Satan
元牙の塔の黒魔術師――オーフェンはB-2の塔の中にいた。
そして、塔の中を探索していた。とはいえ、彼は別に塔そのものに用があったわけではない。
名簿に載っていた知り合い達を探すために、近い位置にある拠点になりそうな場所に立ち寄っただけである。
オーフェンが初めに名簿を見たときは、チャイルドマンの名前が載っていたために驚きはしたが、
同名の別人だろうと思い無視することにした。チャイルドマンは白魔術士でもなければ、死人が生き返るわけでもないのだから。
オーフェンは小1時間ほど塔の中を調べはしたもが、誰も見つけられなかった。
オーフェンはここには誰もいないと判断し、島の中央にでも行こうかと考え、B-2の塔を後にしようとした。
そのときだった、オーフェンが潜ろうとしていた扉が僅かに動いたのは。
扉が開くや否や、オーフェンは反射的に物陰に隠れた。なぜ反射的に隠れたのか自分でも理解しないまま。
塔の外から扉を潜り入ってきたのは、クリーオウほどの年齢の少女であった。
(……ビビル必要はなかったっ……か?)
オーフェンは最初、少女を見てそう思った。
だが次の瞬間には初見の判断を破棄していた。なぜなら、少女の周囲には光の粒子が漂っており、
少女が潜ってきた扉から、轟音と共に扉ごと周りの壁を壊しながら光の巨人が入ってきたのだから。
(なっ……なんだあれは!?)
オーフェンは光の巨人を見て絶句した。光の巨人は数mほどの巨大さに劣らぬほどの、莫大な魔力を伴っていたのだ。
そして、オーフェンは直感してしまった。あれは決して放置してはいけないものだと。
直感などたいして当てにできるものではないが、あれを放置してしまえばクリーオウやマジクだけではなく
この島にいる他の人間もあれに刈られることになってしまうと確信できてしまう。
正義の味方ぶるわけでもなかったが、それは決して行なわせてはいけないことだ。
(なら、ここで潰す! 狙うなら今だ!!)
オーフェンは覚悟を決め奇襲をすることにした。
狙うならあの巨人を作り出していると思われる少女であろう。だがただの熱光波程度では、少女の周りに漂っている粒子を打ち抜けそうにない。
それ以上の魔術ならば少女を傷つけることは可能ではあるが、それでは少女は死んでしまう。
それはオーフェンとしてはしたくなかった。
ならば一撃で巨人の方を潰すまで。オーフェンはあれに最も有効な魔術の構成を頭に浮かべる。
(人でないなら壊せる!!)
オーフェンの体内から魔力が生まれ、巨人が構成に包み込まれる。
「我が契約により――聖戦よ終れ!」
オーフェンの作り出した構成に魔力が流れ光が弾け、意味消失の魔術が生じ光の巨人を包み込んだ。
(やったか!?)
そう思いはしたが、オーフェンはすでに勝利を確信していた。会心の出来の構成によって繰り出された意味消失の魔術である。
防御のための魔術が発動した様子すらなかった。天人の遺産でも壊れていなければおかしいはずだ。
光が収まり少女の周囲の様子が露になる。
だが、巨人はまったくの無傷であった。
「な、なんだと!?」
オーフェンは驚愕した。魔術自体は会心の出来であり、巨人はなんらかの防御すらしなかったのだ。
それでも存在するのなら、それはオーフェンの魔術はあの巨人にとっては何一つ防御する必要などないということである。
そして、そんなオーフェンの驚愕など知らないとばかりに、巨人がゆっくりとオーフェンの方へと振り向いた。
「!……クソッ!!」
オーフェンは反射的に塔の壁を魔術で壊して、逃げようとした。
だが、巨人は最初の緩慢な動きからは想像もできぬほどの速さで、オーフェンへと迫る。
その速度は銃弾に匹敵するかと思えるほどに速く、オーフェンは避けられないと判断し、逃げるのを止め防御のための構成を編んだ。
「我は紡ぐ光輪の鎧!」
オーフェンの前に光輪の壁がそそり立つ。
巨人の拳と光輪の壁が触れ合い、光輪がまるでダンプカーにぶつかった紙の如く、破られた。
「な!?」
オーフェンは本日何度目かの驚愕をする。それが彼の最後の驚愕となった。
オーフェンの体が光の巨人の片手に一瞬にして握りつぶされる。
巨人がオーフェンを握りつぶした掌を開くと人間一人分ほどの体積と同等の肉の塊だけが乗っていた。
B-2の塔には血に塗れもせずに人を殺した光の巨人と、肉塊と、負の感情を巨人に送り続ける少女――宮間夕菜が残された。
【B-2/塔/一日目/午前】
【宮間夕菜@まぶらほ】
[状態]:覚醒
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、不明支給品×2
[思考] :???
[備考]:オーフェンの支給品の行方は次の書き手さんに任せます。
塔には光の巨人が壁を壊したためにできた大穴が存在しています。
【オーフェン@魔術士オーフェン 死亡】
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