プロローグ的






 「すぴー……。」
寝息を立てながら、黄色縞々ことスプーは惰眠を貪っていた。
いつものように地面に寝そべりいびきをかいて、大好きなバナナを食べて、友達と遊ぶ。
これがスプーの毎日のサイクル。っていうか、それの繰り返し。
彼は今日もこんな感じの1日を過ごす……はずだった。
周りのざわめきにスプーは起こされた。眠たい目をこすりながら周りを見渡す。
大きくて、だだっ広い空間(スプーは後にそこの場所が「講堂」という名前だということを知る)にいろいろな姿形をした存在がいた。
例をあげると変わった帽子を被ったおかっぱ頭の男の子、大きな犬、オウムとも雪男ともつかない緑色の誰か。
とにかく、スプーが今まで見たことがないような「誰か」がそこに集結していたのだ。
「スプー、やっと起きたか」
白い羽のような耳をパタパタさせながら、スプーの「保護者」であるガタラットが話しかけた。
見ると、近くにはガタラットのほかにも友人のアネム・ズズ姉妹やジャコビがいることに気づいた。
「ね、何があったのかな。なんかすごい人がいっぱいだよ」
「わしに聞かれても困る」
ガタラットも見当がつかないらしい。この質問をほかの3人に投げかけてみたが3人ともわからないという。
「みんなで集まって何するのかな〜?バナナでも食べるのかな〜??」
あまりにもマイペースすぎるスプーの発言に彼以外の全員はコケることになった。
「スプー、どう考えてもそういうシチュエーションじゃなかよ」
よろよろと起き上がりながら、ジャコビは言う。
「ふーん。じゃあ、なんだろうね」
その「なんだろうね」の「ね」を言い終えない先に大音量のBGMが流れ出した。

 ♪ちょんまげちょんまげちょんまげマーチ ござるでござるでござるでござる……

能天気にもほどがある歌詞にメロディーに合わせ、目に眩しい原色系のスポットライトがくるくると舞う。
幕が徐々に開き始めた。スポットライトは相変わらず上へ下へと舞っている。
幕が上がり終えないうちにステージの下から1人の男がせりあがってきた。
BGMの音量が少しずつ下がっていくのに合わせて、男がマイクを持って……言った。

「みんな、元気〜?!?」

にっこり、とその男は言った。

「こんにちは、おさむお兄さんだよ」
「おさむお兄さん」と名乗るその男はあまり「お兄さん」とは言えない年齢を醸し出しているが……あえてつっこまなかった。
「今日みんなにここに来てもらったのはほかでもないんだ」
おさむ「お兄さん」は言った。
「―みんなにバイトをしてもらうよ」

……。
……。
……はい?

これがすべての始まりだった。



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