嗚呼、すれちがい






 ――彼女たちが出会ったのは、あるいは必然だったのかもしれない。

 新鮮な命にあふれた草木が生い茂る森の中を、一人の女性が歩いていた。
 がさがさと音を立てながら、ひとまず休息できそうなところを目指す。
(この島にいる以上、100%安全な場所はどこにもない。それなりの場所でいい)
 そして、彼女は見つけた。
 森の中の巨大な木。まるであゆが落ちたあの木が切り倒される前のような、そんな大木。
 視界は広い。周囲の森までの距離も手頃だ。
 もし襲われても、この大木を盾にしながらどうにか逃げ切ることが出来るはずだ。
 そこまで考え、彼女は一息つくことにした。大木を背にして鞄を地面に落とす。

 どささっ。

(…………?)
 彼女は何か、違和感を感じたような気がした。
 が、視界には誰も見えないし、森から誰か来る気配もない。
(……気のせいね)
 こんな島に連れてこられて気が立っているんだわ。彼女は自分にそう言い聞かせた。
 それよりも早く鞄の中身を確かめないといけない。中身も知らずに死ぬなんてまっぴらだ。
 彼女は逸る気持ちを抑えながら、一気に鞄のファスナーを全開にした。

 ジィィジィィッィッ!

(…………!)
 ぴたり、と彼女の動きが止まる。
(今度こそ、気のせいじゃない。誰か……近くにいる!)

 しかもその人物は信じられないことに、彼女とほぼ同じタイミングでこの木にたどり着き、
同じタイミングで鞄を下ろし、そしてほんの少しずれたタイミングでファスナーを開いた。
 あと少し、ファスナーを下ろすタイミングが同調していれば、気づかなかっただろう。
 ……偶然にしては、出来すぎの状況。けれど。
(ハカロワでは、人間の思いつく全ての空想が実現する可能性がある……!)
 そんな、どこかのゲームであるような格言を脳内で反芻し、彼女は鞄の中身を確認する。

(……うっ!?)
 途端、彼女は硬直した。間違いない、この武器は……危険すぎる。
 中にあったのは……中にあったのは……!
「防弾ぶるまーですね」
「ッ!?」
 配給武器の衝撃に、不覚にも思考を止めてしまった彼女。
 その背に、固いものが突きつけられた。

 ――返す返すも不覚だった。
 もっと注意していれば、木に近づくときに先に気づけていたかもしれない。
 鞄の確認を後回しにすれば、先手を取れたかもしれない。
 そして、せめて配給品が、ブルマーでさえなければ……!
 悔恨する彼女。だがしかし、背中に突きつけられた固いものは、すぐに離された。
「こんにちはお姉さん。脅かしてすいません」

 そこに立っていたのは、一人の小柄な女の子……に、見えた。
 胸はぺたんこ、声も高音のそれだが、なんとなく中性的な雰囲気もある不思議な外見。
 片手には、彼女に突きつけていたと思しきペットボトル。もう片方の手には鞄。
 にこにこと人懐っこい笑みを浮かべる姿は、ロワのなんたるかを知らないように見えた。

 ――そして。

「改めて、お姉さんはじめまして。私の名前はないしょですけど、お姉さんのお名前は?」
「内緒って……ええと。私、訳あり……」
「……訳ありで名乗れないんですか。さぞや深い事情があるんでしょうね……」
「いや、そうじゃなくて。……いや、私も内緒じゃわかんないんだってば、あなたの名前」
「え? だから内緒ですってば」

 ――そう。
 彼女たちが出会ったのは、あるいは必然だったのかもしれない――。

【25:訳あり名無しさんだよもん 女性 防弾ブルマー所持】
【46:ないしょ 性別ないしょ 配給品ないしょ】



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