プロローグ(前編)






床に畳が敷かれた暗い和室
和室といっても縦横は3mほどの広さで周囲は襖で囲まれており、
燈火器の淡い光のみが、この暗い空間をぼんやりと照らしている。
(一体これから何が?
 それより…お嬢様は無事なんだろうか?)
部屋の中央に座っている執事服を着ている少年 ―――― 綾崎ハヤテ
彼は自分よりも年下の主のことを心配しつつ、これに至った経緯を思い出していた。

その日は、空に雲が立ち込め季節外れの強風が吹いていた…。
「台風じゃないんですか?」
「作中ではまだ1月だぞ。…現実世界とはかなりズレがあるが。」
「…しかし天気が悪いですねー。
 天気予報では今日は快晴のはずなのに…。」
「ああ、この屋敷の約半径500mだけがこんな天気らしい。」
「へぇ…。」
「特に天気に好き嫌いはないが…気が滅入るな。」
雲が覆い尽くす空を見て呟くハヤテの主 ―――― 三千院ナギ
「お嬢様は天気が生活に影響しにくそうですけど…。」
「どういう意味だ  ノ( 」
           ⌒
「ところでハヤテ…なにか息苦しくないか?」
「…そういえば…。 湿気ですね」
「そうか…? …どこかから発せられてる邪悪な『気』みたいなものを感じるのだが…。」
「…お嬢様…。」
「な…なんだその目は!私は電波など受信していないぞ!!」
その時、電話のコールが鳴った。
  プルルルルルル  プルルルルルル  ピッ
「ふーっ………もしもし。私だ。」
いくらか落ち着きを取り戻したナギが、手元の電話を受ける。
あぁ、伊澄か。
 ………え? ………どういう意味だ? ………わかった。」
  ガチャ
「ハヤテ、伊澄から電話があったのだが…。」
「どうかしましたか?」
「…何か悪い『気』を感じるから、早く逃げろ、と…。」
「伊澄さんが…。…嫌な予感がしますね。とりあえずここから離れましょう。」
「待て!!なんだこの反応の差は!?」
 ナギが怒って抗議しようとしたその時

「 も う 遅 い 」

「「!?」」
いつの間にか、部屋に一人の黒髪の女がいた
その体は幽霊のように透けていて、中国風の服(こちらも透けている)をその身に纏っている
しかし、真に纏っているものは服などではなく ―――
(なんだ…この人は!?)
ハヤテの体は、数秒の間動かなくなった。
霊感など無いと思っている彼ですら感じる巨大な「存在感」
かつてヤクザや伊澄のボディーガードから感じた重圧など比べ物にならない「恐怖」
「逃げないと死ぬ」という思考と「逃げても死ぬ」という二つの思考が同時に頭を巡る
そして同時に三つ目の思考が頭を巡った。

(「お嬢様を守る」!)

ハヤテの体が動いた
ナギを抱え、もう1つ跳びでドアへと跳ぶ。この間約2秒
そしてドアノブに手を掛けようとしたその時
「!?」
突如足元の感覚がなくなり、彼は主を抱えたまま奈落の底へと落ちていった。
そして、気がつくと和室にいた
「結局、ここは一体どこなんだろう?」
回想を中止し、周囲…というほど広くないのだが、一応周りを見渡してみる。
(床は畳…天井は木…周りは襖…)
部屋にあるのは燈火器のみ
(とりあえず、お嬢様を探さないと…。)
そう思い、襖の取っ手に手を掛ける。
が、開かない。
(あれ?)
四方の襖全部を試してみるが、ビクともしない。
(これは…新手の脱出ゲームなんだろうか…)
そんな馬鹿な考えが頭を過ぎった直後
「ん?」
部屋の明かりが フッと掻き消えた。

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

(………………このJ○J○みたいな効果音は一体……
 …! 襖が!)
振り返ると、今まで開くことのなかった襖が
襖に有らざる音を響かせながら徐々に開いていく。

襖の先に広がる部屋は異様な部屋だった
例えるなら『円柱型の和室』
畳が敷き詰められている円形の床と数10m上にある天井
部屋の側面には高い位置、低い位置に関わらず多くの襖があり、その全ての襖が開かれていた。
襖の内側の部屋には様々な姿の者がいる。
自分と同じぐらいの歳の男女、小さな子ども、外人
人種も年齢も服装もバラバラな者たちが見える。
他にも明らかに人間ではない姿の異形の者や、
人形のように整った顔をした美少女、虎などの・・・
(…虎?)
「おー!借金執事か!?」
「って、なんでお前がいるんだよ!」
すぐ近くの部屋にはなぜか三千院家のペット『タマ』の姿までがある。
飼い主のナギは猫だと主張するが、断じて猫ではない。トラである。
「いやー、昼寝してたらいきなりホラ…ワームホール? に引きずり込まれて…。
 で、どこだここ?」
「さぁ…。多分お嬢様もここにいる筈…。」
「何!お嬢が!?」
その時、ハヤテのいる位置から遠い部屋から、彼を呼ぶ少女の叫びが聞こえた。
『ハヤテ!』
(お嬢様!)
彼女の声を聞いた彼はすぐさま部屋を飛び出そうとしたが ――――
「うわっ!」
『大丈夫か!?』
「だ…大丈夫です。お嬢様…。」
前に張られた見えない壁に阻まれ、出ることは叶わない

他の者たちもこの状況に混乱しているらしい
力ずくでこの見えない壁を破ろうとする者 泣き出す者 友や知り合いの名前を呼ぶ者
冷静に状況を観察している者 辺りをきょろきょろと見渡す者
それぞれが様々な表情をしているその時
部屋の中央に巨大な炎の柱が立ち、その凄まじい光景に場が鎮まる。
何故か床に敷かれた畳は燃えていない。
そしてその炎の柱が徐々に小さくなって消えると、部屋の中央には透明な一人の女の姿があった。

この場に呼び寄せられた彼らは本能で 直感で 経験で 理屈で
そして借金執事は借金一億五千万の勘で
これから何かとんでもないことが起こることを悟った

「ようこそ この宴の席に」
女が不気味に微笑み、告げる

「これからあなたたちには ――――――――

     ―――――――― 殺し合いをしてもらいます。」


 To be continue...



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