トラフィックス 3nd






「許可できません」
「何だと…」
神風の投入を命令したケルヴァンだったが、その命令は部下によって却下される。
「我々としては、ここは一旦お戻りいただいた上でのご命令を頂きたいのです」
「ヴィルヘルム様も何やら動いている様子、まずはお戻りを」

ケルヴァンは考える、中央を落とされでもすれば元も子もない、それにケルヴァンもまた悪司らの投降には、
薄々ながら何か裏があると感じてもいた。
責任と画策、その両天秤でゆれるケルヴァンだったが、
「一度戻るしかないのか…」
やはりまずは立場を維持しなければ何もならない、後ろ髪を引かれる思いだったが、
最低限してやれることはしてやった、あとは連中次第だ。
いずれ改めてコンタクトを取るしかないだろう、ともかく戻ればまた来ることもできるのだ。
「わかった、山本悪司らのについての1件をまずは優先しよう、その後改めて再編成および対策を考える」

それだけを告げて通信を切ると、もうケルヴァンは振り向かなかった。
武に殴られた頬がまた痛んだ。

少し時間が遡る。

「離してぇ!離してよう!!」
気絶から覚めてミュラの腕の中で暴れる純夏、彼女は見かけによらず腕っ節は強い、
しかもめちゃくちゃに暴れるものだから、
沙乃にミュラと、二人がかりでも取り押さえることは容易ではなかった。
気絶させるのは簡単だったが、誘拐の負い目があるので、もうそこまでの強行手段はとりたくはなかった。
「これ以上近づいたら、撃つからね」
強引に二人を振り解いた純夏は震える手でハンドガンを構える、だが言葉だけなのは明白だった。
「任せて」
そういうとミュラは自分の危険も省みず、刀を納めると無防備をアピールするために両手を広げ沙乃の前に立つ。
「あのね…私たちは」
ミュラは誠心誠意純夏に聞かせた、自分たちのことや、その目的を…。
その様子を沙乃は感嘆の眼差しで見る、この女性はどうしてこれほどまでにたくましく、そして優しいのだろうか?
その強さは母のごとき愛を彷彿とさせた。

「あなたをさらってしまったのは、私たちの力が及ばなかったから、ごめんなさい」
ミュラはそういうと純夏に頭を下げる。
その微笑みと率直な態度に純夏の頑なな態度も氷解していく。
「じゃあ、タケルちゃんの所に返してくれるの?」
「もちろんよ、さぁその銃は危ないからしまいましょうね」
ミュラはそっと手を差し伸べる、純夏もそれに応じようとした時だった。
バスっ!!
渇いた破裂音が周囲に木霊する。
彼女はうかつにも、いやもしかすると最初からかもしれなかったが…銃の安全装置をはずしたままだったのだ。
決して故意ではない、しかし暴発した弾丸を食らったミュラの体がふらりとよろめき、
そしてその背後の急勾配の坂を転がり落ちて行く。
何も出来なかった、純夏はもちろん沙乃までも…ただ転落するミュラの姿を見ていることしか出来なかった。

「どういうつもりよ!この嘘吐き!」
先に金縛りが解けたのは沙乃、彼女には純夏が不意打ちを食らわせたとしか見えなかった、
そしてそれは彼女にとって、もっとも憎むべき、恥ずべき行為に他ならなかった。
「ち…ちが」
純夏はもちろん弁明しようとする、そんなつもりじゃないと、しかし言葉は出てこなかった。
憤懣やるかた無い沙乃、今すぐにでも斬り捨ててやりたいが、ミュラの方が心配だ。
「沙乃は許さないかんね!あんたなんか死んじゃえばいいんだから!」
そう吐き捨てると、沙乃もまた転がるように坂を下っていった。

残された純夏はうわ言のように呟きを繰り返す。
「わたっ…わた、わたしぃ…」
自分が人殺しになってしまったという事実、しかも自分を助けようとしてくれた人を殺してしまったという事実、
その2つが純夏を責め苛んでいた。
「どうしよう…私、人殺しになっちゃった…」
目に見える光景全てが色あせて見える、もうあの頃には…帰れない、無論…武の元にも。

「死んじゃえばいい…か…」
それが一番いいように思えた…、少なくとも間の悪い自分に彼女はほとほと嫌気が差していた。
「タケルちゃん…さよなら」
それだけを口にすると、純夏はそのまま何処かへとあてもなく向かおうとしていた。

「生きてる…」
ミュラは信じられない様子で自分の身体を眺める。
弾丸はミュラの着用してる胸甲にめりこみ停止していた、まさに幸運としかいえなかった。
(あの子はこれで人殺しじゃなくなるわ)
もっとも衝撃のあまり、しばらく呼吸することはできなかったが。
そこに沙乃が息を切らしてやってきた。

「あの子、悪気はなかったのよ…許してあげましょう」
ミュラの第一声はそれだった、その言葉を聞いて沙乃は改めて決意する、この女性を死なせてはならないと。
「行かないと…」
無理を押して立ち上がろうとするミュラ、せめてそのタケルとやらに事情を説明しなければ申し訳が立たない。
だが、みぞおちに当身をかまされて倒れ伏せるミュラ。
「ごめんなさい、沙乃は賛成できないわ…あんな卑怯者の心配なんかしてやる必要なんかないんだから」
そう呟くと沙乃はミュラの身体を担いでその場を去っていった。

「うう……」
リックの背中に背負われたゲンハが呻き声を上げる、まだ意識は明瞭ではないようだが。
もう大分施設から離れたようだ。
霧のどさくさのおかげで、追っ手も自分達を把握できなかったらしい。
地面に腰を降ろし、一呼吸入れる二人。
その二人の目に映ったのは、勿論暗視ゴーグルをかけたゲンハだ。
「ケルヴァンじゃなかったか……」
リックが落胆の声を上げる。
「だが、重要施設?にいた兵だ、きっと何かしらの情報や鍵を知っているはず」
ゲンハは、暗視ゴーグルをかけていたために、先と同じ兵に間違われた。

「おい、あの施設は何だったんだ?あそこで何があった?」
直球で玲二が問いただそうとする。
「し、しらねぇ……しってんのはあの髪の長い姉ちゃんこそ真のくろまく……」
そこでゲンハの意識は再び闇に陥る。

2人はその言葉の意味を考える。
「俺達の知ってる限りでは、ケルヴァンが現場を担当する将軍で、
一番トップに立つのがヴィルヘルムだったらしいが……。
「まさかあの施設にそれ以外の黒幕がいたというのか?」
「いや…いたというよりこれから来るのかもしれない…」
ケルヴァンの隣で談笑していた2人の少女に関しては、両者の態度から見て、
おそらく彼の言う黒幕ではないだろう。
だとすればここは秘密の会見場かなにかか?
いずれにせよ、こうなればもう少し調べるのもありだろう。
「ちょっといいか、リック?」
「なんだ?」
「お前は、このまま集合地点にいって沙乃達と合流してくれ」
「そっちはどうするんだよ?」
「俺は、こいつを連れてあの施設に潜入して情報をもっと探ってみようと思う」
「……解った、この作戦の大将はあんただ、けど探りに行くだけだぜ? 絶対に戦闘をしようとしないでくれ。
それと最初の約束の時間は守ってくれ」
「解ってる……」
玲二はリックに戦斧を。
リックは玲二にゲンハを受け渡す。
「気をつけてな!」
そして、2人は互いに別方向へと走り去っていった。

こうしてまた施設に再侵入した玲二だったが、背中に担いだゲンハのうわ言にまた愕然とする。
「見えねぇ…何も見えねぇ……」
(暗視ゴーグルをつけたままだったのか…)
玲二といえども同情せざるを得ない。
おそらくグレネードの光を直接見てしまったのだ、男の網膜は完全に灼けてしまっているだろう。
(ということは…オイ)
目が見えなければ確認のために連れてきた意味が無い。
となればもうこいつには用は無い、黙らせるためにもう一度当身を食らわせる、その時だった。
上空から轟音が響く。
自分の周囲を覆う影に、それが巨大な何かがだということを玲二は即座に理解した。
素早く男を自分の視界内の物陰に転がすのと、その何かが着地するのとは同時だった。

「なんで…なんでファントムまでいやがるんだよ!!」
休憩していた彼らに追いついたのは良かったが…。
直人は物陰に潜みながら、小声ながら思わず叫んでしまう。
英才教育によって生み出された最強最悪の暗殺者…闇社会との癒着が深い勝沼グループの中枢にいたがゆえに
またインフェルノの力が衰えたがゆえの情報漏れもあり、直人もその存在を知っていたのである。
(引退したとか聞いてはいたが…)

しかし今、視界にとらえるその姿は紛れも無く本物、自分など足元にも及ばぬまさに本物の殺しのプロだった。
ゲンハは玲二に担がれ、再び施設の方へ戻っていく。
しかし助けるには…ファントムを最強の暗殺者を向こうにまわさねばならない。
絶対不利の中、だがそれでもゲンハを見捨てるという考えは直人にはなかった。

(何とかしてやる…何もできなくても何とかは必ずしてやる…でなきゃ俺の中の誇りが、掟がゆるさねぇんだ!!)

「口惜しいわ…」
無貌の神は歯噛みする、宿主の力を上手く使えなかった故にむざむざ逃してしまった。
それはともかく、無貌の神は気持ちを切り返る。
「食事の時間としゃれこむか」
無貌の神は先ほどわずかだが刃を交えた男を思い出す、なかなかの魔力の持ち主。
この憂さを晴らすには、まさにふさわしき獲物といってもいいだろう。
「さてと、あの男の魔力を頂きに参上仕るとするか」

【ゲンハ@BALDR FORCE(戯画) 招 状態△(裂傷多数、背中に深い刺し傷、失明、瀕死)
 所持品:なし(玲二が回収)】
【直人@悪夢(スタジオメビウス) 招 状態△(傷は多いが命に別状なし) 所持品:シグ・ザウエル 鉄パイプ・包丁】

【吾妻玲二@ファントム・オブ・インフェルノ(ニトロプラス) 狩 状態○ 所持品:S&W(残弾数不明) 
 コルトガバメント(残弾数不明)手榴弾x2  暗視ゴーグルx2 火炎瓶x3】
【原田沙乃@行殺!新撰組(ライアーソフト) 鬼(現在は狩) 状態○ 所持品:十文字槍 食料・医薬品等】
【ミュラ@ママトト(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:長剣 地図】
【リック@ママトト(アリスソフト) 狩 状態○ 所持品:戦斧 食料・医薬品等】

【鑑 純夏 マブラヴ age 状 ○持ち物 ハンドガン 装填数19発 狩】
【岬今日子@永遠のアセリア(ザウス)招 状態○所持品 永遠神剣第六位『空虚』(雷撃2発分の魔力)】
【ケルヴァン:所持品:ロングソード 地図 状態△(魔力消耗) 鬼】

(仲間という名の利害関係の直前および直後)



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