交渉
海沿いに佇む小さな民家の壁にもたれて、新一は座り込み、ただひたすらに頭を抑え、苦悩し続けている。
強固な精神力を手に入れたとはいえ、やはり新一は人間だという事だろう。
赤の他人であるはずのクリリンとやらの死、そして今の状況に心を痛めている。
さて、私はどうするべきだろうか。ほっといても新一はそのうち自力で立ち直りそうに思えるが……
それにしても、主催者の意図がよく理解出来ない。
何のために見も知らない他人に殺し合いを強要するのか。
この殺し合いには一見、主催者の利となるような事がらなど全く見えない。
あの人間は、何のためにこの殺し合いを開いたのだろうか。
……分からない。人間の考える事はよく分からない……。
「ミギー……俺はどうすればいい?」
おっ、立ち直ったか。やっぱり早いな。
さて、どうすればいいと言われては、この場合一つしかないな。
新一は怒るだろうけど、言ってみよう。
「そりゃあ優勝するしかないだろう」
「……俺に人を殺せってんのか!?」
新一は血相を変えて怒鳴りつける。
「慌てるな。何も積極的に殺して回るだけが優勝する手段じゃない。
いや、むしろそれは悪手だと思う。私が思うに……そうだな……」
私は一息吐き新一の顔色を窺う。新一は軽蔑の眼差しで私を見ていた。
「なるべく争いを避けつつ、最後の一人になるまで逃げ続ければ、優勝する事が出来る。
無理して命を危険にさらす事に、メリットなんてないぞ。そして優勝すれば、生きて帰れる可能性も高まる」
深くため息を吐く新一。
「…………お前やっぱりミギーだよな」
「その通りだ」
新一の絞り出すような声で述べられた問いに私は即答した。
しばらく新一は無言だったが、突然私の方を力強く凝視し、語り始める。
「俺はこんな馬鹿げた殺し合いなんてしたくないんだよ」
「しなければいい。しなくとも、優勝する手段などいくらでもある」
「だから、その優勝するって考え……そもそも俺はそれが嫌なんだ!
殺し合いで死ぬ奴らを踏み台にして自分が生き残る。そんな卑劣な事……人間には出来ないんだよ!」
シンイチは興奮している。状況が上手く呑み込めていない。
先ほど首輪を観察してみたが、全くと言っていいほど訳が分からなかった。
神龍による未知の技術で作られた首輪なのだろう。私ですら分からなかったのだから。
これを巻かれている限り、我々は命を鷲掴みにされているのだ。
生き残るためには、主催者の意向に従う事、つまり優勝を目指すしかない。
全く……とんでもない災難に巻き込まれたものだ……。
いつの間にか誘拐され、殺し合いに参加させられてしまったのだろうか……。
私が考えていると、シンイチは私に顔を近づけ、懇願するように言った。
「ミギー……俺一人でこの馬鹿げた殺し合いを止められるとは思えない……
だけど俺と同じ事を考えている奴らを沢山集めたら……もしかして殺し合いを止められるんじゃないか?」
「…………」
やれやれ……やれやれだよ全く……。
「何か言えよ……ミギー」
「……君は勇敢だな」
「……はあ?」
シンイチは私の発言に驚いたのか、呆けている。
「だけど厳しいと思うよ、実際。殺し合いを破壊するには、障害がいくつもある。
『乗った』参加者を排除する事、脱出方法を確立する事、そして主催陣営の情報も掴んでおかなければならない。
まあこれらは些細な障害だ。最後の障害に比べればの話だけど……」
シンイチは私の話を熱心に聞き入り、そして自らの意見を述べた。
いつの間にか着けられた首輪を弄りながら。
「首輪か……」
「その通りだ。私でも分からなかった。未知の技術で作られているとみて、まず間違いないと思う」
「…………でも、寄生生物のお前よりも頭がいい人なんていくらでもいるだろ!?」
「……どうかな。そんなに……いないと思うよ」
そう言うと、シンイチは言葉を失った。私はありとあらゆる本を読み、生き残るための知識を得てきたつもりだ。
シンイチほど私を近くで見ている人間はいないのだから、きっとシンイチは分かっているはず……
認めたくないのは、殺し合い打倒の希望を折られたくないからだろう。
シンイチは再びしばらくの間押し黙る。さて、このまま呆けていられても困る。
何かシンイチを励ますいいネタはないものか……。
「だけど俺は……諦めたくない……」
お、まだ反論する元気が残っていたか。良かった。
「どこかに穴があるはずだよ……きっと……」
ここで穴なんてあるはずがないなんて、絶対に言わない方がいいだろうな……。
ここまで手の込んだイベント、そして何らかの組織が主催をしている以上、ほぼ間違いなく『穴はない』
だが、今シンイチにこの事を告げたところで、シンイチの心の拠り所を破壊してしまうだけだ。
言わない方がいい。とはいえ……シンイチの意見に賛成するわけにもいかない……
シンイチに無茶をされて死なれては困るのだ。だから私はこう言う事にした。
「まあ……君が危ない事を仕出かさない限り、君が何を考えていようと……口出しするつもりはないよ。
……今更言わなくても分かるだろうけど、君に死なれては困るんだ。なんとしても生き残って欲しい」
「……生き残る……うん。それは勿論だよミギー……」
結構。結構な決意だ。シンイチは必ず生き残らせる。私の生存のために……
「…………支給品って奴を調べてみるか」
シンイチは長い長い苦悩の時間を漸く終え、デイパックの中を探った。
中から出てきたのは、妙な機械、そしてボーガン。最後の一つはふざけた事に、トランプだった。
「トランプって……ひでえ」
「ボーガンは使えるな。この機械は何だろう?」
「……説明書がある……えっと……ドラゴンレーダー?」
シンイチが持つ説明書に私は目を伸ばし読む。
これを使えばドラゴンボールの在りかを探る事が出来るようだ。
これはかなりの当たりアイテムかもしれない。
ドラゴンボール集めをする者は、そのまま積極的に優勝を目指す危険人物が多いはずだ。
つまりこのレーダーでドラゴンボールを避けて行動すれば、危険は激減する。
「へ〜。これは役に立ちそうだな」
シンイチが呑気に呟いたその時、民家の影からかすかな物音が私の元へ届いた。
身体能力が発達したシンイチは気づいていないのか?しかし私は確かに聞いたぞ!?
民家の影から男の顔が覗いた。あの男……もしかして……
「やめろミギー!」
私がボーガンを構え、男へと照準を定めようとした瞬間、シンイチは私を掴み、妨害してきた。
何を考えているシンイチ?あの男は殺し合いに乗っているかもしれないのだ。
ボーガンを構え、警戒しておいて何の損があるというんだ。
シンイチは男に向かってへらへらと笑いかけている。
「だ、大丈夫ですよ〜!俺は殺し合いに乗ってません」
私はボーガンから手を離し、シンイチの耳へ向かう。
(おい!何考えているんだシンイチ!あの男が殺す気ならどうする!)
「うるさい!だからってあんな態度をとっていたら警戒されるだろ!?
殺し合いに乗る人間なんてそうそういるわけがないんだ!」
シンイチ……もう少し考えて動いてくれ……。
「ククク……こいつは驚いた……」
私とシンイチが揉めている間に、男が民家の影から全身を現した。
白髪の老人……この男はいったいどんな目的でシンイチの前に姿を現したんだ?
「飼っているのか……? 何かを……その右腕に……」
老人は不敵に微笑みながら確かにそう言った。
……私の存在が、気づかれたのか……?
(殺すなよミギー)
シンイチが即座にそう言った。
(お前はさっき言ったはずだぞ。生き残るには優勝しかない。
最終的に優勝するなら、この爺さんも死ぬんだから、お前の存在がばれても困る事はないだろ?)
へへん、とシンイチは静かに微笑みながら私に言った。
(まあ……確かにそうだけど……)
(この爺さんと協力出来れば生き残り易くなる、よな?)
シンイチ、ずる賢い事を言う……。まあこれくらいの事が言えるまで、精神を立て直したという事か……。
私はシンイチの言葉を咀嚼し、考える。まあ、確かにシンイチの言う言葉はもっともだ。
この殺し合いに参加させられた時点で、我々の命は今までにないくらいの危険にさらされている。
こんな状況になったのだから、今更私の存在がばれる事ぐらい……
どうせ私とシンイチ以外は最終的に死ぬ予定なのだから……
(分かったよ、シンイチ……。殺さない)
(……よし)
シンイチは老人の方へ向き直る。
「いやまあ、ちょっと慌てて変な動きしてしまいまして」
シンイチはへらへら笑いながら頭を掻いた。老人の目は鷹のように鋭く、シンイチを微笑みながら見つめている。
「あ、あの、俺は泉新一……このゲームには、『乗っていません』……あなたは……」
「赤木……赤木しげるだ……乗っているか乗っていないかって言うと……『乗っている』……というところかな……」
「…………え……?」
シンイチの体が硬直する。しかし私の用意は整っている。
赤木が何か不審な動きを見せれば、即座に首を切り落としてやる。
「俺の目的はこいつだ……とりあえずはこいつを集めたい……
ドラゴンボール争奪戦なるゲームに……俺は乗る……!」
赤木は上着のポケットから、オレンジ色の球体を取り出し、シンイチに見せる。
あれは主催者の言っていたドラゴンボールか。
「それって確か六つ集めて優勝したら主催者に挑戦できるっていう……」
「まあ……優勝したら挑戦できるかってのは……どうかは分からないがな……」
赤木は今までのシンイチと同じように、民家の壁にもたれ、座りこむ。
シンイチはそんな赤木を正面から見つめた。
「それってどういう……」
シンイチはぽかんと突っ立っている。まあ、確かに主催者の言葉はどこか曖昧だった。
優勝した者だけに挑戦権があるとは限らない。赤木はそう言う事を言っているのか?
「ククク……残念ながら俺は首輪なんてどう解除していいのかまるで分らないし……
優勝する体力もないんだ……だから俺は主催者の隙を突いて……
殺し合いが終わる前にさっさと勝負を仕掛けたい……!ドラゴンボール、そして命を賭けた死闘……!
まあ、あの男と戦ってみたいってのが素直な気持ち……かな」
シンイチは赤木の言葉を咀嚼し、答える。
「という事は……赤木さんも俺と同じ……反殺し合いの立場、なんですね?」
「ふふ……広義で言えばそうなるだろう。だが……俺はドラゴンボール集め、そして主催と接触する事を狙って動く……
お前の思っている事を俺に求めても……無駄だと思うぜ?」
「思っている事って……」
「俺は殺されそうになっている奴を助けるつもりもないし……自分のため……
主催者と勝負する事のみを目的に行動するつもりだ……もっとも、俺が早めに主催者に勝てばお前達も助かる事になるが……
自分からは、俺からは、お前が思っているような助けあいはおそらくしないという事だ……」
「そんな……」
シンイチの顔が青ざめる。赤木の事を勘違いしていたのだろう。
赤木は相変わらず余裕の表情で、シンイチの様子を窺っている。
(ミギー……どうしたら赤木さんをこちら側に引き込めるかな)
私に話を振って来るか……。私はシンイチ側ではないんだけどなあ。
これだけ大掛かりな事をする。主催陣に穴があるとは思えない。
生き残るためには、優勝するしかないと思うのだけど……。
(引きこめないと思うぜ。この爺さん、頑固そうだ)
(…………そこを何とかして……)
「新一よ……」
唐突に、赤木が声を漏らした。シンイチは慌てて赤木の方へ向き直る。
「ご託はどうあれ……正直に言うと……もう俺には時間がないんだ……おそらく、この『ゲーム』が俺の人生最後の勝負……
この大一番を逃したら、俺はもう全力で戦えない……これがぎりぎり、俺が本気を出して戦える最後の勝負なのだ……」
「最後って……」
「新一……」
赤木は深く息を吐いた。ドラゴンボールを弄り回しながら……。
「歳は取りたくないもんだな……俺は最近……年々衰えている……
だから、最後に……大勝負をしたいんだ……。殺し合い、こんな馬鹿げた事を考える主催者と…
一戦交えてみたいのよ……!ククク……この戦いで俺の命が尽きてしまうのなら……それはそれでいい……!
俺は俺として生きた……。この最後の勝負の中で、あくまで俺として死ぬのなら、それで本望……!」
「赤木さん……」
呆れた男だ。命よりも勝負を選ぶというのか。
今まで見てきた中で、こんな人間にあった事なんてない。普通では考えられない思考を、この男はする。
理解出来ない。この男は人間の精神と大きくかけ離れたところに居る。
このままでは……
「シンイチ……一つ頼みがある。お前がさっき独り言で口走っていた『ドラゴンレーダー』とやらだが……
それを俺に譲ってくれ。名前を聞けば、どういうものかだいたい分かる……
ドラゴンボールを探るレーダーだろう?」
「…………」
シンイチは握りしめていた説明書を開き、読んでいる。
確かに赤木の言うとおり、ドラゴンボールの位置を探る事が出来るレーダーのようだ。
「俺に譲るのが惜しいのなら、しばらく一緒に行動してくれないか……」
「…………」
シンイチは黙りこくっている。
(どうしたシンイチ……)
(ミギー、俺は……どうしていいのか分からない……
赤木さんは、殺し合いに乗ってはいないけど、ゲームには乗ってる……
俺達とは全然違う立場にいる人間だよな)
確かに全然違う人間だ。この男は、まるで狂気の中を生きているようだ。
同じ人間だが、シンイチとはまるで違う。赤木の精神構造は、生物の本能を超越しているとでもいうのか……
(シンイチ、あくまで私の立場で言うから、怒らないで最後まで聞いてくれ)
私はそう前置きし、シンイチを納得させるための言葉を紡ぐ。
(まずドラゴンレーダー、これを赤木に譲るわけにはいかない。
ドラゴンボールを探す人間は、赤木という例外を除いて、大半が殺し合いに乗っているはずだ。
ドラゴンボールの所に殺人鬼が集まるわけだから、レーダーを持っていれば危険人物を上手く避けれるだろう)
(はは……お前らしいよミギー)
シンイチは乾いた笑みを見せる。
(私としては赤木と共に行動しないで欲しいな。君にも伝わっていると思うけど、赤木はどこか異常だ。
死にたがりといえばいいのかな……。ともかく、現実問題、赤木はドラゴンボールを集める気だから、
危険人物に遭遇する確率も高いはずだ。私はレーダーを持った上で、赤木から離れるのが一番だと思う)
シンイチは頷き、ある程度納得した事を示した。
私はさらに追撃する。
(いいか?シンイチ。赤木を見捨てろ、と言ってるわけじゃないんだ。
君にしても、赤木と行動する事にメリットはない。赤木は殺し合いを止めるつもりはないんだ。
君とは考えが大きく異なっている)
(……ほんとお前は……生き残るためなら何でも言うなあ)
(だが事実だ)
シンイチは分かってくれただろうか。ここで赤木と行動すると言うのなら、私は何も言うまい。
言うだけの事は言った。
「少し考えを変えて、積極的に殺し合いを止めるというのなら、一緒に行動したいんですけどね……」
漸く口を開いたシンイチに対して、赤木は即座に返す。
「悪いな……俺は主催者と勝負したいんだ、新一」
「……どうしてもですか?」
「ああ…………こればかりは、駄目だ……俺はこの最後の勝負に乗らなければ……俺でなくなってしまうのだ……」
そうですか、とシンイチは言い、赤木に背を向けた。
赤木はそれでも冷笑を崩さず、シンイチの背中を見つめている。
「ククク……嫌ならいいさ……そのレーダーがちゃんと機能するとも限らない……
壊れているかもしれないからな……」
赤木が口を開く。シンイチはさよなら、と言って頭を下げ、赤木に別れを告げた。
(シンイチ、これで良かったのか?)
(お前の言ったとおり、仕方ないよ。赤木さんとは考えが違うし、一緒にいたら危険人物とばかり会っちゃうんだろ?
さっさと仲間を見つけたいからこれでいいさ……)
シンイチはそう言うと、歩き始める。海沿いの民家に赤木を残して、脇目も振らずに、まだ見ぬ仲間の元へ。
私は、赤木のしたり顔が、どうにも気になっていた。
▼ ▼ ▼
俺は赤木さんから離れ、早速ドラゴンレーダーのスイッチを入れてみた。
液晶に地図が映り、六つの光点が表示される。いくつかは動き回っている。
誰かが持っているという事だろう。
「……?」
俺はある事について疑問を感じた。
あれ?どういう事だ?
「ミギー、赤木さんって、ドラゴンボールを一個持ってたよな?」
「ああ。持っていたな」
ミギーが言っているんだから間違いない。じゃあどうして、どうしてなんだ?
赤木さんが何かしたのだろうか。ミギーが俺の動揺を察知して、何やら気にし始めている。
俺はミギーに向かって口を開いた。
「ミギー、ないんだ。このエリアにはドラゴンボールがない。
赤木さんがさっき持っていたはずなのに……」
ミギーはしばらく沈黙した後、なんだって、と言い、珍しく驚いている。
「赤木さんが言った通りこのレーダーって、おかしいのか?」
「主催者が配ったアイテムなんだから、壊れているなんてことはないと思うけど……」
「だったらこれって……どういうことなんだろ」
俺は困惑する。
正直、私はシンイチがドラゴンレーダーを引き当てた事を、かなり喜んでいた。
上手く使えば危険人物を避ける事が出来るからだ。
だが、どうして赤木のドラゴンボールを表示しないんだ?
壊れてる?それとも別の何かを表示しているとか……
「戻ろうシンイチ……赤木の所に。確かめないといけない。このままでは安心してドラゴンレーダーを使えない。
殺し合いなんだ。万全を期すべきだと私は思う……」
もしこのレーダーが別の何かを表示しているとして、私達を陥れる事を目的として配られたアイテムだとしたら……。
少々考えすぎかもしれないが、このままではこのレーダーは非常に使い難い。
赤木の元へ向かい、確かめるしか……もしかすると赤木に何かされ、レーダーを狂わされたのか?
その時、私に電流のようなある考えが浮かび上がった。
というより単なる推測だが、私達は赤木の所へ戻らざるを得ない。
レーダーが正確かどうか確かめるには、赤木のドラゴンボールを確認する以外に今のところ方法がない。
そして我々と赤木はたった今、仲違いをしてしまった。もはや仲間でも何でもない。
我々と赤木の利害は全く一致していないと言える。
『ククク……嫌ならいいさ……そのレーダーがちゃんと機能するとも限らない……
壊れているかもしれないからな……』
私は赤木が最後に言った言葉を思い出す。間違いない。この事態は、全てあの男が狙って起こしたもの……
だとするとなんという男だ……!赤木の言動からして、おそらく我々は赤木に何かされ、それでレーダーを狂わされてしまったのだろう。
いつの間にか私とシンイチは赤木に嵌められ、いいように使われてしまうのだ。
「ああ……分かった。面倒だけど、やっぱり確かめとかないとまずいよな」
「そう言うことじゃないぞシンイチ……!」
「……はあ?」
シンイチは私の言動を不思議に思っている。
「嵌められた……!あの男、レーダーが何故壊れたかの事実を使って、シンイチを強請るつもりだ!」
「な、なんで!?」
「いいから行け!走りながら教えてやる……!」
私がそう言うと、シンイチは戸惑いながらも走りだした。
海沿いの民家で、赤木はドラゴンボールを眺めながら、シンイチが帰ってくるのを待った。
シンイチには何かが潜んでいる。何か、シンイチをサポートしている何かがいる。
直感でしかないが、赤木はミギーの存在に気づきかけていた。
新一は、殺し合い打倒のようでいて、安全志向でもある。ドラゴンレーダーはさぞ重宝されるだろう。
争奪戦に乗り気で、殺し合いを止める事にいまいち関心のない赤木に興味がないようだが、
レーダーを狂わせてやれば別だ。レーダーに疑いを生じさせれば、ドラゴンボールを持っている赤木の元に確認のため、戻らざるを得ない。
レーダーによる絶対的安全性を取り戻すために、シンイチに潜む安全主義者の『何か』は必ず赤木の元へ戻る事を選択する。
赤木は口角を吊り上げる。狙い通りシンイチが慌てて戻ってきたからだ。
ドラゴンボールを集めたい赤木にとって、あのレーダーは何としても欲しい。
手に入らないまでも、何とかして利用したいところだ。
そこで、赤木はレーダーを狂わせ、シンイチを自分の元に戻らざるを得ない状況を作り出したのだ。
レーダーが狂った原因は赤木のみが知っている。赤木にしかレーダーにかけられた魔法は解けないのである。
この事実は取引に使える。赤木はそう考えていた。
新一よ……大切な大切なレーダーを取り戻したいのなら……俺と取引しようじゃないか。
レーダーを直してやる代わりに、お前にも何か、俺が望む事をして貰う……。それが条件……対等な条件……!
物凄いスピード゛赤木の前にやってきたシンイチに対して、赤木はそっと口を開く。
「ククク……新一。どうした?血相を変えて……」
「あ、あ、あんたがレーダーを狂わせたのか!」
「……ふふ、狂わせた覚えはないが、どうして狂ってしまったかは知っているぞ……」
シンイチは泣きそうな表情で赤木に向かってレーダーの液晶画面を見せつける。
「あんたはドラゴンボールを持っているはずなのに映ってない!
どうしてこんな事してくれるんだ!頼むから治してくれよ赤木さん!」
赤木はドラゴンボールを弄りながら、シンイチの言葉に応える。
「クク……直すのは簡単だ……だが俺とお前では目指しているもの……スタンスが違う……
敵でも味方でもないんだ…悪いが…ただでは教えてやれないな……」
その言葉を聞いた途端、シンイチは頭を抱え、「何なんだよこのおっさんは」と叫んだ。
シンイチは、そしてミギーは、おそらく赤木の取引に乗る。乗らざるを得ない。
正常なレーダーは大変役に立つが、狂ったレーダーなど、何の意味もないからだ。
ドラゴンボールを求める赤木の才気が生んだ取引。
レーダーが狂った秘密と赤木の出す何らかの条件。
この二つの事柄を交換する取引。それが今、始まろうとしていた。
「そうだな……まずこうしてみないか?
そのレーダーに表示されている……一番近くにある光点の元に……俺を案内してくれ……
光点の元に連れていってくれるなら……そのレーダーを直してやる……!」
赤木がそう言うとシンイチは呆れたような表情になった。
赤木はドラゴンボールを握りしめる。
オレンジ色の半透明の球体。その内部には、星が『8個』ある。
8個。本物のドラゴンボールは全部で七つ。それぞれ1〜7つの星が内部に存在している。
つまり、赤木の持つドラゴンボール、八星球は、偽物である。
賭朗が用意した、ドラゴンボールのダミー。赤木のみが説明書を読んで知っている。
このドラゴンボールは偽物なのだ。
────レーダーに映らないのも、当然の話である。
しかしその事実を知るのは赤木のみ。赤木は不敵に微笑む。
何も新一が憎いわけではない。この事実を使って、新一と取引したいというだけの話……
【F-7 海沿いの民家/一日目深夜】
【G-6 海沿いの民家/一日目深夜】
【名前】赤木しげる@天〜天和通りの快男児〜
【状態】健康
【装備】八星球(ダミードラゴンボール)
【持ち物】ディパック(基本支給品一式)不明支給品0〜2個(確認済みかも)
【思考】
1:新一と取引する。レーダーが狂った秘密を教える代わりに、新一に一番近くのドラゴンボールの所へ連れて行ってもらう。
2:ドラゴンボールを集めて主催者と勝負する。殺し合いが終了する前に、なんらかの手を使い早めに勝負したい。
ドラゴンボール争奪戦には乗るが、殺し合いに乗るつもりは今のところない。
※直感ですがミギ―の存在に気付きかけています
※参戦時期は東西戦編が終わった後です
【名前】泉新一@寄生獣
【状態】健康
【装備】ボウガン(矢8/8)@現実、ドラゴンレーダー2@ドラゴンボール
【持ち物】ディパック(基本支給品一式)トランプ@現実
【思考】
1:レーダーを直して欲しいので赤木と取引する?
2:何としても殺し合いを止めたい
【ミギーの思考】
1:レーダーを直して欲しいので赤木と取引する?
2:何としてもシンイチを生き残らせたい。なるべく危険な事には関わりたくない
※新一とミギーは、赤木に何かされた所為でドラゴンレーダーが狂ってしまったと思い込んでいます
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