不思議な刀
九能と会ってから30分、ヒナギクは九能と2人森の中をさまよっていた。
その間、九能と話をしていたが、話を聞けば聞くほど、合流する予定の
天道あかねという人物に同情していた。
なにせ、この30分の話が「天道あかね」と「おさげの女」の事だけ。
普通の女の子なら、これは耐えられないだろう。
(そんなに悪い人ではなさそうだけど。この人相当自意識過剰だわ。
でも、お姉ちゃん並のバイタリティはありそうね。)
普段のヒナギクなら速攻で九能と別れてナギやハヤテを探しにいくだろうが、ここは常識が通じない世界。
せっかく出来た仲間と別れて、2人を探しに行くほど愚かさではない。
でも、九能の話にヒナギクの我慢も限界に達してきたので、別の話題を振ることにした。
「そういえば、九能君。あなたの持ち物は何?」
「うむ、僕の持ち物は『聖刀満願丸』という刀だ。」
そう言うと九能は満願丸を取り出した。ヒナギクが見たところ、ただの日本刀だ。
「不思議に思うかもしれんが、この刀は3つの願いを叶えることが出来るのだよ。桂ヒナギク。」
「願いを叶えるって?本当に?」
「ああ本当だ。昔、満願丸に僕は選ばれたのだからな。」
「あなたがこの刀に選ばれたの?」
「そうだ。僕は満願丸に100万人目の勇者として選ばれたのだよ。」
九能は満願丸に選ばれた時のいきさつやどのような願いを叶えたかも話してくれた。
初めは、願いを叶える刀という都合のいい話などあるわけがないとヒナギクは考えていたが、
この世界に連れてこられたいきさつを考えると信じられる気がしてきた。
ただ、九能が叶えた願いについては誰から見ても、もっと気のきいた願いがあると思えるものばかり。
もし、九能が満願丸を使ったら、また無駄な願いに浪費されることになるだろう。
(もしも、この刀が本当に願いを叶える刀だったら、今後何かの役に立つはず。
でも、九能君が満願丸を使ったら、ただの棒きれになってしまう)
ヒナギクはある賭に出ることにした。
「ねえ、九能君。よかったら、この刀貸してくれない」
「ああ、いいぞ。僕と交際したいんだな。」
「違うわよ。あなたと交際したいといっているわけじゃないんだから!」
あいかわらず自分の世界に入っている九能を無視しつつヒナギクは満願丸を受け取った。
その瞬間、満願丸がヒナギクに語りかけたのだ。
『選ばれし者よ。汝の願いを言え、3回まで叶えてつかわす。』
なんということだろう、ヒナギクは満願丸に選ばれてしまったのだ。
自分としては、九能から一時的に刀を取り上げておくだけだったのだが、こうなっては仕方がない。
「まだ、特に願いはないわ。あったら、きちんとお願いするから。」
『了解した。』
満願丸は今にでもヒナギクの願いを叶えそうな様子だったが、満願丸はしかるべき時に使うべきだ。
今は九能に満願丸を返そう。元々彼の持ち物なのだから。
「九能君ありがとう。刀を返.....」
ヒナギクがそう言いかけた時、満願丸との成り行きを見ていた九能は悔しそうに叫んだ。
「確かに、顔よし、姿よし、裕福な上に人格者で強くて賢い僕には3つの願いは
多すぎるとは思ったが、何故選ばれし者の僕ではなく、桂ヒナギクを選んだのだ。満願丸よ!」
『汝は、過去の我に選ばれし者。よって、今度は別のものを選び、その願いを叶えることとする。』
九能は満願丸の回答にあまり納得していないようだ。その上ショックも受けているようだ。
自意識過剰の彼からしてみたら、一度選ばれた刀に拒絶されることなどあってはならないことだろう。
(可哀想ね)
確かに九能には願いを叶えさせないようにしようとしたとはいえ、結果的に良心が咎める行為をしたことには変わりない。
そこで、ヒナギクは九能のプライドを傷つけないように提案という形で話すことにした。
「ねえ、九能君。それじゃ、満願丸と私の持っているこの刀とを交換しない?」
ヒナギクは磁双刀(N刀)を九能に見せた。
「ほう、これは見事な刀だな。それによく切れそうだ。」
「あなたも私も剣道をやっているし、お互いに刀が使えた方が今後役に立つと思うわ。
この刀の代わりに私は満願丸を貰うけど、それでいいかしら?」
「分かった。桂ヒナギク。お前からの交際の申し入れとして、お互いの刀を交換しよう!」
「勘違いしないで!満願丸と交換で刀をあげるだけなんだから!」
少し怒りつつヒナギクは磁双刀(N刀)を九能に渡し、九能は早速試し切りを行った。
九能が使う磁双刀(N刀)によって周りの木や岩がスパスパ切れていく。
(この人、意外と出来るわね。これならお互いに自分の身は守れそうね。)
「おお、桂ヒナギク。この刀すごく切れるぞ。これなら早乙女乱馬も一刀両断できるぞ。」
「あまり、切りすぎると刃こぼれするわよ。それに天道さんを探すんでしょう。」
「それもそうだな。それでは行こうか。桂ヒナギク。」
2人は再び森の中を移動し始めた。その間、ヒナギクは一人考えた。
(とりあえず、切り札になりそうなものを手に入れたわ。ゲームから脱出するにしても、出来ればこの刀を使わずに済むといいんだけど...。)
しかし、ヒナギクは気づいていなかった。
九能のデイバックに白面が入れていた満願丸の使用説明書があったことに。
九能は過去に満願丸を所有していたので特に読んでいなかったのだろうが、そこには残酷な現実が書かれていた。
『聖刀満願丸・・・どんな願いも3つだけ叶えることの出来るアイテムです。
ただし、願い事には代償が伴います。満願丸で願いを1つ叶える毎に私に報告され、
何かしらの代償が必要となります。代償はあなたの願いによって変わります。
くれぐれも注意してお使いください。』
【Dー4 森の中/ゲーム開始から1時間経過】
【桂ヒナギク@ハヤテのごとく】
[状態]健康
[装備]磁双刀(S刀)@烈火の炎
[荷物]荷物一式(食料・水二日分)、聖刀満願丸@らんま1/2
[思考]1.三千院ナギ、綾崎ハヤテ 、天道あかねとの合流
2.ゲームからの脱出
3.満願丸の使い方についての検討
【九能帯刀@らんま1/2】
[状態]健康
[装備]磁双刀(N刀)@烈火の炎
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.天道あかねとの合流
2.天道あかねと共にゲームを脱出
[備考]満願丸で願いを叶える代償は以下の通り。
軽度の願い 「使用者自身が一定時間婢妖に苦しめられる」
最大級の願い「使用者もしくは使用者が大切に思う人の命」
ただし、自分もしくは他人が苦しむ願いをした場合は、特にペナルティ無し。
白面からみて、取るに足らないあほらしい願いも特にペナルティ無し。
ヒナギクの場合、ナギが既に死亡しているため1つ目の願いはペナルティ無し。
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