後悔先に立たず
建物の外に出たら、綾香を待つことに決めていた。
綾香と話しあうまでもなく、当然の事だった。
夜風に当たりながら、数分間待っている。
それだけのはずだった。
建物の外に一歩出た瞬間、何処からか狙われている気がした。
走った。いつもよりも速く、速く、速く。
意気地なし。どこからかそう聞こえたけれど、無視した。
近くの茂みに飛び込む。ここで綾香を待とう、そう決めた。
だって茂みから出て何もない場所で待っていたら誰かに狙われてしまうかもしれないし、
綾香だってきっとそう思っている筈だから、
いきなり私が目の前に立っていたらびっくりして襲い掛かってくるかもしれない。
だから――
そこで、綾香が出てきた。辺りをきょろきょろと見回している。
――ここから出て行かなくては。
そう思い、腰を上げかけた瞬間、
綾香はわずかに肩を落とし、風のように走り去った。
追いかけたが、追いつく筈はなかった。
失敗した、と思う。
それも、原因は自分にあるのだ。
方向も分からない夜の闇を彷徨いながら、来栖川芹香は後悔していた。
その微妙な表情の変化を感じ取れるのは、今この場に居ない藤田浩之や来栖川綾香だけであった。
そして、芹香は綾香がもう一度、あの場所に戻っていたことを知らなかった。
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