Orphen






 葵学園2−Bに在学している女子高生である宮間夕菜は城の中にいた。
そして震えながら、自身が陥った状況を考えていた。

 殺し合い。

 嫌な響きのする言葉だ。だが、それをするであろう人間が世の中にいることは事実なのだ。
かつての自分の力を巡った事件では、強姦されそうになったこともあれば、自分たちと会話しただけの家族が皆殺しにあってしまったこともあり、
とてもではないがこの島に呼ばれた人間すべてが善良であるとは思えなかった。

(でも……)

ただ一方で思う。自分の友人達を始めとした善良な人間がいることも事実だと。
ならば、以前起こった事件のときと同様に事態を解決し、みんなと一緒に葵学園に戻るのだ。

「和樹さん」

 夕菜は愛する者の名を呟いた。その名を呟くだけで勇気が湧いて来る。
大丈夫、きっとうまくいく。みんなと一緒に日常に帰れるはずだ。
そんな未来を夕菜は思い描いた。
だがその思いは一瞬の後に掻き消された。背後からかつん、という硬い音が耳に届いたからだ。
夕菜は慌てて後ろを振り返った。
はたして夕菜の後ろには、15,6ぐらいであろう黒目黒髪に黒いローブを着た黒一色というべき少年がいた。

「ちょっと質問があるんだ」

 少年が夕菜に話しかけきた。夕菜は警戒しつつも応対することにする。

「……はい、なんでしょう?」
「この辺りで、女性を……たぶん僕と同じ格好をした肩まで髪を伸ばした元気がありあまってそうな人を見なかったかい?」

 などと言われたが夕菜には心当たりはない。

「いえ、あなた以外にはまだ誰とも会ってはいません。あなたの方はどうですか?」
「僕のほうも君が初めて会った人間さ」

 少年が夕菜にそう告げた。
その瞬間、少年の体から強い魔力が精製された。

(そんな――――――ッ!!)

 夕菜は愕然とした。目の前の少年は最初から自分を殺すために近づいて来たのだ。
だが夕菜とて魔法使いだ。相手の魔法が放たれるのを黙って見ているわけがない。
夕菜は少年に遅れつつも火トカゲを腕に纏わりつかせる。

「我は放つ光の白刃!」「ザラマンダー!」

 光熱波と炎のトカゲが激突し、閃光が辺りを包み両者の中央で爆散する。

「キャア!」

 だが夕菜の魔法の発動が遅れたためか少年の力が上だったのか、爆発の余波により夕菜の体は吹き飛ばされる。
硬い地面が少女の体を打ち皮膚を削り上げる。
数回地面をバウンドした夕菜の体は、ようやく壁にぶつかることで止まった。

(ま…まだ死にたく……)

だが壁に激突はしたが宮間夕菜はまだ生きていた。
夕菜は、痛みを堪えつつも少年への恐怖から身を起こそうとする。

(ダメ……起き上がらなきゃ、痛ッ!)

 痛む体に鞭を打ちつつ弱弱しく起き上がった夕菜の視界には、紅く染まった石床が写っていた。
夕菜は最初それが何かは分からなかった。
だが、頭のどこか冷めた部分が言っていた。あの少年の所為で自分の体は人に見せれないものになっていると。

(よくも――――――ッ!!)

 夕菜は怒りに任せて魔力を自身の中で練り上げ、放出した。

「ウンディーネ!」

 夕菜の体から水の鞭が出現し、蒸気の向こうにいるはずの少年へと向かう。

「我は踊る天の楼閣!」

 だが、鞭が蒸気の壁を貫く前に夕菜の体に衝撃が走った。
なにが起こったかを夕菜は理解できなかった。
ただ夕菜に分かったのは急速に体から力が抜けていき、意識まで遠くなっていくことだけだった。

「………か…き……さん………」

 その言葉を最後に宮間夕菜の意識は途絶えた。


◇◆◇◆


 やってしまった。

 少年はそう思った、思ってしまった。
殺意は合った、殺す意思もあった。だけれども堪えても堪えても嘔吐感がこみ上げてくる。

(糞ッ!)

水を僅かに飲み、なんとか胃の中からこみ上げてくる感覚を押し流す。
やっとのことで落ち着いた少年は、少女の体を眺める。
名も知らぬ少女の体は、床を転がった際にできた傷により全身がボロボロとなり、さらに胸は擬似転移で貫かれ大穴が出来ている。
見ているだけで吐き気がしてくる。
少年は死体から目を逸らした。これ以上は見ていられない、正直言ってつらい。
とはいえ、見たくなくても気になってしまい、ちらちらと除いてしまう。
故に少年は名簿を見ることにした。それにはよく見知った人間の名が示されていた。

 天魔の魔女『アザリー』

 自分が守るべき人物だ。彼女は実験に失敗し、黒魔術士養成施設『牙の塔』から姿を消した。

(いや、姿を消さざるをえなかった……っだ)

 実験の失敗は、彼女に義弟である自分が言い表せない姿へと変える結果をもたらしてしまい、
その結果牙の塔を自分から飛び出していってしまった。

 少年がここに連れさらわれたのは、その行方不明となったアザリーを探し始めた矢先のことだった。

 少年が最初に名簿を見たときはありえるはずがないと思った。あの場には最後に見た姉の姿は見かけなかったからだ。
だが、そんなことなど関係などない。なぜならば、今の彼女の姿や状態などは誰も知らないのだから。
もし、彼女が最後に見た姿ならば誰とも協力などできないだろう。あの姿と人の姿が合わさってしまったような状態でも同じことだ。
人の姿ならばどうとでもなるがそれでも精神の方は未知数だ。

(それに、彼女が人の姿であっても意味なんかない)

 チャイルドマン・パウダーフィールド。キエサルヒマ大陸最強の魔術士であり、現在は牙の塔にその身を置いている男だ。

(もしもチャイルドマンがアザリーと出会えば、確実に彼女は殺される!)

 塔の意思を遵守するあの男ならば、魔術の失敗をした彼女のことは確実に殺す対象になっていることだろう。
彼女の死はなんとしてでも防がねばならない。たとえ自分の命と引き換えにしてでも、見知らぬ誰かの命を犠牲にしてでも。

 故に少年はこの殺人ゲームに乗った。アザリーを生き残らせるために、できれば最後の御褒美とやらで彼女を元に戻すために。

名簿を眺めるのを中断し、少年は再び死体を見る。いや、正確には死体が持っているデイバックを見る。
チャイルドマンと戦うには装備が必要だ。今の道具では不十分であり、ただでさえ勝てない相手に挑まなければいけない状態である。
しかも何故かは分からないが、いつも以上に魔術の使用に負担が掛かるのだ、武器はいくらでも欲しいところである。
少年は遺体をできるだけ目に入れないようにしながらデイバッグを引き剥がし城からでようとした。
そこで、ふと思い出した。擬似転移で使用した紋章を忘れていたことに。

(……でも、いらない)

 そう思い直し、少年は再び歩みだす。
あの紋章には、少年にとっては意味などない。あの紋章に書かれている名前は死んだ存在だ。

(あれはいらない。僕に必要なのはアザリーのことだけを考えることだけ、それ以外は全部捨てる!!)

 少年は自分の意思を鼓舞するように背負っているデイバッグの紐を強く握り締める。

(だから僕の名はオーフェンだ! 彼女を絶対に見捨てないオーフェンなんだ!!)

【E-2/城/一日目/朝】

【オーフェン@魔術士オーフェン】
[状態]:疲労
[装備]:無し
[道具]:支給品一式×2(水を僅かに消費)、不明支給品×4
[思考]
基本:アザリーを生還させる。御褒美とやらで叶うのならばアザリーを元の姿へと戻す。
1:アザリーを一刻も早く見つける。
2:チャイルドマンをなんとしてでも殺す。
3:アザリー以外のすべての参加者を殺す。

[備考]:夕菜の遺体の側に『牙の塔の紋章@魔術士オーフェン』が転がっています。

【宮間夕菜@まぶらほ 死亡】



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