ひょっこりひょうたん島






1.浜辺にて

ガバチョ「みなさ〜ん! …と言っても、トラどんしかおりませんが……。私ドン・ガバチョは苦渋の決断の末、『島民税』の導入を決意いたしました〜!」
トラヒゲ「おいおいガバチョ、その『とうみんなんとか』っていうのは、いってえ何だよ?」
ガバチョ「平たく言えばですなトラどん、ときにあんた、お金をお持ちでいらっしゃいませんかね」
トラヒゲ「へっへーん。オレを誰だと思ってるんだい、商売上手のトラヒゲ様よ。ちょいとふところに手をやれば、たちまち手の切れるような万札がほれ、1枚2枚3枚4枚……」
ガバチョ「ほほ〜、貯めこんでおりますな〜。ではそいつを、私の手のひらに乗せてもらえませんかね」
トラヒゲ「いいぜ、ほらよ」
ガバチョ「はい、そしたら私はこうぎゅっと手を握りまして、ほれ、これが『島民税』というわけです」
トラヒゲ「……」
ガバチョ「……おや? なにか言いたい事がおありのごようす」
トラヒゲ「あったりめえよ、その金返してもらおうじゃねえか」
ガバチョ「わかっておりませんなあ、トラどんは。この金はもうあなたのものではなくて、私のもの、いやいや私のものでなくて、この島みんなのものとなったのでございますよ」
トラヒゲ「なんだい、その変な理屈は。とっとと返せ!」
ガバチョ「無理なことを。これが政治というものでございます。島民税の納入、どうもありがとうございました。それでは私はこれにて。すたこらさっさ!」
トラヒゲ「ああ、まてこらっ! オレの金かえせ〜!」

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2.森にて

ガバチョ「ぜえぜえはあはあ……こんな森の奥まではトラどんも追ってきますまい。……それにしても、すばらしいもんですな『島民税』は。
 あ、モニターの前のみなさま。私けっして不純な動機でお金集めしているわけではございません。この金を私のものにしようとか、そんなこと露ほど思っておりませんよ〜。
 実は先日、バイトロワイアルという変な通達がありまして、我々、金儲けしなくてはならなくなったのであります。
 かくなる上は耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び、時勢のおもむくところに従いITなんぞやって一攫千金をねらおうと思ったのですが、先立つものは金。
 そこで『島民税』を集めて高性能電子計算機を買おうと思ったわけでございますよ。
 どうです、このドン・ガバチョのすぐれたアイデアは! ハタハッハ!」
怪しい男「……もしもし、おじさん」
ガバチョ「はいはい、この天才ガバチョに用ですか? シーツをかぶったお兄さん」
怪しい男「…オレだよオレ」
ガバチョ「はて、『オレ』と言われましても、世の中にはクオレやカフェオレ、はたまた食いだ"おれ"などのさまざまなオレがございます。どのオレさまで?」
怪しい男「オレだよ、海賊ドタバー……じゃなくって、あくまでもオレだよ、オレ」
ガバチョ「はて……もしかすると、その自信無げな声、その薄汚れたシーツ、以前私がイギリカ国にいたときに500円をめぐんでやった、あのスラムの少年ですかな?」
怪しい男「え? んー……ま、いいや、それで。そうだよ、オレがその時の少年だ」
ガバチョ「立派に育ったもんですなあ。シーツで姿は見えぬものの、まさにうどの大木」
怪しい男「へえ、おかげさまで。……実はまた生活が苦しくなってしまったもんで、少しご援助ねがえねえかと」
ガバチョ「いやいや、こちらもそうはいかない事情がございまして。それどころかあなた、昔お渡しした500円、今ここで返してもらえないでしょうかな?」
怪しい男「ええっ?」
ガバチョ「それにこの島にいるってことは『島民税』も払ってもらわなきゃ」
怪しい男「なんだそりゃ?」
ガバチョ「税金未納の罪は重いですぞ〜、警察をよびますぞ〜」
怪しい男「け、けいさつっ!? は、はらう、払うさ! で、おいくら?」
ガバチョ「このドン・ガバチョ、痛みをともなう政策はいたしませぬ。今ある手もちのお金をくれたらそれでよろし」
怪しい男「……10円玉200枚だけど?」
ガバチョ「いやに重いですが、それで結構!」

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3.海賊船にて

トーヘンボク「ワタシさっぱり理解できないヨー、こんなに公衆電話並べてどうするネ」
ガラクータ「これすべて、私達の創造主を救うための作戦なのよ、わかってちょーだい」
ヤッホー「信じられねえな。電話一本でがっぽがっぽお金が入ってくるなんて」
ガラクータ「お金はね、あつまるところにはあつまるものですよ。ちょっとの努力とすぐれた才能があるところにはね。
 ……いまにドタバータ君が演技の修行を終えてかえってきます。そしたら、計画開始。トーヘンボク君はヤクザの役、私は弁護士の役、ヤッホー君は頻繁に銀行と連絡とって、お金が入ったらすぐにおろしにいってちょうだい」
トーヘンボク「ハイハイ、とにかくやるアルヨ」
ヤッホー「…ヤクザの役、俺のほうが似合うと思うんだけどなあ……」
ガラクータ「君のほうが凄味があるのは認めるけど、トーヘンボク君のなまりの方がリアルに怖いのよ」
ドタバータ「ただいまー」
ガラクータ「おかえりなさい、ドタバータ君。で、どう? 『なさけない男性役』はできるようになりました?」
ドタバータ「さっきさあ、森の奥であった奴に乞食とまちがわれたんだな、オレ。てことは、わりとうまく演技できてたってことじゃないかな、オレ」
ガラクータ「すごいじゃないですか。では、いよいよやりますよ。……えーっと、誰か小銭もってません? 公衆電話がかけられないのだけど……」
トーヘンボク「ワタシ、ないネー」
ヤッホー「たしか、ドタバータが外で練習するって言ったときに、ついでだから俺たちの有り金ぜんぶ10円玉に両替しにいってもらおうってことになって……」
ガラクータ「ああ、そうでした。ドタバータ君、預けた2000円はちゃんと両替してくれました?」
ドタバータ「ああ、したよ。したけど……とられちまったんだな、これが」
ガラクータ「なんですって!」
トーヘンボク「お金なきゃ、電話できないネー」
ヤッホー「電話できなきゃ、オレオレ詐欺もできない」
ガラクータ「ドタバータ君たら、しっかりしてちょうだい」
ドタバータ「ごめん」
ヤッホー「どうする? ガラクータ」
ガラクータ「仕方ありません。ひょうたん島のみなさんから頂くことにいたしましょう」
トーヘンボク「イヤー、ワクワクするアルネ」
ヤッホー「そっちの方が海賊らしいや」
ガラクータ「忘れちゃだめよ。海賊らしさより、今は利益が最優先。10円玉をある程度もらったらすぐに本当の作戦をはじめるんだから……とりあえず、錨をあげて! 取り舵いっぱい!」


(終わり)



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