無題
まるで砂漠の蜃気楼の様に空気が歪んだように見える場所、ファントムファンタジーで二人は出会った。
男と女、恐らくは中学生程であろう、ごく普通のどこにでもいる二人の子供。
だが、その二人の対応は全く違っていた。
何も考えていなさそうな表情で女を見る男に、涙を浮かべながら目の前の男を見る女。殺し合いをしろと言われた直後のことである、
それなのに何故男はこの様に自然に振る舞えるのか?
その疑問は女にも浮かんだのだろう、女は後ろ、つまり男とは反対に向かって駆け出す
「おいお前、ちょっと待て」
かけられた声は女のすぐ後ろから聞こえてきた、男は逃げ出した女の肩を掴み声をかけてきたのだ
それはかなりの速さであるが混乱した女の頭にはそんなことは関係無く、ただ振り向いた時目の前にあった男の無表情な顔が女の恐怖を煽っただけであった。
「きゃああああああ」
女の悲鳴とばしんという音が辺り1面に響いた。
「ごめんなさぁい」
壁に空いた小さな洞窟に二人が入った後のことである。女は盛大にビンタをかましても男が反撃するどころか文句も言わないことで自分が想像していたゲームの参加者とは違うと思ったのだろう。
男は真っ赤にはれあがったホッペタを押さえながら涙目で女を見る。
「いきなりビンタなんかされたら痛いじゃないか」
「だからごめんって」
女は自分が一緒に旅していた男のことを思い出していた。姿や話し方は違うのだが雰囲気というのだろうか?それがあの男、刃に似ているのだ。
「まぁいいか……で、お前誰だ?」
「私?私はさやか、あなたは?」
「俺か、俺は植木」
「よろしくね、植木」
「あぁ……よろしく」
この時立ち上がって握手をした事によってある男に見付かってしまった事を二人はまだ知らない。
「へぇ……子供二人か……」
その様子を見ていたのはスーツを着た一人の男、ジェームズ・ホワンであった。
ホワンはさやかと植木がいる洞窟に向かって歩き出した。二人に危機が迫っていた。
「植木はどうするつもりなの?」
「何が?」
「何がって……殺し合いに巻き込まれたのよ!これからどうするかって聞いてるの!」
植木はそのさやかの剣幕に驚いた様に身を退くが、
「生き残る」
口に出した答えははっきりとした物であった。それははっきりとした戦いの意思、生き残るという意思。さやかは笑った。声をたてて、それはこのゲームに参加させられて初めて得た安心感であった。
だが、それはつかの間の事であった。まるで空気が震える様な振動が起きて洞窟の奥に転がされる。洞窟の前に立つのは一人の男、
「君達も運が悪いねぇ……最初に出会ったのが僕じゃなかったらもう少し生きられただろうにねぇ」
男が口にしたのは明確な自分達を殺すという意思
さやかの笑顔がかたまった、いくつかの驚異を繰り返してきたさやかもこの様な鋭い殺気は感じた事が無かった。その前に立つのは植木、さやかを守る様に立ち塞がる。ホワンはそれを見て面白そうに笑う。
「へぇ……女の子を守るかい坊や?でも僕には勝てないよ」
植木は何も答えず、洞窟に落ちていた石ころを拾いあげて両手で握る。
「ゴミを木に変える能力」
二人の殺し合いが始まった
植木の手の中から巨大な大木が飛び出してホワンを吹き飛ばす。
だが植木は小さな違和感を感じていた。
才の数が減っていない、それから考えられることは二つである。
一つは相手が能力者であること、それはとりあえずはいい。
二つ目はあの主催者が何かをいじくったか。それはもしかしたら自分のことも次の瞬間には突然殺すことができるかも知れないということ。だが、そんなことは関係無いという風に生き残る為に戦うことを続けることを示した。
「おいおい、石を木に変えるってどういう能力だ」
再び洞窟の入り口にホワンが立ち塞がる。植木はそれに向かって石を木に変えて攻撃をする。
「面白い攻撃だけど、二回目からは通用しないよ」
ひらりと横にかわすと植木の方をじっと見る。すると音も無く空気が揺れて、植木を吹き飛ばす。
その振動はそよ風となって洞窟の奥にいたさやかにまで伝わってくる。
植木は地面に打ち付けながら地面に手を当てて叫ぶ。
「鉄」
地面から巨大な大砲が生えてきて、その大砲からホワンに向かい巨大な砲弾が放たれた。
その砲弾はホワンに向かって突き進む。だがホワンは全く動じずに
「甘いよ」
ずさっ
空中でその砲弾が切断された。勿論ホワンは何も触ってはいない、「化け物……」
さやかの言葉が聞こえたかどうか、植木は立ち上がり先程の大砲を何個も産み出してホワンに向かい連発する。しかし、一つたりともホワンには届かない。
「なら下から、ガリバー」
植木がそう叫ぶと地面の下からホワンを包むように壁が飛び出してくる。
だがさやかは見た、ホワンの姿がかき消える所を
「無駄だよ、僕は空間干渉できる異能力者なんだよ」
植木の後ろに現れたホワン、植木は声を聞き振り向こうとするが間に合わない。またもあの振動によって吹き飛ばされる。
「これも空間を揺さぶって振動を起こしてるのさ」
そして植木にとって地獄の時間が始まった。
「何か……何か出来ないの?私には……」
さやかの目の前では植木が何度も地面に打ち付けられてボロボロになっていく。そんなさやかの視界にディパックが入ってくる。
「そうだ……アイテム」
さやかはディパックに手を伸ばし、その中から一つの槍を取り出す。それは刀以外の武器をあまり見たことのないさやかにも歪に見えた。だが、植木を助けたい。さやかはそれしか頭に無く、その槍を握りしめる。
その思いが奇跡を寄んだ。
槍が光を放ち始めたのだ、その槍の名前は穿心角、本来ならば到底さやかには扱えない物であるが、この異常な空間が何らかの干渉をしたのか。槍は本来の力を持ち、ホワンに向けられた。ホワンはさやかの方を見てもいない。
さやかは槍をホワンに向かい放った。
「な……」
ホワンは槍が突き刺さる直前に槍に気付いた、身を捻りぎりぎりの所でかわす。だが、それで生まれた隙は今までで一番大きな物であった。
「くろがねっ」
どんっ
初めてホワンに鉄が激突する。それはホワンを吹き飛ばす、ホワンは血をはき、なかなか立ち上がれない。
恐らくは肋骨の何本かも折れているだろう、これでは戦うことは出来ない。
「くそっ、まぁいい……次に会った時には殺すさ……」
そういってホワンは姿を消した。再び現れる様子は無い、植木はしばらく顔を上げていたが、直ぐに気絶した。
【ファントムファンタジー中央/早朝】
【植木こうすけ@植木の法則】
【状態】気絶・全身に多数の怪我
【装備】無し
【道具】荷物一式・アイテム不明
【思考】1,生き残る
2,さやかを守る
【さやか@刃】
【状態】無傷・若干の疲労
【装備】無し
【道具】穿心角
【思考】1.植木と一緒に生き残る
2.刃を探す
【ジェームズ・ホワン@ARMS】
【状態】肋骨の骨折・かなりの疲労
【装備】無し
【道具】荷物一式・アイテム不明
【思考】1.植木たちを殺す
2,ゲームで優勝する
3.参加者を殺す
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