ゲーム開始前夜エピソード0
修学旅行終了日・・・矢神学院高等学校 会議室・・・20時
「・・・以上でこのゲームの全容を説明を私小島亜也がさせていただきました。何か御質問等は御座いますか?」
と会議室に集められた教師達は顔面蒼白な表情で今の説明を聞いていた。
なぜこの様な事ことになってしまったのだろうか?少し話を戻してみる。
矢神学院高等学校 職員室前廊下・・・18時
「谷先生、2−Cの生徒は折角来て頂いた交換留学生と乱闘騒ぎを起こすとは全く何を考えてるのやら、大体・・・」
「は、はぁ・・・」
「本当ですな、毎回説教するわしの身にもなって欲しいものですな。」
「まあいいじゃないですか。もう修学旅行も終わったんですし、幸い大怪我した生徒も居なかったんですから。」
楽しかった修学旅行も終え、生徒達を家に帰した教師達には報告書の作成という仕事が残っている。
疲れた体を休める間もなく、教師達は修学旅行での問題点を話し合いながら校舎の廊下を歩いていた。
修学旅行を終えたとはいえ教師達の関係は変わらない。2−Cが問題を起こし担任の谷が加藤と郡山に怒られ、姉ヶ崎に慰められる。・・・その関係がいきなり終わりを告げるとしたら?
「あれ?」
「どうしたんです?谷先生。」
「いや、姉ヶ崎先生さっきから、他の先生にも生徒にもすれ違わないなと思って。」
「そういえば。」
「谷先生何を言ってるんですか。もう六時過ぎてるんですよ。それに今日は全ての部活が休みだと回覧したじゃないですか。」
「他の先生に会わないのは、わしらを職員室で出迎えるためじゃろう。」
「そうですね。」
もしこの時、誰か一人でもこの異変に気付いていれば・・・修学旅行から帰ってくる日だけが部活が休みだったこと・・・急に修学旅行が交換留学生を理由にイギリスから国内に変更された点・・・これから起こる悲劇は防げたかもしれない。
しかし、不幸にも彼らは誰一人気付かなかった・・・
ガラガラガラ・・・
「ただいま、修学旅行より戻りました。」
だが、誰が彼らを責めれただろうか・・・
「あれ、刑部先生珍しいですね?こんな時間まで残ってるなんて。」
それはこれから起こる現実が狂っていたのだから・・・
「谷先生早くここから逃げ・・・ガチャ」
刑部が何か言おうとするのを乾いた金属音が掻き消した。
「!?」
修学旅行から帰って来た教師達が見た光景は信じられない物だった、職員室に居る教師達とそれに銃を突きつける数人の兵士達だった。
矢神学院高等学校 職員室・・・18時
「あっ、あのドッキリカメラか何かでしょうか。」
最初に口を開いたのは谷だった。目の前で起きている光景は信じられない物だったのだからしょうがないかも知れない。
「先生方も冗談が過ぎますよ。」
姉ヶ崎は目の前の光景を冗談か何かだと思っているらしい。まあこの日本で生きている限りそれは当然といえる。
「先生方も粋な事をしますなー。」
「しかし、少々悪趣味ですな、私はもっと普通の物が良かった・・・」
加藤と郡山も同様なようだ。もっとも2−Cと付き合っているここの教師達では今の状況を本気としないのも分かるのだが・・・・。
もっとも次の一言で彼らは自分達の認識が甘かったことを知る事になる。
「先生方、修学旅行ご苦労様です。でも残念ながらドッキリカメラでも、冗談でも、2−Cの悪戯でもなくて全て現実ですから。」
と兵士達の中心に居た某名探偵物の黒の組織の様な黒尽くめの格好の女が言った。
矢神学院高等学校 会議室・・・19時
その後、修学旅行組みの教師達と職員室に居た教師達は兵士に銃を突きつけられた状態で会議室に移った。
「はい、先生の皆様お忙しい中貴重な時間を割いていただいて大変有難う御座います。初めて御目に掛ります。小島亜也と申します。」
小島亜也と名乗った(おそらく偽名)その黒尽くめの女は会議室の前に立ち営業マンの様な丁寧な自己紹介をした。
「皆さんもお忙しい身だと思いますので、手短にお話させていただこうと思います。ただし皆さんお忙しい中時間を割いてもらっていますので、話しの妨害等をした場合には蜂の巣になっていただきます。」
とても物騒な事を言う女性である。まあ会議室は銃を持った兵士達に占拠されており、周りを囲まれているのだから嘘では無いのは確かだが、
「そういうことですので兵士の皆さん、先生方のどんな小さい動きにも目を光らせといてくださいね。」
教師達の中には口に出さない物のなぜ警察は気付かないのか?そのうち助けに来るのではと甘い期待を抱いていたが、それは次の説明を聞いた瞬間甘い幻想である事に気付くことになる。
「では、資料の一頁目をご覧ください。・・・・・・・・」
説明は組織の大きさから始まり警察程度では太刀打ちできない事をつきつけられた。そしてゲームの内容を説明されて行くうちに組織のを恐怖に震えていた。
矢神学院高等学校 会議室・・・20時
小島の話が終わった頃には教師全員が何も考えられ無くなっていた。一種の現実逃避であろう。
「さて、質問が無いのなら早速今回のゲーム参加クラスを発表します。」
小島がそう言うと兵士の一人が縁日のくじ引きに使うような箱を持ってきた。
「ではこの箱の中に、この学校の各クラスが書かれたメモ用紙を入れて公平に選びます。」
まさかこの人殺しゲームがたかだか縁日のくじ引きで決められる事に対して、誰もが普通なら反論するところだろうが自分のクラスが選ばれないかという事で頭がいっぱいでそれど頃ではない。
「じゃあ選びますよ。」
そう言うと彼女はくじ引きの箱に手を突っ込んだ。
「!?」
「どうしたんです?絃子先輩どうかなされましたか?」
「いいや何でもない。」
「コラー!!折角の抽選会何だから私語しない。全く先生がこうだから学級崩壊が起こるのね。」
本当に学級崩壊を起そうとしてる人物に言われると、刑部も笹倉も立つ瀬が無いと思うが。
そして小島は遂に箱から一枚のメモ用紙を取り出した。
「では、発表します。今回選ばれたラッキーなクラスは・・・・2−Cです!!」
その瞬間どよめきが起こる。
「よりによって2−Cが?」
「いいんじゃないどうせ問題クラスだし。」
「僕のクラスじゃなくてよかった。」
ただ一人を除いて・・・
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、これは悪い夢なんだ!きっと起きるとまだ修学旅行で・・・」
谷にとっては受け入れられない現実だったのだろう。小島はそんな谷を無視しさらに続ける。
「はい皆さん私語はダメだって言ってるでしょ。静かにする!!続いて協力して頂く先生を発表させて頂きます。」
「えっ・・・」
これには教師達も度肝を抜かれ、再び静かになる。自分達も殺し合いの片棒を担がされるのだから、当然といえば当然なのだが。
「まずは担任の谷先生、保険医の姉ヶ崎先生、アマレス部の顧問をしており生徒に怖がられてる郡山先生、切れ者の加藤先生、あと生徒に人気の刑部先生と笹倉先生にお願いします。」
この発表に再びどよめきが起こる。しかしこれを制したのは意外な人物の一言だった。
「いい加減にしてください!!」
矢神学院高等学校 会議室・・・20時
「すいません。姉ヶ崎先生でしたっけ?御質問は挙手でお願いします。」
冷静に小島は対応したが、姉ヶ崎はそれが癇に障ったらしく普段では考えられないくらいくらい声を荒げて続けた。
「生徒達に殺し合いをさせたり、それに一番辛い筈の谷先生に手伝いをさせるなんて、どんな神経してるんですか!!」
「姉ヶ崎先生・・・」
どん底の今の谷にとってその時の姉ヶ崎がとても美しく見えた。そしてその姉ヶ崎に対して他の教師達も、そうだ、そうだとざわめきが起こる。
「先生達もいい加減にして下さい。さっきから自分の事ばかり、自分のクラスじゃなければ、自分じゃなければどうでも良いんですか。」
教師達もこれにはさすがにシュンとなってしまった。
「即刻このゲームを取り下げてさい!!」
姉ヶ崎は彼女には似合わない強い口調で、小島に対して言った。
「姉ヶ崎先生、申し訳ありませんが全てが決定事項でして、あまり困るような事は言わないで頂けますか。」
「貴方達が勝手に決めた事でしょう!!」
遂に怒った姉ヶ崎が立ち上がり小島に対し掴み掛かる勢いで前進して行く、兵士達は一斉に姉ヶ崎に狙いを付ける。
その時刑部は冷静に小島を見ていた。この状況で姉ヶ崎では無く小島の方を見ていたのは偶然では無いが、小島が銃を構える兵士を左手で制したように見えた。
(この状況で銃を制したと言う事は・・・)
「危ない姉ヶ崎先生!!」
「キャー!!こわーい!!」
その瞬間小島はこう叫び思いっきり姉ヶ崎を突き飛ばした。
「えっ」
もし刑部が一番前の席から飛び出さなければ、姉ヶ崎は後ろの席に激突して大怪我していただろう。ただ体格が同じ位の姉ヶ崎を全て受け止める事は出来ず彼女は強く肩を打ちつけた。
「ううっ、あーあ。」
余りの肩の痛みに姉ヶ崎は悶絶する。
「ああっ大丈夫ですか、私ったら思わず怖かったんで・・・今日のところはこれで終わります。」
それを聞いた瞬間選ばれなかった教師達はホッとしたのは言うまでも無い。
「ええと、郡山先生と笹倉先生は姉ヶ崎先生を保健室に連れて行って治療を、あと加藤先生、刑部先生、谷先生はこの後お話がありますのでこのままお残り下さい。お帰りの先生方は決してこの事を外部に話さないで下さいね。喋った人の一族全員消すのって結構手間なんで。」
そして加藤、刑部、谷の三人は残された。
矢神学院高等学校 副会議室・・・21時
「だからなんで私の生徒まで出さなければいけないんだ!!」
加藤の大声が別室から聞こえてきた。なぜ別室に居るかと言うと小島から一人ずつお願いがあると言ったのだ。
「加藤先生落ち着いてください。」
「これが落ち着いていられるか!!」
なぜこんな言い合いになっているのかというと、
「天王寺昇、東郷雅一、ハリー・マッケンジー、ララ・ゴンザレスの4人だけで良いんですよ。」
「何人だろうと一緒だ。だから理由を言いたまえ!!」
加藤は顔を真っ赤にして怒っている。普段の彼を知っている者なら全員が驚くだろう。
「うーん、そうですね。加藤先生はウナギの輸送の話を知っていますか?」
「ふん、知ってるに決まっているだろ!!ウナギを海外から輸入を試みたところ、最初のうちは何故か全滅していた。そこで係員の一人が自棄になってウナギの水槽にピラニアを一匹入れたって奴だろう。」
「なぜピラニアを入れたんでしたっけ?」
「簡単な事だ。ウナギは水槽に入れても外敵が居ないと余り泳がない、すると空気が水に溶けない為全員が窒息死する。
だがピラニアが一匹居る事で必死に泳ぐと空気が水に溶ける。まあ輸送中に食べられるのは一匹ないし二匹だから大量に運ぶ場合は全滅するよりはるかにマシと言うやつだろ。」
「だからそういう事です。2−Cをウナギ、2−Dの4人はピラニアと考えると如何ですか?」
すると加藤は何かに気付いたようだった。
「まっ、まさか・・・」
「そういう事です。2−Cは元々団結力の非常に強いクラスと聞きます。一番怖いのは24時間ルールで全員爆死される事です。」
「別にそれならそれでしょうがないじゃないか。」
「それでは困るんですよ。私が主催者の人達に怒られちゃうじゃないですか。」
「ふん、知った事か別のクラスの生徒でも全然構わんだろ。大体なんであの4人じゃないといけないんだ。」
自分のクラスを守る為に加藤も必死である。
「あの4人は非常に素晴らしいです。高校生では考えられない戦闘力そして経歴も。」
「経歴だと?」
「ええっ、実の叔父に父の会社を乗っ取られ基本的に人間不信のハリー・マッケンジー、
基本的に貧乏な国出身でこの裕福な国を疎ましく思っているララ・ゴンザレス、逆に裕福だがフランスに留学していた時酷い虐めに遭い性格が歪んでしまった天王寺昇・・・」
「東郷は・・東郷はそういうのは無いぞ。」
「東郷雅一は本人ではなく、彼の父親にこちらとしては恨みがあるんですよ。」
「くっ!?」
「それに4人全員が2−Cと問題を起してるのもポイント高いんです。」
「そうだとしても断る。」
その瞬間彼女は怪しい笑いを浮かべこういった。
「じゃあ2−Cはやめて2−Dに変更しましょうか。」
「!?」
「そうよねー、他所から持ってくるより持ってるところでやる方が賢い選択よね。」
「まっ、待ってくれ。」
「先生貸してくれる気になりましたか。」
最高でも一人しか帰ってこないのに『貸しては』可笑しな気がするが?
「そっ、それは・・・」
「もう、じれったいわね〜先生こうしましょう2−Cが全滅した自体で生き残った2−Dの生徒は全員セーフにします。」
「ほ、本当か!?」
「ええっ本当です。」
当然嘘である。もしそうなったらその場で加藤を殺し約束など反故にする予定だが、当の加藤はそんな事全く気付いていない。
「わかった4人を自由にしろ。」
生き残る確率が若干増えただけで生徒を危険の真ん中に放り込む事になんら変わりは無いが、しょうがなかったのかもしれない、心の折れてしまった加藤にはその少し増えた確率に縋るしか方法は無かったのだから。
「じゃあ4人をバスから連れ出す方法ですが・・・・」
矢神学院高等学校 副会議室・・・22時
「では次の刑部先生どうぞ。」
「刑部絃子入ります。」
「刑部先生さっそくお願いが・・・」
「まて、2つほど質問がある。先にそれに答えてもろう。」
刑部は真剣な瞳で小島を見ている。
「あのー手短にお願いしますよ。」
「貴女の答え方次第だ、では最初の質問だがなぜくじ引きでイカサマをした。」
「へっ?いやあれはちゃんと公平に・・・」
「嘘を付かないで貰おう。あの時貴方は手の中に2−Cのメモを忍ばした状態で箱の中に手を入れて、あたかも箱から引いた様に見せた。」
「そんなことは・・・」
「ならくじ引きの箱をもう一度調べさせて貰ったらはっきりすると思うがどうする?」
あっという間に刑部はこの小島を追い詰めた。だが彼女は急に薄気味悪い笑顔を作りこう言った。
「フフッ如何やら貴女だけは誤魔化せなかったようね。そうよ最初から2−Cが目的だったの。」
「なぜ、くじ引き何て事を?」
「簡単な事よ、楽しいから。」
「!?」
「だって他の教師達の顔を見た〜。助かりたい一身で神に祈る者、顔面蒼白の者いつも笑っちゃうわね。」
さも楽しそうに彼女は言った。本当に楽しいのかもしれない。そんな彼女に怒りを感じながらさらに会話を続ける。
「なぜ2−Cを狙う・・・」
「そうね、ある日裏切り者が出て、このゲームをインターネットのホームページにアップした奴が居たの・・・」
「それが今回の事と何の関係がある。その裏切り者が2−Cの生徒とは思えんが。」
「最後まで聞きなさい。裏切り者は始末したわ。素早く処理したから少数の人間にしか見られ無かったのは幸いだった。ホームページにアクセスした奴は全員しとめたの、ただ一人を除いてね。」
「その一人というのはまさか・・・」
「2年C組高野晶」
刑部は絶句した。まさかここで彼女の名前が出てくるとわ思わなかったのだから。
「たまたま彼女が高校生だった事と、もともと無口で特定の相手しいて言うならクラスメイトと一部の2−Dの生徒としか話さないのがラッキーだった。」
「なにがラッキーだったんだ?」
「だってゲームが出来るじゃない。これでまた一儲け出来る訳よ。そこで刑部先生にはお願いあるの?」
「まさか・・・」
「そう高野晶が部長を務める茶道部部員サラ・アディエマス・塚本八雲を参加させてもらいましょうか。」
「そんな事できるわけ無いだろうが。」
「そうも言えないのよ。こちらの調べでは高野晶がこの後輩二人とは特に仲が良くって、自分の考えた物語何かを話してるそうね?その中にこのゲームの物語を話してるとも限らないし、
万が一それで2−Cの生徒全員が消えたとしたら彼女達はおかしいっと思ってこの事を人に話すでしょう。」
「私が口止めする・・・」
「それはどうかしら?塚本八雲の姉の塚本天満は2−Cでこのゲームに参加するのよ?大好きな姉が死んでそれでも貴女の口止めが効くかしら。」
「グッ」
「それに彼女は姉と二人暮らしらしいわね。仲良く逝かしてあげるのは親心というものよ。」
何処の世界にそんな親が居るのだろうか?さらに小島の話は続く、
「サラ・アディエマスに関しては彼女も両親が居ないのよね。彼女の場合は私達と多少の因縁があってね、自分が選ばれたことになんの疑問も抱かないんじゃないかな?」
「それはどういう事だ。」
「彼女は、前回大会の優勝者なの。」
「!?」
「まあ風の噂で大会終了後、暫くして日本の学校に留学したと聞いていたけど、また参加してくれるなんてうれしいわ。」
「そんなことは一言も・・・」
「そんな事喋れるわけ無いでしょう。『私は四十数名の命を犠牲にして助かりました。』なんていえると思う?」
「そ、それは・・・」
「ラッキーな事にさっきも言ったけど彼女は両親が居ないの。悲しむ人間は少ないほうが良いでしょ。」
「き、貴様っ!」
その四十数名を殺害して悲しむ人間が、1〜2人減ったところでどうだと言うのだろうか?末期癌患者が体脂肪率を気にする様な物だと思うが。
その小島の態度に刑部にはすでに普段冷静さは無く、非常に熱くなっていた。それに気付いたのか小島は急に話題を変える。
「そう言えば二つ目の質問があったわよね?」
「何・・・!?」
「きっと、質問の内容は『貴女は姉ヶ崎先生を殺す気だったんですか?』じゃなくて?」
「うっ、その通りだ。まずなぜ兵士に銃を引かせた。そしてあれは突飛ばしたのではなくてあれは掌底だったな、最初から殺すか大怪我させるつもりだったとしか考えられないが。」
「そうね〜?まず銃を引かせたのは、丸腰の非力な女性を撃って教師の中で反抗分子なんか出来たら厄介じゃない?」
「じゃあ、なぜ殺そうと?」
「邪魔だから。」
「!?」
さすがの刑部もこれには絶句する。
「なぜだ、姉ヶ崎先生は協力者として指名していたではないか!」
「ああ〜そういえばそんなことも言ったわね。あれはこっちので医者用意するの面倒だから、保険医で代用しようと思っただけよ。
医者を用意するのに予算申請しなきゃいけないじゃない、まあ邪魔されるよりよっぽどマシだけど。」
「なんだと!!」
「まあ、刑部先生もこれ以上逆らうようなら消しちゃいますよ?一様次の候補は金崎先生だったかな?ただ笠先生というのはこちらで捕捉出来なかったから候補に入ってないんだけどね?」
まるで消しゴムで消すかの様に小島は言った。それに対し刑部は思わず身構える。
「刑部先生やめた方が良いですよ。多少腕に覚えがあるなら分かるでしょ、プロの私には勝てないぐらいは。」
「くっ!?」
小島のふざけた態度はともかく、飛びかかったところで姉ヶ崎と同じ事になるだろうし、万が一勝てても表に居る兵士に蜂の巣にされるだけだろう。そう考えると刑部は構えを解いた。
「分かって頂けたら結構ですよ。それでは二択です。@サラ・アディエマス・塚本八雲の二名をゲームに参加させるのを協力する。A蜂の巣になる。ただしどちらを選んでも@の二名は参加します。」
「@を・・・」
「えっ、聞こえないんですけど?」
「@でお願いします。」
「う〜ん、私としては刑部先生の様な美しい人が、蜂の巣になるところ見たかったんだけどな〜まあしょうがないか。」
本当に残念そうに小島は言った。
刑部には自分が担任している生徒二人を地獄に落とすのであれば、一人良い子で死ぬなんて事は出来なかったのである。それに刑部には一つの思いがあった。
(拳児くん頼むこのゲームから、皆を救ってくれ・・・)
その時何故か刑部には、普段頼りないが何とかしてくれそうな期待をさせてくれる従姉弟の顔が浮んだ・・・。
矢神学院高等学校 副会議室・・・23時
「はい、刑部先生はもう結構ですので谷先生を呼んで来て頂けますか。」
「ああ。」
小島から生徒二名を拉致する方法を一通のレクチャーを受け、これで終わりとばかりに事務的な口調で谷を呼んで来るように言われた刑部は、同じく事務的な口調で返し廊下に出た。
廊下に出た刑部は怒り心頭だったが、次に呼びに行く男の事を考えると少し憂鬱になった。なぜなら自分が二人に対し、彼は生徒三十七人全てを差し出さなくてはいけない。
そして考え事をしているうちに、会議室の前に立っていた。
ガラガラガラ・・「谷先生終わりましたので次お願いします。」
「えっ・・・・あっ刑部先生・・・そうですか。」
時計はもう23時を回っている。唯でさえ修学旅行から戻ってきて疲れているうえに、生徒全員の命を差し出せと言われた彼は、年齢が自分とそんなに変らない筈なのに年寄りのように見えた。
よろよろと立ち上がる谷に刑部は咄嗟に声をかける。
「大丈夫ですか。なんなら今からお願いして明日に変更して頂いたら・・・」
「いえ・・・大丈夫です。・・・早く自分の気持ちをはっきりさせたいので・・・」
谷の言う事も一理あるのだが、足元がふらついている状態で言われても全く説得力はないのだが。
このまま谷を行かせても良いのだろうか?刑部はそう疑問に思ったが引き止める理由もなくただ行かせるしかなかった。
「谷先生あの小島という女ですが・・・」
「油断するなと言いたいんでしょ。」
「は、はい。」
「しかしもうこれ以上悲惨な事何て無いでしょう・・・」
加藤と自分が小島と打ち合わせしている間に少し落ち着いたのだろうか、谷は元気こそ無い物の思ったより冷静だった。
ならこのゲームが最初から高野晶が原因で起こった事は言うべきでは無いのだろう。もし言ったとしてもどうしようもないのだから・・
「じゃあ刑部先生、僕もう行きますね。」
「ええっ・・・」
もしも刑部がこの時無理やり谷を一日休ませていたら・・・もし刑部が小島との会話を包み隠さずすべて話していたら・・・彼女はこの後の事を知ったら恐らく永久に後悔しただろう。
そしてそれから二時間後には一人の女性と自分の人生を天秤にかけ、その女性の為に全てを賭けた男がそこに生まれていたのだから・・
社会科見学当日・・・矢神学院高等学校 1−D教室・・・16時
「八雲ねえ、今晩の件だけど・・・」
「うん、いいよ今日は姉さんも居ないし・・・でも良いのかな?」
「うーん、まあたまには良いんじゃないかな。」
「でも、今日は全部活動休みだし、全生徒は真直ぐ帰るようにって先生言ってたし・・・」
「ハァーホント、八雲は真面目だね。でも折角、榛名が用意してくれたんだから。」
「うん、そうだね。」
1−D教室ではいつも通り、サラと八雲が他愛ない会話を楽しんでいた。これから聞こえる放送が彼女達を地獄に送るとも知らず・・・
『キンコンカンコン、1年D組み、アディエマスさん、塚本さん、至急茶道部部室に来るように。』
刑部絃子の声で放送が流れてきた。
「えっ・・・」
「あちゃー、まあ6時まで時間があるし直ぐ終わるよ。」
そう言って廊下にで旧校舎に向かう二人に、この後の起こる事は予想だにできなかったことは仕方なかったのかもしれない。
矢神学院高等学校 旧校舎の茶道部部室・・・17時
コンコン「サラ・アディエマス、塚本八雲入ります。」
「おおっ、良く来たな。」
いつも通りと変わらない雰囲気で刑部は答えた。
「先生今日は一体何をなさるんですか?」
「実を言うと今日は、来年高野君が受験という事で今のうちに新しい部長を決めておこうと思ってな。」
「あのー・・先生今日は全部活動休みじゃ・・・あと高野先輩が帰って来てからでも遅くないんじゃないんでしょうか。」
「いや、その高野君に言われてな。」
「はい、それなら。」
もちろんいま刑部が言った事は全て口からでまかせだ、本当の高野は今頃船で海の上である。
意外と上手く行くのではと思ったとき、サラの口から思いがけない一言が出た。
「先生・・・なんで・・・?」
刑部は動揺した。まさかばれたのか?そういえば彼女が前回優勝者であることを思い出した。そしてこんな安易な方法を取った自分を呪った。だがサラが次の瞬間口にした一言は以外な物だった。
「なんで真面目に部活してるんですか。いつも私達より先に帰るのに!!」
「サラ君、私も一様顧問なんだが?」
「ほらサラ、先生に謝って。」
「ああっ、先生ごめんなさい。」
口から心臓が飛び出しそうになるのを抑えながら何とか平静を保ち続けた。
「まあ、良い取りあえず茶でも飲みながら話そう。冷めないうちに飲みなさい。」
「あっ、はい・・・・美味しい。」
「うん、良い香りだね八雲。」
バタ・・・・
「あれ八雲、最近出ないと思ってたのにまた出たんだその何処でも寝・ちゃ・・う・・・癖・・・あれ・・・私・・・八・・・・雲・・・じゃ・・・無いのに・・・ま・さ・か・・・。」
「ふっー、すまんなサラ君、塚本君、だがこの睡眠薬何が入ってるんだ一口で二人とも倒れたが・・・」
そう言うと刑部は二人を運び出す準備を始めた。
矢神学院高等学校 屋上・・・18時
「おかしいな時間なのに、八雲もサラも来ないね。」
「しょうがないんじゃない。二人とも刑部先生に呼ばれて、まだ終わら無いんじゃないかしら。」
「ねーねーもう始めましょうよ。」
こんな時間にわざわざ屋上にいるのは俵屋、稲葉、東郷の三人である。
なぜこの三人が居るのか時間は少しさかのぼる。
矢神学院高等学校1−D教室・・・12時
「ねえ、ねえ榛名、私冬の星座が見たい!!」
と急に我侭を言い出したのは稲葉である。
「無理よ!!この前稲葉、天文部の部室の備品壊して結城先輩に出入り禁止にされたじゃない。」
そう怒りながら言った東郷に対し、稲葉は言い返す。
「あれは何か違う理由の様な気がするけど・・・でも今は結城先輩もいないしそれに全部活動休みだから望遠鏡持ち出しても怒られないって。」
「そんな事許されるわけ無いでしょう。」
この場合東郷が正しいのだが。
「あっ、私も見たいな。」
そう言ったのは俵屋でる。彼女は稲葉の味方のようだ。続いてサラが
「私も見たいし、八雲も見たいよねー。」
「う、うん。」
そこで4対1となり東郷の負けが決定する。
「もー、分かったわよ!!」
再び矢神学院高等学校屋上・・・18時
で今に至る。
「ねえ、もう見て良い?」
「ダーメ、八雲とサラが来るまで待つの。」
「え〜、良いじゃなーい。さつきもそう思うよね。」
「・・・」
「さつき、どうしたの?」
さつきはジッとフェンス越しから下を見ている。それを見て二人はさつきの元に駆けつける。
「さつき何見てるわけ?」
「あれ、刑部先生じゃない?」
「本当だ、でもなんであんな重そうな物運んでるんだろう。」
三人は重そうな荷物を一輪車で運んでいる刑部を上から見物していた。それを見た稲葉が次の瞬間とんでもない事をいった。
「ねえ、手伝ってあげようよ。」
矢神学院高等学校 裏門・・・19時
「ハァ、ハァ、ハァ。」
「刑部先生ご苦労様です。」
刑部は息を切らせながら、八雲とサラの二人を一輪車で二往復して運んできたのだ。それに対し肝心の小島は車の前で立っていただけである。
「ハァー・・・できれば手伝って欲しかったんだがな。」
「残念ながら私は裏門でこの車の見張りをしなければ行けないので、後この車は4人乗りで余分な人間は乗せられないの。」
まあ小島は最初から手伝う気など無かったのだろうが。
「それで、他の先生は?」
「そうですね。谷先生は2−C全員を無事に拉致完了、加藤先生も天王寺、東郷、マッケンジー、ゴンザレスの4人を拉致完了です。」
「そうか、皆は上手く行ったのか。」
「ただし、刑部先生は失敗っと。」
「何を言ってる私も無事に任務を・・・」
「刑部先生、う・し・ろ。」
そう言われ後ろを振り返る。そこには普段見慣れた自分のクラスの生徒が三人立っていた。
「うっ、そんなまさか・・・」
「刑部先生どういう事ですか?」
「稲葉君違うんだ、これには訳が・・・」
恐らく三人の生徒はこんなにうろたえる刑部を見るのは初めてだろう。
「それ、八雲とサラじゃないですか。先生は二人をどうするつもりなんですか。」
と俵屋が言うと続いて東郷が、
「先生、これは犯罪ですよ。」
刑部もさすがにこれには困り果てた。関係ない生徒を傷つけることも出来ないし、だからと言ってうまくごまかす方法も思いつかない。
「刑部先生、今回だけですよ。」
助け舟とばかりに小島は刑部の耳元で、耳打ちをした。そして稲葉達の前まで歩いていき、そしてこう言った。
「ねえ、貴方達。」
「貴女は何者ですか?」
「私はたまたまこの学校の近くを通り掛かったんだけど、この先生が急に飛び出してきて生徒が二人急に気分が悪くなったって言うのよ。保健の先生も社会科見学で居ないし、
他の先生も帰っちゃって生徒を病院まで運ぶのを手伝って欲しいて言われた訳なのよ。」
思わず刑部はなぜそのような嘘が思い付くのか、不思議でたまらなかったがこれで何とか助かりそうだっと思った。
「何だそうだったんですか。」
「そうなのよ。でもこれ嘘なんだけどね。」
そう言うと小島は、ポケットから何かを取り出すとそれで一気に稲葉の首を切り裂いた。
「あれ、なにこれ、私どうしたの?血が止まらない。」
「そりゃそうよ、動脈切り裂いたんだから、当たり前でしょ。」
「先生・・・たすけて・・・・」
そういってさっきまで稲葉美樹だったものは動かなくなった。そして友達の死を見てさらに返り血を浴びた東郷が発狂する。
「稲葉―――!!」
「あらあら可愛そうに直ぐお友達の所に送ってあげるからね。」
「お兄ちゃん助けて、お兄ちゃん助けて、お兄ちゃん助けて、お兄ちゃん助けて・・・・」
普段は喧嘩ばかりしているが、本当は頼りにしている兄の名を叫びながら逃げようとするも、腰が抜けてしまいうまく逃げられない。
「あっそうか、貴女そういえば東郷の娘だったわね。大丈夫お兄さんも時期にそっちに多分行くからね。」
「!?」
それを聞き終わるか終わらないかの内に東郷は胸をナイフで貫かれた。
「誰か助けて・・・お・に・い・ちゃ・ん・・・グフ」
一瞬の出来事で何が起きたのか理解できなかった刑部だが今の悲鳴で正気に戻る。そして同じく目の前でボーゼンとしている俵屋に叫ぶ、
「俵屋何をしている逃げろ!!」
「はっ、はい。」
「刑部先生何を言ってるんですか?まあ良いでしょう。」
恐らく小島はたかが高校生と思っており油断はしていたのだろう。俵屋の取った行動に面食らってしまった。
「ウワッ――――――!!」
「くっ、なぜ?」
なぜか逃げると思っていた本人が自分に向かって来たのだ。だが小島もプロだった直ぐに俵屋を串刺しにしようと身構える。
そして突き出されたナイフを俵屋はバスケットボールで鍛えた反射神経で紙一重で交わし、小島のコートの裾を掴むと一気に上に捲し上げた。
「うっ視界が!!」
捲し上げられたコートの裾が小島の視界を完全に奪った。その隙をついて一目散に裏門にダッシュする。
(皆待てって、すぐ救急車と警察呼んであげるから・・・)・・・ヒュッ・・・ドン・・・!!
風を切る音が聞こえたっと思った瞬間俵屋は後ろから突飛ばされた衝撃をうけ前方に吹っ飛ばされた。
「ふふっ、今回の大会で支給品のスペツナズナイフ見たときに、五本も有るんだから一本ぐらい良いかと、くすねて置いて正解だったわ。早速役に立つなんて私って先見の明ってあるのかしら。」
俵屋は虫の息で何か訳の分からない事を言ってる小島の方を見たが、彼女が持っているナイフには刃が無く、その刃は自分の背中に刺さっているのに気付いた。
自分が逃走に失敗し薄れ行く意識の中で最後にこう呟いた。
「八雲・・サラ・・稲葉・・榛名・・ごめん助けられなくて・・・ララ先輩・・・周防先輩・・もう一度会いたかったな・・麻生先輩・・・好きでした・・・。」
そして、俵屋は絶命した。
俵屋が死亡した瞬間、刑部は力なく膝をついた。そして頭の中が真っ白になってる状態の刑部に小島はこう言い放った。
「刑部先生、分かてると思いますがあの三人が死んだのは先生の所為ですよ?」
「ああっ。」
「まあ今回裏切ろうとした事や、拉致に失敗した事はあの三人の命で帳消しにして上げますので、今後このような事が無いようにお願いしますね。」
「・・・わかった。・・」
「本当にもうしっかりして下さいね。今から組織に言って死体の片付けと、返り血を浴びた服に変わって新しい服を用意させますから少し待てってくださいね。」
小島は携帯をポケットから取り出すと何かを話し始めた。
刑部にはその会話の内容など既に聞こえていなかった。彼女がここで学んだ事はこの組織には逆らえないという事だけだった。
そしてゲームは、始まる。
【ゲーム開始前】
【姉ヶ崎妙】
【現在位置:洋上】
[状態]:健康
[道具]:なし
[行動方針]:不明
[備考]:なし
【刑部絃子】
【現在位置:矢神学院高等学校】
[状態]:健康
[道具]:なし
[行動方針]:不明
[備考]:なし
【加藤】
【現在位置:洋上】
[状態]:健康
[道具]:なし
[行動方針]:不明
[備考]:なし
【郡山】
【現在位置:洋上】
[状態]:健康
[道具]:なし
[行動方針]:不明
[備考]:なし
【笹倉葉子】
【現在位置:洋上】
[状態]:健康
[道具]:なし
[行動方針]:不明
[備考]:なし
【谷速人】
【現在位置:洋上】
[状態]:健康
[道具]:なし
[行動方針]:不明
[備考]:なし
【小島亜也】
【現在位置:矢神学院高等学校】
[状態]:健康
[道具]:スペツナズナイフの柄のみ
[行動方針]:ゲームを成功させる
[備考]:組織側の人間
【塚本八雲】
【現在位置:矢神学院高等学校】
[状態]:睡眠中
[道具]:なし
[行動方針]:不明
[備考]:なし
【サラ・アディエマス】
【現在位置:矢神学院高等学校】
[状態]:睡眠中
[道具]:なし
[行動方針]:不明
[備考]:なし
【稲葉美樹:死亡】
【東郷榛名:死亡】
【俵屋さつき:死亡】
――残り43名
『この物語は、スクールランブルの二次創作スクールランブルバトルロワイヤルの
さらに二次創作であり、スクールランブルバトルロワイヤル本編とは、何の関係も有りません。』
前話
目次
次話