遊魔






「エア……リス」
ぞっとした。自分を呼ぶ声がする。
「だ、誰?」
エアリスは周りを探したが人影はない。
塔の中は吹き抜けの階上から光が漏れてくるばかり。
天井にはステンドグラスのような色鮮やかな格子窓が敷き詰められている。
安らぐ雰囲気でありながら、エアリスの感情は不安に揺れていた。


「エ……ア……」
どんよりとした重苦しい男の声。
まるで死んだ人が呼びかけてくるようだ。
エアリスは慄然としてザックを小脇に抱えた。
出口を見定めると口元をかみ締めて猛ダッシュした。
この塔から出よう、まず仲間を探そう、とにかくここから離れたい。
エアリスの心は激しく動揺していた。
こんなゲームに参加させられて右も左もわからないというのにこの仕打ち。
頭がどうかしそうだった。

この恐怖を逃れるためにとにかく外へ、エアリスの足は草原の見開く大地へと踏み込む
寸前だった。
そのとき、
「うっ……」
突然足首から生まれた激しい衝撃にエアリスは横様に倒れこんだ。
顔を歪めて引きつった足に手を当てる。
血が噴き出ていた。
少しでも力を入れると激痛が起こる。これではまともに動くのは無理だった。
「けひひ……」
下劣な笑いが耳に木霊する。顔をあげると見も知らぬ男が立っていた。
その男は手に銃を握りしめエアリスにその銃口を向けていた。
「そんなぴっちりしたスカート穿いてるから転ぶんだぜ〜」
屈強な身体と軽装で薄汚れた装備、いかにも傭兵という感じの男。
しかし男は自分が正規兵だと名乗った。
「そのまま殺すのは勿体ねえからな。しばらく楽しませてもらうぜ」
エアリスは咄嗟に魔法を使うことを考えたが、肝心なことに気付いた。
マテリアが無かったのだ。
「ガストラ帝国にゃうるさい将軍が多すぎてよ〜女には不自由してんだぜ」


この男、魔導研究所で強化されていた。
帝国では魔導研究の折、帝国兵にその力を与えてどんな作用があるかを実験するのは
大っぴらにはされていないが、日常茶飯事であった。
大抵は筋力が上がった変わりに副作用で精神を乱したりと一長一短であったが、
この男に行った実験に関してはかなり合格に近かった。
もともとかなりのものだったパワーが数倍に跳ね上がり、しかも精神に異常をきたすことは
外観上ではなかったのだ。
しかし、内面的はやはり問題はあった。
自らの欲望にあまりにも忠実に動きすぎるようになっていたのだ。
戦場では敵を必要以上にいたぶり、戦闘意欲の思いのままに目をくりぬいたり下を引っこ抜いたり
残虐行為を極めた。
日常生活ではそのような素性は見せないものの、いざタガの外れた場所に来ると、その欲望を
むき出しにしたままの行為を行うようになってしまった。
彼の本来もっていた欲望、それは人を痛めつけて笑う嗜虐な精神であった。

「離れて!」
「暴れるんじゃねえ」
帝国兵はエアリスの手を払いのけ、その頬に平手を叩き付けた。
たまらず顔を手で覆ったエアリスの髪を掴むと、背中から素早く何かを取り出し
拳を腹部に押し付けた。
「ぁ……」
エアリスは目を瞬かせてから、ろう人形のように動かなくなった。
身体が痺れて動かない。
帝国兵が強力なスタンガンを使ったのだ。
「これでゆっくり品定めができるな」
うすら笑いを浮かべた帝国兵はエアリスの綺麗なもう片方の足をがっちり捉えた。
スカートをめくり上げその肢体を露にする。



「く……そ、エアリス」
大理石の床を血に染めながら這いずり周る男がいた。
ザックス、彼こそエアリスに呼びかけていた声の主だった。
彼はこの場所にテレポートした直後何者かに狙撃され重傷を負った。
胸の辺りを撃たれた彼は何とかその命を繋ぎとめたが、じきに自分はダメになると思った。
しかし、その階下が見渡せる二階の周回フロアで、霞む視界の中見たものはエアリスの姿だった。
必死で呼びかけるがそれは届いていないのか、ザックスにエアリスが気付くことはなかった。
彼女は声から逃れたいかのように塔の外へと走っていったのだ。
「く……」
ザックスは血を吐いた。弾丸は内臓を破っていた。
意識が無くなりかけて、目をつむりそうになる。
しかし今は這ってでも前進しなければならなかった。見たくはない現場を見てしまったのだ。
エアリスをあの糞ヤロウから救わなければ自分は死んでも死に切れない。
段差の少ない階段をひとつ、またひとつと自分の体を痛めつけるように降りながら
その最後の命の力をふりしぼって、ザックスは帝国兵の背後に近づいていった。




【B-2/塔/朝】
 【エアリス@FF7】
 [状態]:右足に銃創、頬を殴打、スタンガンにより全身が痙攣
 [装備]:なし
 [道具]:蛇のロッド、ポーション
 [行動方針]:放心状態
 [備考]:塔の外に出て仲間を探すつもりだった

 【帝国兵@FF6】
 [状態]:普通
 [装備]:アンタレス、ザイドリッツ
 [道具]:スタンガン、
 [行動方針]:欲望の赴くまま、参加者を陵辱し殺す
 [備考]:通常の兵士より全てが大幅に強化

 【ザックス@FF7】
 [状態]:胸の辺りに銃創(瀕死)
 [装備]:なし
 [道具]:ミスリルソード、最強の盾
 [行動方針]:エアリスを助ける
 [備考]:傷は深いため長くは持たない。



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