無題






検非違使は、自分に向かって一直線に迫ってくる影を認めた。
奇妙なことに(もっとも、この島につれてこられてからは
奇妙なことだらけであったが)、二本足で立って歩く赤い猫だ。

「化け猫なるかな。あなおそろし」

検非違使は落ち着いてシャベルを構えた。すでに四方には落とし穴が
掘られており、あとは猫が嵌まったところを埋めるだけだ。

猫は落とし穴などには全く構わず、まっすぐ検非違使に向かってきた。
ぽっかりと口を開ける穴に猫の足が踏み出されたその瞬間──

♪プッ

軽やかな電子音が響くと、猫は空中を歩いていた!
いや、空中ではない。いつの間にか落とし穴を塞ぐ何かが出現しており、
猫はその上を渡って来ているのだった。

検非違使は恐怖した。『秋葉掘り』で四方に穴を掘ってしまったため、
逃げ道はない。埋めて通る時間などない。やられる。
後ろに穴を掘っていたことは充分承知していたが、目の前に迫る死に
検非違使は思わずあとずさった。
♪プッ

穴に──落ちない?! それに、猫が消えた。一体何が起きたのだ?
検非違使は落とし穴の上…いや、穴を塞ぐ丸い金属板の上に立っていた。
金属板の下には何かが潜んでいるようだった。何者かの声がした。

「あれ、一度受け止めたのに落ちるなんて…。通行人さんゴメン」

検非違使が反対側の穴に駆け寄ると、赤い猫が大の字になって気絶していた。
とりあえずそれを埋めると、検非違使は金属板をいぶかしげに眺めた。

「いとあやし。また、あぶなきかな」
「…?! うわーちょっと何すんの! や、やめ(モゴムガモガ)」

検非違使は金属板と何者かも、とりあえず埋めてしまった

【「平安京エイリアン」検非違使 生存】
【「マッピー」ニャームコ 死亡】
【「マンホール」プレイヤー 死亡】



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