確認を怠っていた。そんな基本的なことにさえ頭が回らなかった。

「生き残る為には当然だ……そうだろ、赤木」
「……ああ、そうだ ミギーが暗記しているなら話が通じると思うが……さっきお前達が話した中で登場した寄生生物
 後藤が参加者の中にいるな」
「その通りだ」
「……そして、お前達の知り合いは後藤しかいないと」
「その通りだが、不満か?」
「……不満だ、泉新一の横には後藤の文字……そして、その次の名前は浦上……この男の名前を本当に知らないのか?」

ミギーと赤木の会話に今一つなじめない新一であったが、浦上という名前にどこか聞き覚えのある気がしてくる。
だが、それ以上のことは出てこない。

「私もシンイチも知らないな、浦上という苗字は沢山あるが、私達に深く関わる浦上と言う人間はいない」
「……そうか……なら浦上というものは一人かも知れないな」
「一人?」
「……此処までだと、まだ分からない……しかし、俺の知り合いを言えばお前なら気づくはず……
 ……この名簿の中にある、井川ひろゆきと僧我三威は俺の知り合いだ」

ここに来て、ミギーはようやく気づいた。後藤の名前が横にあるだけでは確信できなかったこと
それが赤木と新一の知り合い……その二つから名簿を覗けば自然と見えてくる

「並びか」
「……ああ」

理解している二人を置いて、新一だけ付いていけない。
そんな新一を察したのかミギーが新一へと語りかける。

「いいか、シンイチ、最初ルールの説明をされた部屋で私たちはクリリンという少年、シェンロンと呼ばれる謎の神
 ドラゴンボールと様々な非現実を目の当たりにした」
「ああ」

確かに非現実、幾ら寄生生物の存在を知っている新一でもあのような龍の姿、とても現実とは思えない。

「もし、あれを事実と認めるなら、私達の世界にあのような生物がいたことになる……しかし、断言しよう
 ドラゴンボールも、あのシェンロンも私達の世界には存在しない……存在してはならないものだ」

「……俺の世界にも存在しない……ついでにいうとお前達の世界のように寄生生物による大量殺人も発生していない
 ……それだけではなく、西暦……つまり時代が違う」

時代が違う……これには新一も驚く、小説などのフィクションでしかそんなことはありえないと思っていた
しかし、現実に目の前に存在する赤木は西暦が違うと告げた。そう言われると信じるしかない。

「それらを全て含めて見えてくるもの、それは私達とは世界そのものが違う生物がこの会場には沢山いるということだ
 名簿を見ずとも分かっていたことなのだが、赤木との話でもう一つわかったことがある、それは……」
「……名簿の順番……同じ世界から複数連れてこられ……その世界ごとに固まった順番でこの名簿に並んでいる」
「でもそれが分かって何か変わるのか?」
「変わらない」
「……まあ、そうだな」
「そんな」

ヒントになると言われ、もっと具体的な答えが返ってくると思っていた新一は軽く落胆する。

「……だが、お前が殺し合いを止めたところで、この場所からどうやって脱出する?どうやって首輪をはずす?
 ……殺し合いを止めるということは……そうだな……言わば脱出と首輪……この二つの楔を解いてようやく達成される」
「そして、その脱出と首輪外しの為に重要なことは複数あるが、今できることは主に二つだ
 一つ、この殺し合いを開催した人物、桐間創一と同一世界の人物を探すこと
 一つ、ドラゴンボールに詳しい人物を探すこと……簡単に言えばこの二つ」

赤木とミギー、二人の声が交互に被さっていく。

「その二つ、それを達成する際に名簿の法則を参考にすれば合理的という話だ、シンイチ」
「……そう……それこそが脱出……この殺し合いを止めることへの第一歩になる……!」
「本当はシンイチに言うつもりはなかった、行動を起こすと死ぬ確率が増えるから」
「……俺も言うつもりはなかったが……まあ、ミギーの件に免じて教えてやったわけだ……」
「……二人とも」

赤木とミギー……この二人は新一から見ると最強のタッグ。
ただ、漠然と殺し合いを止めたいと思っていた新一にこれからの行動方針、最終目的への通り道を教えてくれた。
だが、それだけに新一、赤木、ミギー三人の方針違いが悔やまれるものだった。


今は、ドラゴンボールの在り処、つまり光点の位置へ向かっているのだが
それまでに何とか二人を説得して、自分とともに殺し合いを止めるようになってもらいたい、そう願わずにはいられなかった。
しかし、何度も赤木を説得するが、当然のように聞く耳を持たず、ミギーにいたっては俺を無視して赤木とずっと話しをしている。

「赤木は私が会ってきた人間にはないものを持っている、単純に好奇心で彼と接しているだけだから気にするな」

だとよ、それは好奇心ではなく、好意なんだよミギー
赤木とミギーの間に若干の嫉妬も入るが、二人の話にはイマイチついていけず、ただ足を進めていく。

「……ミギー、お前はこのギャンブル……殺し合いをどう考える?」
「愚問だな、先ほどはシンイチに助言をしたが、まず優勝以外には手がない、赤木にもシンイチにも悪いが私の目指すものは優勝一点だ」
「……やはりそうか……お前は新一とは違う考え……しかし……甘い!……その考えは甘い……!」
「甘い? この私の思考が甘い?」
「……そうだ、ミギー……お前は甘い」
(ミギーに反論している? これは初めてみるな)

「……お前と新一……二つで一つ……これを忘れるな……それが原点、お前達の強さのはず……!」
「なるほど、一理ある」
(ミギーが素直に聞き入れてる?)

新一が何かあるたびにフォローに周る、サポートする。
言い合いになっても、ミギーの理論は崩れない、折れるとしてもそれは新一自身が本体であるがゆえの納得
第三者からの忠告、それをミギーが素直に受け入れている……新一にとって、それは予想の斜め上をいくものだった。
新一は意識せずに、二人の空気は独特……人間が踏み込める領域ではないと認識をした。
まるで右脳と左脳の喋り場にいるかのような錯覚に陥る。

「……それにな……このギャンブル……殺し合い……抜け道はあるッ……!」
「悪いが赤木、そこには反論させてもらう……首輪に並ぶ数々の仕掛け、これらを解くのは不可能だ」

お互いが自分の意見を完全に言い切る

「……ふふ……ミギー、お前が主催者ならそうだろう……きっと100%脱出不可能な仕掛けにしてくるはずだ
 ……悪いなミギー……人間とはそういうものではないのだ」
「理解できない、あの桐間という男がわざわざ脱出可能な状態にしているとでも言うつもりか?」
「その通りだ……」
「ありえない」
「ふふ……それがありえるのさ……人間は合理性で生きていない……考えてもみろ、保身を考える人間が最後、ドラゴンボールを6つ集めた者と勝負などするか?
 ……奴は勝負したいのさ……奴も自分の命をかけてギャンブルに身を染めている……狂気の沙汰にいる人間……」
「ますます理解できないな」

「そうさ……理解なんてものはできないところにいる……脱出不可能な場所なんてひとつもない……
 それを、人が作ったものなら尚更な……奴は無意識のうちにスリルを楽しむ……そこに必ずスキがある……!」
「なのに、お前はシンイチと同じように殺し合いを止めて、脱出を図ろうとはしないのか? そうしてくれればシンイチも喜ぶ」
「……駄目だ……俺はドラゴンボールを集めて最後のギャンブルに挑む……そこは譲れない……」
「赤木、お前は全てに偏っているな」
「そうだ、俺は偏っている……それのみに頼って生きてきた……今更変える気もない……」

ミギーと赤木、二人の話は光点の位置にたどり着くまで止まることはなかった。
所々、脱出、首輪に関する考察も話しているようだが、新一がその話に混ざるわけではなく、いや混ざることはできないものだった。
代わりにその卓越した感覚で周りの気配を探りながら歩を進めていくのだった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □




「……着いたか」

赤木がそっと零す。
一番近い光点、それは暗闇の中でも一層の闇が漏れている建物……廃ビル
廃墟に棲む裸の王 カールが待ち受ける廃ビルへと赤木、新一、ミギーはたどり着いていた。

「……この中にドラゴンボールがあるのだな?」
「ああ、間違いない、この中にある」
「……じゃあ行ってくる」
「ああ」
「じゃあな、新一、ミギー」

赤木の背中だけを見届け、新一は廃ビルから遠ざかっていく。

「ミギー、レーダーの件はよかったのか?」
「……それはいい、アレは赤木のブラフだ」
「ブラフ?」
「君は知らなくていいことだ、赤木は私の存在を明かしたことで君への邪魔をやめたんだろう
 それが彼なりの礼儀のつもりらしい」

そう、赤木は新一のレーダーを奪おうと思えば如何なる手段を用いてでも奪うことができる。
当然、単純に腕力の差では奪えないが、知力、騙しあいにおいては赤木に勝てるものなどいない。
それを実行しないということは、ミギーの言うとおり赤木なりの新一とミギーへの配慮だった。

「そうか、また会えるといいな」
「それは難しいかも知れない、あのビルには外から見ただけでも罠が沢山しかけてあった」
「な、それを言わなかったのかミギー?」
「言わなくても赤木は分かっている、だから私達についてこいといわなかった……赤木はそういう男だ、私達にこれ以上できることはない」
「……でも、赤木さんは危険な場所に踏み込んだ、俺達が助けに入らなくていいのか?」
「それには賛成できない」
「賛成できないって! また、俺達の命優先かよ! あんなに仲良くしてたっていうのにッ!」
「関係ない、私と赤木、仲がよかったではない……人間の言葉で言えば我々は似たもの同士……そう、同じ匂いがしただけ……それだけのこと」
「……そんな」

新一には理解ができない。
赤木とミギー、二つの生物に流れる空気は常人からみて異常そのもの
何も、高次元といっているわけではない
お互いがお互いを好いているのに行動に移せない
だが、それは二番……自分達の行動の指針になるものとは雲泥の差がある。
一番に守らねばならぬものを最重要とみる彼らにとって、二つ目以降にある感情は所詮戯言。
ミギーと赤木……この二人が自分達の信念を崩すことは恐らくない
ならば、二人が再び出会うことはほぼないだろう。

―――――泉新一が駆けないかぎり



【E-8 廃ビル付近/一日目早朝】

【名前】泉新一@寄生獣
【状態】健康
【装備】ボウガン(矢8/8)@現実、ドラゴンレーダー2@ドラゴンボール
【持ち物】ディパック(基本支給品一式)トランプ@現実
【思考】
1:赤木を一人で行かせてよかったのか……
2:何としても殺し合いを止めたい
3:桐間に関わりのある人物、ドラゴンボールに詳しい人物を探す

※参戦時期は原作七巻、後藤(三木)から逃げ延びた直後

【ミギーの思考】
1:何としてもシンイチを生き残らせたい。なるべく危険な事には関わりたくない
2:……赤木

※赤木とミギーで脱出、首輪に関する考察をしました新一は聞いてません。



一方、赤木は廃ビル一階中央部に足を進めていた。

「寄生虫か……」

赤木しげるは内心喜んでいた。
自分と対等に話せる生物……それは人間ではなかったが確かに存在した。
今までも対等に話せる人物がいたにはいた……その代表は天という男……しかし、天は自分とは違う、赤木が闇なら天は光、匂いが違う
自分と同じ匂いを持つ存在、それを感じたのはミギーが初めてだった。
赤木は思う、死の瞬間の最後の言葉はミギーと自分、恐らく同じ言葉を発するだろうと
短時間でそこまで、お互いを理解した……したからこそ、だからこそ、ミギーは自分の行動を咎めなかった。
赤木もミギーも基本は独りなのだ。
ミギーは赤木と接触し、『死にたがり』と思った。
赤木はミギーと接触し、『生きたがり』と思った。
死と生、この二つをお互いに感じながらも二人は同じ匂いを持つ存在。
それは二人の生と死、二つの考えが類似しているが故……
生と死は表裏一体ではない
闇と光……表と裏……違う……!
生と死は近しい存在、それこそが生物……極端な思考の違いを持つ二人だが……根元にある思想……それは同一のものだった。
同じ匂いを持つもの、このビルからドラゴンボールを奪取したならば、新一の元へ、ミギーの元へ戻るのも悪くはないと赤木は思う。

「それにしても……クククッ……一階には何のトラップもなしか……」

廃ビル一階、トラップはなし
それは侵入者にとって安心させるに十分。
初めて、この廃ビルに侵入するものからすれば、殺し合いの舞台での建造物
警戒しながら侵入することは必然である。
だが、一階に何もなければ侵入者はただの建物であると理解するだろう。
一階にトラップがないというのはそれ自体が心理的トラップなのだ。
しかし、赤木は揺るがない。

「ほう……これは……」

二階への階段の手前、壁に廃ビル内面図が張り出されていた。

その内面図によると、このビルは少々特殊な構造になっており、階段が一階から最上階の七階まで連続していない。
一階から二階への階段を登ると次の三階への階段は二階フロアの反対側、つまり必ず各階部屋の中央を通らなければならなかった。
それはまるで、RPGや少年漫画の敵地への侵入と似ている。
一つ、一つクリアして進んでいく、それを地でやらねばならないと思わせるもの

「クククッ……踊ろうじゃないか……このビルで……」

しかし、赤木は止まらない……この死の廃ビルに突撃することが自分の運命であるかのように



【E-8 廃ビル/一日目早朝】

【名前】赤木しげる@天〜天和通りの快男児〜
【状態】健康
【装備】八星球(ダミードラゴンボール)
【持ち物】ディパック(基本支給品一式)不明支給品0〜2個(確認済みかも)
【思考】
1: 廃ビルを制覇し、ドラゴンボールを手に入れる、手段、方法は問わない
2:ドラゴンボールを集めて主催者と勝負する。殺し合いが終了する前に、なんらかの手を使い早めに勝負したい。
  ドラゴンボール争奪戦には乗るが、殺し合いに乗るつもりはない




そして、赤木の侵入をカメラ越しに捕らえている男が此処に一人

「ハッハ……最初の犠牲者は彼かな?」

一人の老人の侵入……白髭の男、カールはその程度にしか捉えていない。
最初の準備運動、そう廃ビルの威力、脅威を確かめる最初の実験体
その程度の相手、カールは相手の名前も素性もさほど興味が沸かない。
勝つのは自分のみと信じている、つまりカールにとってはただのゲームなのだ。

「……さあ、ゲームの始まりだッ!!」




【E-8 廃ビル/一日目早朝】



【名前】カール@嘘喰い
【状態】健康
【装備】なし
【持ち物】ディパック(基本支給品一式)
     廃ビルの罠図面、モニタの説明書、ドラゴンボール(五星球)
【思考】0:私は賭郎に選ばれた! エクセレント!
1:ドラゴンボールに誘われて廃ビルにやってきた参加者の死を眺める。



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