無題
高らかに手を揚げ勝利をアッピールするぽよよんロック。
丸みの感じさせる体形でありながら記号化の進んだスッキリした絵柄。
「コートの中の天使達」でその威力は遺憾なく発揮されファンディスクも
発売されたあたりに、実力の高さを知る事ができる。
何故か誰も居ないはずの平原に沸き起こる拍手と声援。
乱れ飛ぶテープと紙吹雪に包まれながらぽよよんが行く。
-----そこに、ふらりと。
一人の人物が現れ、ぴたりと付き添うように並び歩きはじめる。
「だれだい、アンタ?」足を止め、不審げに尋ねるぽよよん。
同時に立ち止まりながらも、半ば無視するように顔をあわせず男は呟く。
「クソゲー、という言葉があります」
ほんの小さな声であった。
しかし、時が凍りついたかのように静けさは一瞬にして広がった。
それを確かめるでもなく、誰に言うでもなく。謎の人物は更に続ける。
「ゲームというのは、システム、デザイン、音楽、シナリオ、そして絵によって構築されます」
苦しそうな顔をして震える、ぽよよんの方を見ること無く言葉が紡ぎだされる。
「あなたはあなたの仕事をした、それは間違っていないし非常に優秀な仕事だった。」
「---ぐ、ぐっ!」
「だがあなたは知っていたはずだ!自らがクソゲーの猿回しであったことを!」
「う、うるさいっ!貴様に何がわかるというのだ!」
「そう、確かに私にあなたの気持ちなど解るも無いかもしれません。しかし、それでも
あなたの所業において決定的な過ちが在ったことを知っている!」
「!!」
引きつった顔が青くなる。心臓を鷲掴みにされたようにうめく。意識が遠くなる。
男が振り向き、真正面から見据える。そして言い放った。
「そう、二度目は解っていたはずだ!あなたはユーザーを嘲笑うような真似を、二度に
渡って行ったということだ!」
-----そうさ、解っていたさ。
ろくでもないゲームだった。下手をすればまるでイベント絵を見せることもなく終わり、
訓練はオマケみたいなものだった。
そして、ファンディスクに至っては-----言葉にさえならない。
知ったことか、俺は絵を描いた、あとは知ったことかと、何度言い聞かせただろう。
視界が白くなる。
「全てに責任を持つ気概が合ってこそ----」
声が遠くなる。
「-----娯楽を演出するものとして----」
光が、消える。
「私は!あなたを勝たせるわけにはいかない!」
(そうかい、アンタは立派だよ。)
失われる意識の中で、ぽよよんは答える。
(それでアンタ、一体何者なんだい?)
絵描き勝負なら負けやしないと乱入した自分を、更に高みに押し上げて叩き落した
謎の男の名を、最後に聞かせて欲しかった。
「リバ原あき、と申します」
倒れたまま目を見開くぽよよんを寂しげに見下ろしながら言う。
その顔を苦しみではなく、驚愕と取ったのだろう、彼は言葉を続ける。
「普段の芸風と違うと思うやも知れませんが、あれも演出です。
自ら楽しみながら、また苦しみながら、ユーザーに娯楽を提供する。
それこそ、私達の使命だと思っておりますよ-----」
もはや聞いてい者はいなかっただろう。
ぽよよんロックは懺悔するかのように崩折れ、事切れていた。
佐藤淳、りんしん、乱入ぽよよんロック脱落。
【残り9名】
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