オープニング
「やっと目が覚めましたね、おめでとう。
このゲームの参加者に貴方たちが選ばれました」
まばゆい光とともに一堂の前に現れたその存在は、自分自身を『神』と名乗った。
「今日は、ちょっと皆さんに生き残りをかけたバトルをしてもらいます」
全員がゆっくりと周りの顔と顔を見合わせた。
「ゲーム?なんのことだ?」
誰かが言った。
「わたしと、皆さんとでこれから作り上げる壮大なストーリーのゲームです!」
「何それ、どういうこと?」
別の場所で声が上がった。
「わたしは既存のゲームに飽き飽きしていました。予定調和で小粒で一本道のシナリオに
心底不愉快なものを感じていたのです。そこでもっと自分好みのゲームを作れないものかと
幾年も試行錯誤をつづけた結果、わたし自身をゲームの世界に送り込むという
方法を思いついたのです」
「・・・・・・。なに考えてんだ」
神は続けた。
「わたしはその世界でモブと呼ばれ、冒険者たちを苦しめる悪者となっていました。
まさに望んだとおりです。
あとはその中で自分が思うがまま好き勝手に暴れれてみせて、それをライターたちがそのまま
ゲームのシナリオとして上げればいいわけです。
ところがある誤算がありました。
その世界でのモブの頂点には既に松……いえ、ヤズマットが君臨していました。
わたしはそれより下位のSランクに位置づけられていたのです。
そればかりか、プログラムミスでわたしの姿は原型を留めない幻影となり果てていました。
これでは思うような活動はできません。わたしはその世界に留まることを断念しました。
それから次の手を考えたのです。もっと楽に、自分が手をくださなくてもおもしろい内容を
盛り込める方法を…・・・」
誰かが口火を切った。
「そこで・・・・・・バトルロワイアル・・・か?」
「そう!その通り! 皆さんに殺し合いをしてもらい、わたしは神としてゲームの行く末を
見守るだけでいいのです。
かかる手間は皆さんをここに呼び寄せるだけ、極めて効率のよいやり方です」
「何もかもあんたの都合通りってわけだ」
別の誰かが舌を打ち鳴らした。
「なかなか理解が早い」
神は満足した笑みを浮かべた。
「多くのモノたちがヒーローになれずに消えていくなかで、死すべき運命を背負ったちっぽけな
存在が必死に生き抜いていく姿はきっと感動することでしょう。
これこそ私が描こうとした世界そのもの。予定調和などないスリルとサスペンス、
自由なシナリオの中で繰広げられる生と死のドラマです。
協力してくれる貴方たちには本当に感謝しています」
「そしてわたしは提案したい! この感動を最後まで与えてくれる優勝者には
どんな望みでもかなえてあげましょう」
「ふざけるな、お前のために何でそんなことしなくちゃいかん」
誰かが叫んだ。
「俺たちをオモチャにするつもりか!」
神はそれに水を差すような声で告げた。
「それがどうかしましたか?貴方たちはすべて我々が生んだモノなのです。
それにもう好む好まざるに関わらず、ここにいる誰一人ゲームから抜けることはできません」
そのとき誰かが神に詰め寄った。
「俺たちはモノじゃない!」
俊足で叩き込まれた一撃! ミス!神はダメージを受けなかった。
「神にケンカを売るとは…・・・どこまでも楽しい人たちだ!」
神はせせら笑って自分を突いた腕の関節を逆に叩き負った。
「ぐあああっ」
「見せしめです。貴方たちが私に逆らえないことを証明してさしあげます」
ピ、ピピ・・・ピピピ
機械音とともにその腕を折られた『参加者』の一人が後方へ吹き飛んだ。
「皆さんお気づきでしょうか。首元につけられている首輪は爆破機能がついてます」
全員が息を呑んだ。
全員が自分の首に嵌められた腕輪に手を当てると同時に、見せしめと称された参加者の首元が
爆発して頭が吹き飛んだのだ。
「きゃああああ」
誰かが悲鳴を上げた。
騒然とする場内に神の朗々とした声が響き渡った。
「これでわかってもらましたか」
神はゆっくりと告げた。するともう誰も一言も喋らなくなった。
「細かいルールは特殊な力を使い、皆さんの意識に直接吹き込みます。
支給品もそのとき一緒に渡します。これで準備万端ですので、どうぞ煉獄へ」
神の開始宣言が成されると全員が暗闇の中へと落ちていった。
ゲームが始まったのだ。
「さあ楽しませてもらいますよ・・・・・・」
神は身を翻すと、どこからともなく差し込んできたまぶしい光の中へ消え去った。
【ゲーム開始】
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