無題
「また、始まるのね」
道端に落ちていた木の枝で地面を叩きながら、ルールとマップに目を通す。
悪魔遊戯と言っていた、現実な話は殺し合い。歌手生命ではなく、命を賭けた生き残りのサバイバルである。
落ちている木の枝を踏み付ける、枝は折れ、音が鳴る。
一本だけあった太い枝を、歩きながら踏みつける。
今度は重く、耳を塞ぎたくなるような破壊音が鳴る。
「……何度聞いても嫌な音ね」
骨の折れた音と、先刻の音が重なる。ある声が頭に響く。
―どうして、ですか?
声が響いた後に、左の茂みの方から音がする。
「うおおおおおおお!」
男はカッターを両手で構え、一直線に突っ込んでくる。
彼女が半ば意識を放り出しながら歩いていた所為か、男はそれを好機と見たようだ。
手慣れた手つきで持っていた木の枝で軽くカッターを受け流す、ついでに男の足に足を引っ掛けておいた。
男は派手に転倒し、カッターを放り投げ、受身も何もせず顔から地面に落ちる。
ゆっくりと、彼女は男に近づく。一歩一歩を踏みしめるように。
男の目の前辺りまで来てから、彼女は口を開いた。
「どうして、ですか?」
何時か自分にも向けられた言葉を、男に放つ。
男はようやく彼女の方を向いた、恐ろしい位鋭い目が自分に向けられている。
「どうして、どうして私を襲ったんですか?」
その言葉と共に彼女ははもう一歩踏み出す、男はただ、ただ後ろに下がるしかなかった。
ふと、男は自分の左のほうにあった、自分が持っていたカッターを左手に掴んだ。
彼女に向けられるカッター、風を切るように襲い掛かる。
「…俺はカート・コバーンの生まれ変わりなんだ!
こんな所で死ぬわけには行かねぇんだよバケモンが!!」
右手に持っていた木の枝が落ちる、絶好のチャンスだった。
彼女の武器が木の枝しかなかったのならば、確かにチャンスだった。
男が彼女が表情一つ変えなかったことにようやく気がつく、左手には黒く光る木の棒…?
遅かった、炸裂音と共に右手が吹き飛んでいくのが分かった。
走って襲い掛かり、転倒した後は恐怖で左手を見ることは無かった。
だから、左手に握られている散弾銃に気がつかなかった。
「う、うぁ。うああ。手が、俺の手があああ!!」
片手で立ち上がり、逃げようとする。
天高く舞い上がる二度目の炸裂音、同時に男の右足を奪っていく。
二度目の転倒、地面にまた顔を擦りつける。
痛い、傷口と体全体が。痛い、痛くて熱い。
転がって見て見れば銃をぶら下げながら、男がバケモノと呼んだ人間は変わらぬ表情でこっちに向かってくる。
「来るな…来るなよ…来るんじゃねぇ」
叫びは、叫びに鳴る前に三度目の炸裂音にかき消された。
首の無くなった死体を前に、自分に飛び散った赤い液体を眺め、物言わぬ男の血に塗れたデイバックとカッターを回収する。
持つところを考えなかった、ベッタリと赤い液体が。彼女の手に着く。
―詩を書き、曲を作るその手を…どうして!どうして血で汚すんだ!
あなたの手は…そんなことを望んじゃいない!
何時か言われた言葉、あの時も同じように私は引鉄を…。
「うわっ」
後ろの方で間抜けた声がする、振り返ると男が仰向けに倒れている。確かこの人は…?
「た…助けてくれ…」
男は先ほどの男とは違い後退しながら助けを求める。
……銃を懐へと収め、新たに現れた男へと歩み寄った。
「安心して、貴方は殺さないわ」
「で…でもあの人をあんな惨い方法で殺したじゃないですか…そんなの…し、信じられない!」
先ほど撃ち殺した、首の無い死体を指差し怯えながら言う。
「襲い掛かられたから、正当防衛にやっただけよ…生きていたらまた襲われても嫌だから止めを刺した…。
それに、もし私が貴方を殺す気なら、もう首が吹っ飛んでいるわ。
お願いだから落ち着いて、福山さん」
その言葉と同時に、福山と呼ばれた男の震えが止まる。
「…どうして僕の名前を?」
「テレビを見てるから、それぐらい分かるわよ。
私は小松未歩…宜しく」
意外な答えに愕然としながら福山は体を起こす。
立ち上がった所で彼はもう一つの疑問を、小松に放った。
「…どうして、あんな手慣れた動きが出来たんですか?
とても一般人、いや音楽の世界に身を置いている人間の動きじゃなかった…」
その言葉の後に少しだけ俯く、何かまずい事を聞いたのかと思った福山。
顔が上がる、そのまま小松は言い放った。
「二回目だからよ、こういう殺し合いに放り込まれるのが」
…驚くべき事実だった、この悪魔遊戯は過去に一度あったと言うのだ。
「……詳しく教えてください、その過去にあった。一回目の話を」
小松は空を見上げる、何かに祈るかのように目を閉じる。
前を向いて大きな溜息をしてから、重い言葉たちが紡がれて行く。
「…二ヶ月前の話よ。さっきと同じように何人ものアーティストが、一室に集められたわ」
語られる、過去の出来事。その中にはいくつかの鍵と、彼女の重い過去が。
【小松未歩
状態:右手の甲に深い刺し傷
装備:ウィンチェンスター M1897(残り3発)、木の枝
道具:予備弾薬2セット、OLFAのカッター
現在位置:八幡鼻、展望台
第一行動方針:福山に二ヶ月前の「一回目のロワイアル」の話をする
基本行動方針:襲い掛かられたら攻撃はする】
【福山雅治
状態:正常
装備:不明
道具:不明
現在位置:八幡鼻、展望台
第一行動方針:小松から「一回目のロワイアル」の話を聞く
基本行動方針:ゲームからの脱出】
【押尾学:死亡 残り29人】
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