バジリスク






「アーヴィちゃん、早く早く」
ぴょんぴょんと木々の間を潜り抜けるように先へと進むハタヤマ、その瞳にもはや迷いは無い。
何が待ちうけていても受けとめる、そんな覚悟を秘めた瞳だ。
と、そんなハタヤマの目の前に、唐突に何者かが姿を現した、見ると袴姿の凛とした雰囲気の美少女だ。
ハタヤマは可愛い女のコに目が無い、当然のようにふらふらと少女へと近づいていくのであった。

そんなハタヤマに気がついたのか少女はにっこりと微笑む。
その微笑みにハタヤマもさらにほんわかとした気分になったその時だった。
「逃げて!!」
いつの間にか追いついていたアーヴィがハタヤマを抱きかかえて飛びのくのと、同時に風を切るような音、
見るとハタヤマの立っていた場所に矢が突き立っている。
「あ…あわわ」
状況を理解できないハタヤマにアーヴィが説明する。
「あれは神風っていうモンスターよ…それも最強クラスのね…早く逃げないと」
そう言ったところでアーヴィは顔をしかめる。
「アーヴィちゃん、足が」
見ると足に矢が突き立っている、これで逃げ切るのは難しいように思えた。
また2人を霞めるように矢が通過していく、容易には逃げられないのを知っていたぶっているのだ。

「ああっ、また僕だ…僕が余計なことを」
アーヴィの足から流れる血を見て、また混乱するハタヤマ。
(だめだ…正気を保たないと)
必死で心の中の黒い欲求と戦うハタヤマ、その時だった。
「ハタヤマさん、私を置いていって」
あまりにも予想外の言葉に思考を中断するハタヤマ。
「確かめないといけない事があるんでしょう!こうなったら2人一緒は無理よ、誰かが囮にならないと」
「この足じゃ歩けても走れないわ…だから私がここで食いとめる、先に行って!」

「女の子にそんなことさせられるもんか…」
心意気は立派なハタヤマだったが、内心は恐ろしくてたまらない、
しかも…アイにこっ酷くやられた傷は未だに完治していない、ここまでカラ元気を通してきたが、
かなりの無理を重ねているのだ。
今以上に無理を重ねればどうなるか。
だがそれでも・・・またしても自分の軽率な行動でアーヴィを危険に晒してしまい、
しかもそのアーヴィを囮にして生き残ろうだなどと…それは恥知らずの外道のやることじゃないのか。
(やるしかない…)
「あの林檎の木の下で待っていて、必ず戻るから」
そうアーヴィに言い残し、ハタヤマは自分の身体を変化させていく。
残りわずかな魔力の全てを使い、ハタヤマは目の前の敵に立ち向かうことを決意したのだった。
そして戦闘スタイルになったハタヤマを見て、にぃと笑う神風だった。


「ぐわっ」
ハタヤマの体にまた1本、矢が突き刺さる。
やはり姿こそ戦闘用だが、その力は衰えきっている、ハタヤマの身体には弁慶のごとく矢が何本も突き刺さっている。
防御に徹したのと、巨体に化けたおかげで微妙に急所を外れているものの、今やハタヤマの命は風前の灯だった。
それでもハタヤマは満足気だ。
(ここまで保ったのなら…)
機を見るに敏なアーヴィなら、もう逃げ切っている頃だろう、つまり最低限の役目は果たした、
あとは逃げるだけだ、助からぬ戦いと思って向かったが、チャンスがあるなら別だ。
ハタヤマは最後の力で、自分の足元の川へと身を躍らせる。
それを見て神風はまた弓に矢を番えるが。

『待て、そいつは殺すな、泳がせておけ』
通信機からのケルヴァンの声に神風は不服そうな仕草を見せたが、黙って構えを解いた。
『それよりもお前に始末してもらいたいのがいる、ぬいぐるみよりは手応えがあると思うぞ』 
「御意」

「助かった…のかな」
流木に引っ掛かり、河原に打ち上げられたハタヤマはぽつりと呟く、
それにしてもあの神風という魔物は、アーヴィが最強クラスだと言うだけあって、まさに別次元の強さだった。
思えばこうして今なんとか息をしているのが奇跡としか思えない。
「ついてるんだ…僕は」
「行かなくっちゃ」
アーヴィの待つ林檎の木のあるところへはまだもう少し川を下らねばならないはず、
と、よろよろと歩き出したハタヤマの視界に人影が映る。
動きを止めて、慌ててただのぬいぐるみの振りをするハタヤマ。
ここまで散々痛い目にあっているのだ、もう係わり合いはこりごりだ。

とか思っている間に人の気配はどんどん近づいてくる、たまらず薄目を開けるハタヤマ、
と、その目に飛び込んできたのは振り振りのドレスを身に纏い、長い金髪をツインテールにまとめた、
双子の少女だった。
(かっ・・・可愛い)
(この子たちは大丈夫だよね、まだ子供だし)
何度騙されても人を疑わないのはハタヤマのいいところでもあり悪いところでもある。
そして彼の根底に流れる美少女性善説は、またしても彼自身を危機に陥れようとしていた。


「じゃあ、ぬいぐるみさんもここに連れて来られたんだ?」
その双子、鳳あかねと鳳なおみはハタヤマの話を聞きながらその顔を覗きこんで、にっこりと笑う。
ツインズ天使の微笑みにハタヤマはもはやメロメロだ。
「そ、そうなんだよ、だからさ君たちも」
「ふーん、だったら死んで」
「え?」
後悔する暇もなかった。
ハタヤマの身体はあかねが放ったAK47の弾丸によって文字通りズタズタに引き裂かれ、
原型を留めないまでに破壊されていった。
彼の最期に救いがあるとするならば、美少女ツインズの極上の笑顔を眺めながら逝けたことくらいだろうか?
「弾除けになりそうなら生かしておいてもよかったんだけど、ぬいぐるみじゃねぇ」
息絶えたハタヤマの亡骸を川に蹴り落とし、唇を歪めて笑うあかね。
この双子にとって全ての他人は敵であり、利用対象でしかないのだ。

「ところでねぇ、なおみあの放送どう思う?」
「どう思うも何も・・・信用できるわけないじゃないの」
フンと鼻を鳴らして、やはり皮肉げに笑うなおみ。
「じゃあ決まりね、中央には行かないってことで、とりあえず適当な盾を早く見つけよっと」


その頃何とか逃げきったアーヴィは、約束通り林檎の木の下に腰掛けてハタヤマの帰りを待っていた。
(大丈夫よね…)
しかし、ふと近くを流れる川へと視線を移したアーヴィの口から悲しみの叫びが漏れる。
「ああ・・・ハタヤマさん」
上流から流れてくる見覚えのある手足は間違いなくハタヤマのものだった。
つまりハタヤマはもう、この世にはいない・・・。

波間に垣間見れるそのズタボロの身体の傷は、明らかに神風に負わされたものとは違う、
ということは新手がいる・・・一刻も早くここを離れなければ
悲しむ暇も無く、アーヴィは足を引きずりあわただしくその場を離れた。

【ハタヤマ・ヨシノリ@メタモルファンタジー(エスクード):死亡】
【アーヴィ:所持品:魔力増幅の杖、リンゴ3個 状態○ 招 行動方針:ハタヤマと共に】
【鳳姉妹@零式(アリスソフト) 持ち物 クレイモア地雷x3 プラスチック爆弾 AK47 状態 ○ 狩
 行動方針:利用できる人間を探す、基本的には皆殺し】
(どちらか片方が招の可能性あり) (いくらAK47カラシニコフが扱いやすいといっても子供なので命中精度は低めです)
【神風(魔獣枠)】



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