乾き






「ゲームゲーム、プリーズプリーズ、ハリーハリー!!」
はしゃぐ暇人(12)に♯7-76(44)はため息をついてゲームを拾い上げた。
「いーけどさー、あんま期待すんなよ?」
「いや、もうなんでもいいって、暇さえつぶせれば」
「そうかい、じゃあ、ほれ」
手渡されるゲームに目を落とす暇人。
数秒後、つぶやく。
「……どうすればいいんだ」
ハードはP/ECE。
肩をすくめる♯7-76。
「……製造までして、あきらめたと思われ」
ソフトはアビスボード。
どこまでも乾いた空気の中、下川の執念を、その時暇人は実感した。

……数分後
「糞ゲーだな、やっぱ」
暇人のぼやきに、♯7-76が返す。
「の、わりに熱中してるじゃない?」
「……超先生のゲームの分際でクリアできないって、無性に腹が立たないか?」
「……ひそやかに同意」
別に楽しいというわけでもないのに、二人は交代しながら延々とプレイしていた。
「しかしあんたも災難だな、わずか一話の執筆で拉致られるなんてさ」
「全くだ、未だに実感もわかねーよ。キャラをたてることもできそうにないし、まさしくどうすればいいんだ?」
「まあ、いいじゃん。立ちCGがないぶん、勝手な設定入れやすいって意見、同人ゲーであったぜ?」
「AIRRPGか、あれは名作だったよな」
「そうか?みさき先輩が使えない時点で駄作だろ?」
「Ver2でやったか?新技がある……」
まあ、とにかく、こうして取り留めの無い話が続き、暇つぶしにはなった。

てかさ、いいのかな?こんなんで?」
♯7-76が疑問に、暇人はゲーム画面に目を向けたまま「何が?」と答える。
「俺たちさ、殺しあってんだよな?こんなマターリしてていいのかな?」
「ホントに殺しあってんの?」
「放送あったろ?」
「寝てたし」
「あっそ」
乾いた、沈黙。ややあって口を開く♯7-76。
「さっきも言ったけどさ、実感わかないんだわ。だって、俺書き手なんて面識ないんだぜ?死んだっていわれてもなんだかなぁって感じ」
まあ、そうだろうなぁ、と暇人は思う。チャット不参加組にとってはそんなもんだろう。
「セルゲイって奴の呼びかけもあったけどさ。書き手の奴らの性格わからないし、なんか仲間になりにくくてさ……あんた、書き手チャットに参加してなかったの?」
ようやく、暇人は目を上げた。単にゲームオーバーになっただけの話だが。
「実は、してた。ほんの一時期だし、もう細かいことは忘れてるけどな。向こうもろくに覚えてないだろ。で、誰が殺されたって?」
殺されたものの名を紡ぐ♯7-76。その名を聞いてしばらく黙る暇人。
「……そっか、殺されちゃったわけだ、NBCさん」

彼とは、ほんの少しだけ思い出があった。
彼がまだ涙雨と名乗っていたころ、暇人がまだチャットに参加していたころ。

SYSTEM >> 涙雨さんが入室しました
涙雨 >>  あれ?誰もいませんねー
涙雨 >> それでは内緒話などを……
涙雨 >> 実は先日、僕、ある娘に告白したんです
涙雨 >> そしたら言われてしまったんです
涙雨 >> 「私、××なの!!」
涙雨 >> ショックでしたねー……さあ、急いで流さないと。
SYSTEM >> 暇人さんが入室しました
暇人 >> ……
涙雨 >> ……
暇人 >> あ、あの?
涙雨 >> ああああああああーーーーー!!

その後二人は、本当にどうでもいい話で 急いでログを流したのだ……

「そんな美しい思い出」
「いや、全然美しくないし」
「ところで、当時NBCさんのある作品がNG議論の対象に挙げられててさ、
ある有名コテがわりとNGよりだったんだわ」
「で、ログを流してるときにその有名コテがやってきて、
自分の陰口を流してるんじゃないかと勘ぐちゃってさ、大変だったよ」
「……その有名コテって?」
「あんたの想像してる人であってると思う。幸薄い人だったなーNBCさん……」
「暢気だね、あんた」
三白眼で睨む#7-76を無視して、暇人はゲーム画面に目を落とす。
(まあ、NBCさんの死体を見かけたら、埋葬ぐらいはしてやってもいいか)
暇人は思った。
それぐらいはしてやってもいい、それぐらいの思い入れはある。
敵討ちは……まあ、気が向いたら。
(けどさ)乾いた笑みを暇人は浮かべる。
死体見たって、誰だかわからねーじゃん?

【12: 暇人 マターリ 】
【44: ♯7-76 マターリ】



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