無題






「う…」
ウエンツ英士は目を覚ました。
跳ね起きた彼の目の前にはバラエティで見慣れた校舎のセットが。自分はその机の上に突っ伏していたようだ
「う…」
次第に朦朧とした意識が覚醒してくる。
よく見ると周りには多くの人が。まるで試験前の教室のように静まり返り。あるものは姿勢を伸ばし。あるものは徹夜の勉強疲れの如く、先程までの自分と同じように眠っている。
その端正な顔つきとは真逆の目標、“バラエティでいじられたい”という夢を持つ彼の鋭利な感覚が状況を理解した
(これは…めちゃイケだっ!)

そう確信した矢先、急に隣から彼はツン、と指を突かれた
それならばやるべきことは唯一つ。
「ウェ〜〜ンツッ!!」
物凄い勢いで立ち上がると、ウエンツはアホ丸出しの顔で叫ぶ。
(来たよ来たよ来たコレ!来たコる(ry)
「兄ちゃん、何やってんだ?」
そう言ったのは長渕剛。またの名を拳神。
「え……!」
ウエンツは気付いた。この100%バラエティに出ない人の存在に。
そしてやっと、ウエンツは自分がこの場にふさわしくない存在だと気付いた
「うぇ…」
「いかんよ長渕君、新人を威嚇しては、ぶはは」
ちょうど学校で言えば教師の立つ位置に、その男はいた
もっとも、その風貌から男と判断できる者はおるまい
「これから我輩が喋る前に新人に引いてもらっても困るのでな、のうウエンツ君?」
「はぁ…」
とりあえず教壇に立つものが岡村隆史でなかったため、ウエンツの予想は外れたといえる。ならば何の企画だこれは?
「ウエンツ君、とりあえず座り。前が見えんけえの」
そう後ろの席から囁いたのは岡野昭仁。いつまでたっても田舎自慢をしてくる垢抜けないポルノのVo.だ

「あ、す、すいませんっ」
直ぐ様座るウエンツ。
ペコペコと会釈しながら座るも、彼の存在、そして周りにいるミュージシャンの面々に、彼はやっと気付いた
(Mステ…?そんな、じゃあ徹平は?)
ウエンツの思考を断ったのは彼の代わりに立ち上がった斜め後ろの女。
「ちょっと、これどうなってんのよぉ!私聞いてないんだけど」
憤慨して顔を桜色に染めているのは、いまやティーンに絶大な支持を得る木村カエラ。
「私も気が付いたらここにいた!訳分かんない!」
「おなかすいたー」
それに呼応するかのように愚痴を言うmisono、浜崎あゆみ
「まあまあ、今から説明するから落ち着きたまえ」
「……ぷんっ」
つっけんどんにカエラは席に着く
(なんだなんだ、どうなってるんだ!?
 ドッキリにしちゃゲストがVIPすぎるぞオイ!?)
ウエンツがそう思うのも無理はない。自分の前の席には先程から微動だにしない稲葉浩志、清春が。
…空気が違うのだ。いつものバラエティとも、WaTとして出る歌番組とも。
確かに、揃った面々が全員ミュージシャンであることは事実だ。
しかし、出揃うはずのない超大物。自分同様ここにいる理由を知らず、ある者は固まり、ある者は不満を口にする状況。
…こんな番組があるだろうか?いや、バラエティではありえない。
(でも、見たことある。この状況)
今ウエンツの頭の中には、一つの映画作品の名が浮かんでいた
「…バトルロワイアル?
 ははは、まさかね」

「そう、そのまさかだよ。」
デーモン木暮の顔から、一瞬どす黒いものが覗いた

「え?」
「じゃあウエンツ君、次の展開は想像がつくね?」
そう言うデーモンの後ろから、扉を開けて軍服に身を包んだ二人組がカートを押してくる
その上には大きな布が。
「女性諸君は見ないほうが良いぞ」
そしてデーモンは勢い良く布をはぎ取る。
「あ……そんな…………徹平〜〜っ!!」
女性の叫び声と共に、ある者は目を覆い、ある者は嗚咽の念に晒される。
ミュージシャン達が見たものは、WaTのウエンツ英士のパートナー、小池徹平の見るも無残な死体だった
「彼は京本正樹さんの親戚らしくてな。出場を取り止めにしてあげたんだが、
君が出場するといった途端に目の色を変えてね。だからちょっとまあ、黙らせてしまったんだよ、ぶはは」
(徹平…馬鹿な……何をして)
「何を…何をしてくれとんじゃワ」「席に着け!!」
今にも飛び掛かりそうなウエンツを一喝したのは他でもない、隣にいた長渕剛だった
「で、でも」「席に着けと言ってる」
ウエンツはしぶしぶ席に着くが、内心穏やかではない
(なんなんだよ、これ…)
「ほう、さすが前回のチャンピオンは要領が分かってるねえ。
 まあいい。え〜と、死体も見せたことだし、我輩も言うべきことは言っとかないとな」
コホン、と一息つき改まると、デーモン木暮は軽く、あまりにも軽くその言葉を口にした
「今日はちょっと皆さんに、殺し合いをしてもらいます。」

【小池徹平 死亡確認】



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